子どもが頑張って英語を勉強していると「実際に英語を使う機会を作ってあげたい」と思うお母さんもいるでしょう。資金や時間にゆとりがあれば、海外旅行や短期留学に参加させることもできます。しかし、現実にはなかなか難しい家庭が多いです。
「もう少し手軽に英語体験できるプログラムがあればいいのに」と思っていたお母さんに朗報です。2018年9月に東京版英語村であるTokyo Global Gatewayがオープンしました。
ここでは小学生から高校生までの子ども達が、閉鎖空間で半日~一日、英語「で」さまざまなプログラムに取り組みながら、幅広い教養と英語力を磨けます。
このTokyo Global Gatewayとはどのような施設なのかはもちろん、「この施設を利用することによって子どもの英語学習にどのような影響を与えられるのか」について説明します。
Tokyo Global Gatewayとは?
初めてTokyo Global Gateway(以下TGG)の名前を見たとき、私は「ん? インターネットの設定項目?」と思ってしまいました。実はこれ、構想段階では「東京英語村」というプロジェクト名でした。
わかりやすく例えると、子ども達が職業体験できる「キッザニア」がありますが、その英語教育版が「TGG」です。
TGG設立の目的
東京都教育委員会が主導してすすめられたTGGは英語を学ぶ子ども達のための教育施設です。2018年9月にオープン予定ですが、TGGのサイトを閲覧すると詳細を知ることができます。
プログラム監修者の松本茂教授によれば、英語を効率よく身に付けるには、PICサイクルに沿って学習することが大事。Pはpractice(個人学習)、Iはinteraction(対話型学習→学校の授業)、Cはcommunication(実践→TGG)の頭文字。これまで日本の英語学習にはCの部分が充分でなかったとおっしゃっています。部活動に例えるなら、普段の授業が練習に当たり、TGGは試合を担当します。試合に勝つことを目指すことで、毎日の練習方法は実践を想定してがらりと変わってくるように、児童・生徒の普段、英語に取り組む姿勢が大きく変わってくることを想定しています。部活動でも練習試合を多く組みますが、試合の場ほど技能の伸ばす機会はないでしょう。
*Tokyo Global Gatewayサイトより引用(太字は管理人が強調しています)
NHKの語学番組でもおなじみの松本先生(立教大学教授)に監修依頼をする気合の入れようです。引用の後半の太字で強調した部分に注目してください。
日頃の英語学習の成果を試す場所を提供するのがTGGの目的です。確かに試合のない練習だけの部活など、誰もやりたくありません。試合があることで、きつい練習も乗り越えられるし、そのスポーツの楽しさも感じられます。
使う場のない英語学習にも同じことが当てはまります。これまでは海外旅行や短期留学でしか、実践で英語を使用する場面はありませんでした。しかしこれからは、TGGがその場所を提供してくれます。英語学習中の子どもを持つお母さんも期待できそうです。
英語の試合が終わったら、練習(使うための訓練)が必要です。動画サイトを利用したリスニング学習法動画セミナーはこちらをクリック!
TGG設立の経緯
東京都が「英語村」に取り組んでいるニュースは、以前、私も見ました。いつ頃スタートしたのか調べてみると、2015年4月に東京都教育委員会が「英語村に関する有識者会議」を設置して検討を開始したようです。
ここから話し合いを重ね、参入企業の選定などを経て3年半後の2018年9月にオープンする予定です。行政が絡んだ事業にしてはスピーディーな動きです。2020年の東京オリンピックを意識してのことでしょう。
名称も英語村からいつの間にかTokyo Global Gatewayに変更されていました。「東京都で村って、桧原村みたいなイメージだな…」と思っていたら、ガラリとイメージチェンジをしてきたので正直びっくりしました。
場所は「東京都江東区青海2丁目4-32のタイム24ビル内」に決定しました。船の科学館や日本科学未来館のすぐ近くでゆりかもめ「テレコムセンター」駅から徒歩2分の場所です。
TGG、プログラムのベースはCLIL(クリル)
どのような観点からプログラムが提供されているのか気になったので、サイト内で公表されているTGGの特徴を一つひとつ見てみましょう。TGGオフィシャル動画を掲載します。
英語が飛び交う非日常な空間で成功体験が得られる!
