書店の語学コーナーに行くと、斬新なタイトルがつけられた英語学習法に関する本がズラリと並んでいます。私は新しいものが好きなので、つい立ち読みしてしまいます。
そこで気がついたことがひとつあります。それは、ネーミングは違っても結局のところ「音読練習を否定している本は一冊もない」ということでした。
つまり、ほとんどの英語指導者は音読の効果を認めているということです。ただ、その方法が多少異なっているにすぎません。
小学生が長期間取り組めることを前提に、私の経験をもとに「英語音読トレーニングのやり方」をまとめてみました。まずは、私のやり方でしばらく試していただき、それぞれの状況に合わせてアレンジしてください。
小学生の音読に適したテキストとは?
小学生の音読トレーニング用のテキストを選ぶときは慎重にしましょう。中学生や高校生なら学校の英語教科書が最適です。しかし、小学生用の英語教科書は内容的にまとまりのある文章が少ないので不向きです。
お母さんが本や通信講座の題材などから探すしかありません。そこで、どのような観点で選べばいいのかを説明します。
おもしろい内容であること
結論からいいますと、圧倒的におもしろい内容であることが必要です。たとえば小学1年生の子どもに「環境問題」をテーマにしたテキストを使用しても、すぐに飽きてしまうのは明らかです。
普段、子どもが好んで見ている番組や本を思い出して、それに近い英語のテキストを探すといいでしょう。善悪がはっきりした登場人物や、動物や乗り物が出てくる話など、子どもによってハマるテキストはさまざまです。
続きが楽しみになるような内容なら音読を継続したくなるはずです。おもしろさには妥協しないで根気よく探しましょう。
セリフ(会話)と地の文が適度に混ざっていること
セリフと地の文が混ざっているテキストが、小学生の音読に適しています。セリフの部分には口語表現が多く含まれていますし、地の文ではやや難しめの表現や過去形が頻出します。
例えば、“It’s a piece of cake!” said Peter. (「簡単だよ!」とピーターはいいました)のセリフでは口語表現でよく使われる“it’s a piece of cake.”(楽勝だ)というフレーズが使われています。地の文では、“said”(sayの過去形)が使用されています。
このようにセリフと地の文が混ざっていると、バランス良く幅広い英語が学べるので音読には適しています。セリフのところには感情を込めて音読すると、感情と表現が結びついて学習効果が高まります。
難しすぎず、長すぎないこと
難易度にも気を使いましょう。絵や動画をヒントにしながら数回音声を聞いて、8割くらい理解できるのが理想です。つまり、2割程度わからない部分や聞きとれなかった部分が残るくらいがちょうどいい難しさです。
長さはノーマルスピードで読み上げて40秒くらいから始めましょう。集中力を切らさずにリスニングできる長さがそれくらいです。慣れてきたら少しずつ延ばしても大丈夫ですが、長くても1分くらいにしておきましょう。
音声、挿絵、動画付きであること
音読トレーニングをするときは、模範となる音声を何度も聞きます。したがって、ネイティブが収録した音声が絶対に必要です。車での移動中に練習できるように、スマホに音声ファイルを入れておくと便利です。
また、テキストに関連する挿絵も必要です。内容理解の助けになるからです。さらに、アニメーション(動画)がついていると、細かい部分まで理解することができます。
通信講座やeラーニング(インターネットを利用した学習サイト)の中には、動画(字幕ON・OFF)だけでなく、本文のテキストファイルや音声ファイルが用意されているものがあります。これらのファイルはダウンロードして自由に使えるのでとても便利です。
理想の音読教材を使った、音読によるリスニング強化はこちらを参考にしてください。
用意するものと環境づくり
音読トレーニングは習慣化しないと意味がありません。そのため、音読のたびに必要なものを探すようでは時間の無駄です。また、音読がどこまで進んだかをお母さんも子どもも一目でわかるようにする工夫が必要です。
ここではe-ラーニングの教材で音読することを前提に、用意するものを表にしてまとめてみました。