TGG内の共通語はもちろん英語です。参加する子どもたちにはどこまで「ノージャパニーズ(日本語禁止)」を貫けるのかが見ものです。これはオリエンテーションの段階で、「英語を話すぞ!」という気持ちにさせられるかどうかにかかっています。
「エージェント」または「スペシャリスト」と呼ばれるイングリッシュ・スピーカーの力量も問われます。トイレに行きたい子どもは事前にフレーズを指導しておかないと、大変なことになりそうな予感がします。
児童・生徒 8 名につき 1 名のイングリッシュ・スピーカーがサポート!
プロモーションビデオを見ると、ネイティブだけでなくさまざまな国の人がイングリッシュ・スピーカーとなり、8人のグループを引率します。いろいろな国の英語を聞けるのはとてもいい経験だと思います。
1グループを8名にしたのも絶妙です。少なすぎると子どもからの発言が不活発になります。しかし、8名いれば一人くらいは引っ張ってくれる子どもがいるものです。全国から集まる知らない子ども同士で半日~一日過ごすのも楽しそうです。
小学生から高校生までさまざまなレベルに対応し、みんなが楽しめる!
英語習いたてのレベルから、かなりの上級者まで対応するようで素晴らしいです。ある程度の規模だからこそ、きめ細かい対応が可能になっています。児童と生徒が、事前に英語レベルを自己申告するのか、現地で測るのかは今のところ不明です。
英検は客観的に数字(スコア)で英語力を示してくれます。TGGを定期利用すると自分の英語力の伸びを主観で感じられます。英検の級が上がるのもうれしいですが、実践の場での実力の伸びを感じられるのは、また別の喜びがあります。
国際機関やグローバル企業、海外の団体などと連携したプログラムも用意!
プログラムを詳しく見ていくと、「国際問題について学ぼう」「グローバル・ビジネスを体験しよう」などと、世界的な企業や団体の協力を得ているものが含まれています。
中高生からは、身近な英語ばかりでなくグローバルな視点も大切です。こうしたプログラムは意識の高い生徒にはピッタリです。
英語教育の専門家が監修し、実践的かつ有効なプログラム!
TGGでは松本教授が監修し、CLIL(内容言語統合型学習)教授法をベースにして開発されたプログラムを提供しています。CLILとは、Content and Language Integrated Learningの頭文字で「クリル」と読みます。
CLILは新しい英語教育法で、理科や社会などの教科を英語で教える教育法です。イマ―ジョン教育と似ていますが、ネイティブが科目指導を目的として行うものはイマ―ジョン教育です。一方、CLILは「科目教育と語学教育の比率を均等に」行うものです。
簡単にいえば、施設内の体験型学習を通じて「幅広い分野の学習をしながら英語も身につけていく」内容です。学校や家庭で培った英語学習をベースにして、世の中のことを学んでいくことになります。
TGGの5つの特徴の評価できる点は、「学校・自習だけでは補えない分野に絞った」ことです。全国にも英語村と呼ばれるような施設はいくつかありますが、他とは一線を画したコンセプトは好感が持てます。
このような理想を追求するにはお金や場所、長期間安定的に運営する会社がなければ実現できません。あればいいなと思っていた空白部分に特化しているので、私は良い企画だなと感じます。
プログラムの詳細と利用料
TGGのプログラムはテーマ別に大きく2つのエリアに分かれています。それらは「アトラクション・エリア」と「アクティブイマ―ジョン・エリア」です。英語ばかりで、何だかよくわからないので、どのようなものなのかそれぞれ説明します。
アトラクション・エリア
アトラクション・エリアは海外旅行や留学などで想定される場面を意識していて、さらに4つのゾーンに分類されています(*画像はTGG公式サイトから転載しました)。
ファーマシー(薬局)を作ったのは評価できます。「熱が出た」「下痢」「咳」「のどが痛い」などの症状を英語でいえるのは、命にかかわることなのに学校英語では軽く扱う程度です。ここで学んでおけば、実際に海外の病院でも簡単に症状を説明できると思います。