必要な物 | 目的 |
---|---|
パソコン、スマートフォン(またはタブレット)、プリンター | テキストの動画や音声を再生したり、印刷したりするため |
ストップウォッチ | 音読の速さを記録するため |
筆記用具 | テキストに記入できるように |
チェックリスト(ondoku_checklist) | 音読したらチェックしたり、秒数を記録したりするため |
小さなカゴ | 上記の物を入れておくため |
パソコン、スマートフォン(またはタブレット)、プリンター
スマートフォンかタブレットがあればほとんどのことはできますが、一部の機能に制限がある場合があります。また、ゲームアプリに気が散ってしまって音読に集中できないこともあります。
パソコンがあれば、eラーニングのサイトをフル活用できます。プリンターで印刷したものを使用すれば、気が散って途中でゲームを始めてしまうようなこともありません。
初めは動画や絵を見ながら音声を聞くので、パソコン・スマートフォン・タブレットのいずれかが必要です。しかし、子どもの眼の負担を考えると、途中からできるだけ紙で読んだ方が好ましいです。
プリンターが一台あると、モニターを見つめることなく音読練習できるのでおすすめです。また、後述する穴埋め式のスクリプト(原稿)を作ったりするときにも、パソコンとプリンターがあった方が便利です。
その他
ストップウォッチは安いもので構わないので、ぜひ揃えたいアイテムです。ときどき音読のスピードを測って記録すると、自分の成長を数値で実感できるからです。お母さんや兄弟と競わせるなどして、ゲーム感覚で取り組ませることも長続きさせるコツです。
筆記用具も音読用に揃えてもいいかもしれません。鉛筆、消しゴム、赤ペンがあれば充分です。音がつながるところに印をいれたり、意味をメモしたりするときに使います。
カゴに入れておく
百均の店などで小さいカゴを購入して、その中に今週読むテキスト(本)、筆記用具、タブレット、ストップウォッチなどを入れておきましょう。
また、音読チェックリストもこの中に入れておくと、既に終わったこととこれからやるべきことが一目でわかるので便利です。できた項目にはチェックを入れたり、タイムを測ったときの秒数を記録したりします。
なお、上記の音読チェックリストについては「こちら(ondoku_checklist)」からもダウンロードできます(上記と同じファイルです)。実際に使用するときは、子どもの状況に合わせてアレンジしてください。
実際の手順
ここでは、音読トレーニングの手順を解説します。私の経験から、1週間で1つの音読トレーニングを終了するサイクルが最適と感じています。短時間の音読でも頭と口が疲れるので、7日目は休みにしてあります。忙しくてどうしてもできなかったときは、7日目の予備日を使いましょう。
1週間に当てはめて下の表のようにモデルプランを考えてみました。スピードに慣れてくる後半ほど密度が濃くなるように配慮してあります。
音読メニュー | |
---|---|
1日目 | 内容把握 発音・意味のチェック |
2日目 | リッスン&リピート |
3日目 | オーバーラッピング スピードオーバーラッピング |
4日目 | イメージ読み シャドウイング |
5日目 | シャドウイング Read & Look Up |
6日目 | 穴埋め・ディクテーション 会話練習 最後1回のリスニング |
7日目 | 休み(予備日) |
また、それぞれの音読活動がイメージしやすいように、実際の音読練習風景の動画を掲載します。下記の説明や注意事項と合わせて映像で確認すると、スムーズに理解できます。
以下、このモデルプランについて詳しく解説していきます。なお、最後に動画でも解説しているので、そちらも参考にしてみてください。
1日目:内容把握、発音・意味のチェック
テキストを用意できたら、音声を再生してリスニングを始めます。動画・挿絵などを参考にして、どのような内容が話されているのか英語の音に集中させます。3回くらい集中して聞いてみて、聞き取れないところを少なくしていきます。
次にテキストや字幕を読みながら音声を再生します。耳で聞きとれなかった部分を文字で読んで「ああ、このことだったのか」と子どもが納得することが大切です。