スーベニアショップ(お土産屋さん)が個人的に気になります。ぜひ、値下げ交渉に立ち向かうタフな店員を常駐させ、ミッションの難易度を上げて欲しいです。
留学を想定したときの空間です。スクールオフィスとは事務室のことです。学校の手続きに関することで留学生はしばしば立ち寄ることになるので、これを発案した人は留学経験のある人だと思いました。
ここでのガイドは「エージェント」と呼ばれるイングリッシュ・スピーカーが担当します。
アクティブイマ―ジョン・エリア
こちらのエリアは英語で映像制作やビジネス・プログラムなどに挑戦するエリアです。こちらのエリアはまさにCLIL教授法を活用したプログラムです。TGGサイトからの説明文を引用します。
ここでは、グループで実験したり企画したりと共同作業を通じて、英語で専門知識を身につけられるプログラム(60 分/120 分)を体験。CLIL(内容言語統合型学習)の視点で開発されたプログラムもあります。専門的知識を身につけたスペシャリストを指南役に行われ、エージェントはサポート役に回って盛り上げます。
*TGG公式サイトから引用
具体的なプログラムを表にまとめましたので、ご覧ください。
身近なものから効果音を作り出そう | コマ撮り作品を作ろう | グループ対抗で頑丈な橋を造ろう |
理想の街をつくって紹介しよう | キャスター体験をしよう | プログラミングを体験しよう |
国際問題について学ぼう | 未来の名刺を作成しよう | ダンスパフォーマンスをしよう |
世界の料理をつくろう | 茶道で日本文化を学ぼう、伝えよう | 演劇をしよう |
グローバル・ビジネスを体験しよう | 東京の魅力を紹介しよう |
好奇心のある子ども達にとって、どれも魅力的です。「自分が子どもだったら絶対に楽しかっただろうな」と思える内容です。
それぞれのプログラムでは話し合わないとプロジェクトは進まないので、それぞれの実力のなかで精一杯英語を話すことが求められます。
利用料(学校利用)
施設の利用料は以下のとおりです。
日帰り | ||
---|---|---|
コース | 都内 | 都外 |
1日コース
(8:30-16:00) |
4,800円 | 6,800円 |
半日コース
(約4時間) |
2,400円 | 3,500円 |
東京都教育委員会が始めた事業なので、東京都の子ども達は優遇されています。
学校単位での参加または個人での参加
学校単位または個人での参加になりますが、予約が必要です。参加する時間によってコースは変わるので、TGGのサイトをご覧ください。
サイトに書いてある「セッション」とは、学校でいえば「〇校時」の意味です。半日コースの場合、どのセッションに参加するかで、時間帯は異なるので注意してください。
TGGへの期待
オープン前から、親として非常に楽しみです。早めに実際に子どもを参加させてみて感想を聞いてみたいと思います。今の段階で、私がTGGについて抱く期待と要望を述べます。
モチベーションアップを期待できる
英語無用論の背景には「英語を勉強しても日本ではあまり使わない」事実があります。多くの日本人がこのように感じてしまうことに、共感できる部分もあります。
初期の学習段階から定期的に「英語を実際に使う場面」を体験させることはやはり必要だと感じます。TGG設立目的の中にあった「部活でいうところの試合」の場を日本の英語学習者に与えられることはとても有意義です。
英語の練習(学習)ばかりでは確かにモチベーションは下がります。英語学習に停滞感が出てきたらこうした施設を利用して、モチベーションアップを図るのは大切です。
英語を学ぶ意味を考える機会になる
英語を学ぶのは英語を話すためではなく、英語で何かを学んだり仕事をしたりするためです。英語の4技能(リーディング、リスニング、スピーキング、ライティング)とはそれを実現するための手段に過ぎません。
日本の学校では英語「で」何かをする場面があまりにも少なすぎて、道具としての英語を意識できませんでした。そのためほとんどの学習者にとって、「受験のための英語」以外に英語を学習する目的がありませんでした。