初めて見る単語は、発音も意味もわかりません。まずは、発音を確認して、何度も声に出して読ませましょう。それから意味を確認します。「最初に発音、次に意味」です。新しい単語を覚えるときは、この順番を守らせるようにしましょう。
知らない単語については、ときどき子どもに前後関係から意味を類推させてみましょう。すぐに答えを教えずに考えさせると良い頭のトレーニングになります。
一日目の目標は、英語の本文を読んで内容を把握したり、知らない単語の読み方や意味を学んだりすることです。子ども一人では難しいので、お母さんやお父さんが手伝ってあげましょう。ストーリーを一緒に楽しむような感じで教えてあげるのがコツです。
この日の最後に、子どものペースでテキストを一回音読させましょう。つっかえながらでも構いません。ストップウォッチで時間を計測して、秒数を記録させます。これで、一日目の音読トレーニングは終了です。
2日目:リッスン&リピート
一文ずつ聞く(Listen)→ 音読で繰り返す(Repeat)の順に進めていきます。一つの文が長すぎるときは、意味のかたまりごとにリッスン&リピートしていきます。
例えば“Taking care of a pet is a lot of work.”(ペットを飼うのは大変です)という文章が長すぎると感じたとします。 “Taking care of a pet/ is a lot of work.”というように、最初にお母さんがスラッシュ(/)を入れてあげると子どもは読みやすくなります。
音声のスピード、抑揚などをできるだけまねるようにリピートさせてください。セリフの部分は特に登場人物の気持ちになりきって読むように伝えましょう。
3日目:オーバーラッピング、スピードオーバーラッピング
・オーバーラッピング
オーバーラッピングとは「被せる」という意味です。つまり音声と同時に被せるようにして、テキストを読んでいきます。読み方が遅いと、モデルの音声とどんどんズレるので、頑張ってついていくように子どもを励ましましょう。
・スピードオーバーラッピング
スムーズに読めるようになったら、さらに速く読めるように「スピードオーバーラッピング」の練習をします。これにはスマホの再生アプリを利用します。音声ファイルをダウンロードして、「1.3倍速」で同じ英文を再生してオーバーラッピングしていくのです。
毎回詰まってしまうところは、音声なしでテキストを読みながら何度も音読させます。最初から完全にできるのは教材がやさしすぎる証拠です。10回くらい繰り返してやっと読めるようになるくらいが普通です。
この日の最後に、音声なしで音読してタイムを測りましょう。初日よりは確実に速く読めるようになっているはずです。時間が短くなっていたら、「上手に読めるようになったね!」とほめてあげましょう。
4日目:イメージ読み、シャドウイング
・イメージ読み
3日目は速く読むことに集中させましたが、4日目の最初は内容をかみしめるように音読させましょう。内容を理解できるペースで音読させます。これができると英語の語順で内容を理解できるようになるので、速読やリスニングの土台づくりに最適です。
コツは読みながら頭の中にその文章の動画が流れているように音読することです。日本語の文字が頭に浮かぶようだと処理速度が遅くなります。
例えば“Taking care of a pet is a lot of work.”と読んだときは、ペットの散歩に汗を流している人を思い浮かべるようにします。「ペットの世話をすることは…」と日本語の字幕が流れてしまうと次々に読まれる英文に追いつかなくなります。
・シャドウイング
今度はテキストを使わずに、音声だけを使用します。「シャドウイング」とは、再生される音から3語ほど遅れて追いかけるようにして音読するトレーニング方法です。文字は見ません。
途中で詰まっても気にせずに、できるところから再開するように伝えましょう。耳で聞こえた内容を頭に2秒ほどためておき、同じように英語を話します。わずか数秒ですが、情報を頭の中に蓄えることにより処理が遅れてもあわてず英語を理解できるようになります。
初めのうちはほとんど再現できずに子どもは嫌になってしまうかもしれません。しかし、繰り返し練習しているうちに少しずつできるようになっていきます。あまり完璧を求めず集中力が切れたところでおしまいにしましょう。
5日目:シャドウイング(仕上げ)、Read & Look Up
・シャドウイング(仕上げ)
不思議なことに、前日できなかった部分が一晩寝るとスムーズにシャドウイングできるようになっていることがあります。数回、前日と同じように練習したら、仕上げのシャドウイングに移ります。
今までは音を聞いて、その通りに話すことばかりに意識を集中させていたと思います。しかし、仕上げでは内容をしっかりと意識したシャドウイングに挑戦します。
「音声から聞こえる英語の映像を思い浮かべる → 頭に2秒分溜める → 同じように話す」という流れです。これはとても脳に負荷がかかる練習方法で大人でも長時間続けることはできません。
子どもなので完璧を目指さなくても構いません。「音ばっかり追いかけないで、どんな話か思い浮かべながらやってみよう」と注意をうながすだけで充分です。
・Read & Look Up
最後に、テキストを使ったトレーニングです。まず、一文を黙読させます。その文章を頭にためておいて、目線を上に向けます。そして、下を見ないで同じ内容を音読します。これがRead & Look Upです。
もし文章の終わりまでが長すぎるようでしたら、リッスン&リピートのときに書き込んだスラッシュごとに行っても大丈夫です。
6日目:穴埋め・ディクテーション、会話練習、最後1回のリスニング
・穴埋め
もしテキストをプリントアウトできるなら、キーワードになるようなところを3つくらい選び出して、空欄を作ったり黒いマジックで塗りつぶしたりします。
そして、全文をリスニングさせながらその空欄部分の英語を記入させます。これまで暗記してしまうほど読み込んでいるので、簡単に記入できるはずです。それでいいのです。最初は全然わからなかったものが聞き取れるようになったので大きな成長です。
・ディクテーション
余裕があればディクテーション(聞こえた音声を文字で書く)にも挑戦させましょう。一つの文を選んで、リスニングをしてそれを紙に文字で書き取ります。句読点や大文字・小文字の使いわけにも注意しながら、完璧な文章を再現させます。
注意点は必ず一文の最後まで聞いてから、鉛筆で書くように伝えることです。一語一語一時停止しながら書き取っては意味がありません。何度か聞いて完成したら、テキストと見比べてお母さんが赤ペンで訂正します。どこを間違えたのかを目で確認するのはとてもよい勉強になります。
・会話練習
いよいよ大詰めのトレーニングとなりました。お母さんが先生となって、セリフの一部を入れ替える口頭作文にチャレンジさせてください。
例えば、先ほどの“Taking care of a pet is a lot of work.”の前半部分を入れ換えれば、英会話に応用できます。「『赤ちゃんの世話は大変だ』って英語で何ていう?」と問いかけます。“a pet”を“a baby”にすれば立派な英語です。
これまでやった音読が会話に応用できることを実感させるためにも、このような口頭英作文はとても効果的です。
・最後のリスニング
最後に1回だけ、静かにリスニングをしましょう。一週間前とは違って、ほとんど完璧に聞きとれるようになっているはずです。子どもと一緒に「聞きとれるようになって、すごいね!」と喜んであげましょう。
以上の流れをイメージしやすいように、実際の音読練習風景の動画を掲載します。上記の説明や注意事項と合わせて映像で確認すると、スムーズに理解できるでしょう。
まとめ
動画では椅子に座って音読学習をしていますが、実際はどこでも構いません。例えば、習いごとに行く途中の車の中で、音声を再生しながらオーバーラッピングやシャドウイングをしても全然構いません。
そうすれば「勉強」っぽく感じさせずに、子どもに音読トレーニングをさせることができます。家に帰ったら、他のことに時間を使えるので子どももお母さんもうれしいはずです。
このように家庭ごとに工夫して、音読トレーニングを習慣化しましょう。地味なトレーニングですが、ほとんどの英語の達人が推奨している効果抜群の学習方法です。必ず効果があらわれると信じて続けてください。