しかしTGGのような施設に行けば、英語で何かをする体験ができます。体験に勝る学習はありません。「英検〇級取得」「〇〇大学合格」のための英語は通過点に過ぎないことを子どもに理解させるには最適な場所です。
海外旅行や短期留学より効果的な部分もある
海外旅行や短期留学のほうが、TGGのような施設よりもリアリティがあるのは確かです。しかし、海外旅行や短期留学は多くの人にとって気軽に利用できるものではありません。
まず、費用の問題です。比較的距離が近く物価の安いアジア圏に出かけても、親子2人なら20万近くはかかるでしょう。兄弟姉妹がいればさらにコストがかかります。
次に海外旅行に出かけても、子どもが英語を使う場面はほとんどありません。ホテルの人とのやりとりやレストランでのオーダーも普通は親がします。よほど周到に用意しなければ、子どもが英語を話す機会はほとんどないといってよいでしょう。
留学なら語学プログラムが組み込まれているので、英語を話す機会はグッと増えます。でも、英語の勉強だけであれば、普段の学校の授業とそれほど変わらないかもしれません。時事問題や興味深いトピックについて、英語「で」学ぶ授業はそれほど多くないでしょう。
最後に、治安や健康面の不安が残ります。どんなに気を使っていても、渡航期間中は保護者の心配は尽きません。英語ネイティブの国であるアメリカやイギリスまで行けば、時差が大きく体調を崩しやすい傾向があります。
以上のことを総合的に考えると、TGGの利用料はそれほど高いとは思いません。安心で便利な東京の施設内で英語体験ができるので、お母さんも利用しやすいと思います。
地方に住む家族はは夏休みなどを利用して「東京ディズニーランド」と組み合わせてTGGを訪れるのもいいアイデアです。遊びと勉強のバランスが取れて、有意義な旅行になるでしょう。
待機する親やチビッ子にも英語のフォローがあるといい
TGGの対象年齢は小学生~高校生になっています。キッザニアを参考に予想すると、保護者は子どもと接触できないと思うので、長い空き時間ができます。
近くで人気の温泉施設「お台場大江戸温泉物語」で過ごすのも楽しそうですが、子どもは英語で頑張っているので、保護者もそのような体験ができるといいなあと感じます。
また、小学生未満の兄弟姉妹がいる場合も、キッズ用の英語保育園のようなものがあると便利です。
全国にもある英語村
TGGは東京の英語村ですが、似たような施設は全国にいくつかあります。ここでは小学生でも利用できそうなものに限り掲載します。「東京まではなかなか出かけられない」人は近くの英語村を利用しましょう。
・OSAKA ENGLISH VILLAGE(大阪)
TGGのアトラクション・エリアだけを拡大したイメージに近い施設です。幼稚園の年中~大人まで利用できます。施設とプログラムはアメリカを意識したものになっています。
・キッザニア東京・甲子園 英語プログラム(東京、兵庫県)
おなじみの職業体験ができるキッザニアですが、英語に特化したプログラムも用意されています。「ナビゲーター」と呼ばれるイングリッシュ・スピーカーが子ども達と一緒に5つまたは3つのアクティビティを連続して回ります。
私の息子もクアラルンプールのキッザニアで一日過ごしたことがあります。Firefighter(消防士)の訓練中“Left, right, left, right, attention!”の掛け声に合わせて行進していて楽しそうでした。
まとめ
TGGのような英語村を上手に利用すると、子どもの英語学習意欲は大いに高まります。学校利用を待つだけでなく、個人でも積極的に予約して利用したほうがいいです。近所の仲良しのお母さんと一緒に出掛けても楽しそうです。
英語「で」仲間とコミュニケーションを取りながら、何かのプロジェクトを成し遂げる喜びは貴重です。同じようなレベルの子ども達が集まるので、極端に劣等感を感じることもなく過ごせます。
オープン後はなかなか予約しづらい状況かもしれませんが、機会があればぜひ子どもを連れて行きましょう。