1970年代、テレビで世界名作劇場が放映されていました。この頃私は幼稚園~小学生の子どもだったので「フランダースの犬」「あらいぐまラスカル」などを毎回楽しみにしていました。ストーリーを好むのは人間の習性かもしれません。
「英語の楽しいコンテンツなら、子どもも夢中になって英語を学ぶはず」と多くの人は考えます。実際、それは確かに正しいです。
しかし、現実には難しい問題があります。「楽しい」=「英語学習向き」とは限らないからです。ディズニーアニメは確かに楽しいし、大好きな子どもも多いはずです。ただ、使用されている英語は容赦ないネイティブ用のナチュラルスピードです。
なぜならそれらは英語学習者向けに作られているわけではありません。そのため気の利いた大人びた表現やギリギリの俗語が盛り込まれています。
「日本人の英語学習者に配慮されたおもしろいアニメがあったらな」と私もいつも思っていました。そこへ登場したのが「リトル・チャロ」です。さすがNHKだけあって、クオリティは素晴らしいです。
この「リトル・チャロ」を活用して、小学生でも英語を学べる方法を詳しく説明します。アニメ好き・動物好きの子どもならハマること間違いなしです。
「リトル・チャロ」の紹介
アニメ「リトル・チャロ」は2008年にNHKで放送された英語のアニメです。これは単なるアニメ作品とは異なり、英語学習のコンテンツとして活用できるように綿密に制作されています。
放送当時私もテレビで偶然見つけたときは「へえ、おもしろそう」とだけ思いましたが、それっきりでした。「リトル・チャロ」の再放送をきっかけにあらためてコンテンツを観ると「非常に優れた英語学習コンテンツ」だと感心しました。
平易な英語で制作されていますが、活用の仕方によっては初心者から中・上級者まで幅広く英語学習に利用できます。「中学生くらいのときにこんなコンテンツと出会えていたらもっと英語にのめり込めたのに」と私は今の子ども達をうらやましく感じます。
ストーリー
日本人の少年・翔太の飼い犬であった子犬のチャロは、アメリカ旅行から帰るときニューヨークの空港で迷子になってしまうところから話は始まります。
チャロは翔太に再び会えることを願いながら、仲間の犬たちとの交流を深めていきます。途中、笑いや涙の展開を織り交ぜつつ話は展開していきます。そしてついに、まったくの偶然から翔太の父にチャロは発見されて、無事、日本に帰国して翔太との再会を果たします。
主人公がかわいい子犬なので、小学校低学年の子どもも感情移入しやすいです。昔、私が子どもの頃テレビで見ていた「母をたずねて三千里」のような中毒性のあるストーリーです。最後は思わず泣いてしまう話です。
英語の特徴
使用されている語彙レベルは「中学校+アルファ」です。ナレーションと登場人物のセリフによって構成されています。もちろん、声優はそれぞれ異なる人が対応しています。
チャロ以外の登場人物はネイティブ・スピーカー(犬も含めて)なので、英語を流暢に話します。チャロは日本の子犬なので英語はそれほど得意ではありません。
使用されている英語は不自然ではない程度にゆっくりと発音されるため、リスニング初心者向けにピッタリの教材です。
アクティブ・ボキャブラリー(意味がわかるだけでなく、話したり書いたりするときに使える語彙)を増やしたい中・上級者にも学ぶところが多い教材です。限られた語彙の中でこれほど豊かに表現できることのサンプル集です。
英語が得意なお母さんは、ぜひ親子で楽しみながら英語学習に利用してみましょう。
一般的な映画(アニメ)と比較して英語教材として優れているところ
書店の語学コーナーでも、「DVDを教材にして英語を学ぶ」テーマの本は売れています。私も海外ドラマは大好きなので、これまでにも何度もこれらを利用して英語学習に役立ててきました。
しかし、いざ英語のアニメや洋画を英語初心者が学習に使おうとすると、問題が生じます。たとえば「アナと雪の女王」は一時期大ヒットして子どもも大好きなディズニー作品です。しかしながら、正直私でもすべての英語を聞き取れません。
英語圏(主にハリウッド)で制作されたアニメ・映画は、ネイティブ用に作られています。そのため会話のスピードは、英語を学習している日本人の子どもにとっては速すぎます。
また語彙レベルも学習者向けにコントロールされていません。子ども向けのアニメでも、英検1級レベルの単語が頻繁に登場します。さらに、省略表現や俗語表現も多く、学習教材としては使い勝手が悪いことが多いです。
英語音声がないシーンやただの絶叫シーンも多く、英語を学ぶときにいちいち飛ばすのは面倒です。
盲点なのは日本語字幕の内容は、英語のセリフを完璧にカバーしていないことです。字数制限があるため、短い日本語で「意訳」しなければいけないからです。そのため英文の細かい意味がわからずモヤモヤとした気分になることがしばしばあります。
また、同様に英語のセリフすべてが「英語字幕」として表示されるわけではありません。長すぎる部分は別の表現に置き換えられるのが普通です。
一方、NHKが英語学習者を意識して制作した「リトル・チャロ」はこれまで指摘した問題のすべてが解消されています。話される英語はすべて漏れなく字幕に表示されます。日本語の字幕も極端な意訳はなくて、ほとんどの英語のセリフを網羅しています。
語彙レベルは「中学校+アルファ」です。これは英語学習者用の英英辞書の定義で使用される語彙レベルとほぼ同じです。つまり、ここに出てくる語彙を充分に使いこなせれば、日常のほとんどのことは表現できる証拠です。
リトル・チャロは「ナレーションとセリフ」で構成されています。読まれるスピードは聴き取りやすい速さです。英語学習には速すぎても遅すぎてもダメですが、英語初心者向けに絶妙な速さを設定しています。
さらに使用されている英語は「完璧に正しい英語」であり、安心して英語学習に使えます。口語表現も「How come~?」など普通の表現ばかりで、子どもがまねしてもまったく問題ありません。
1話5分で構成されているので集中力は持続しますし、余計な無音シーンがほとんどないのも、学習効率を高めてくれます。
「リトル・チャロ」は英語学習者のツボを知り尽くして制作されているのがわかっていただけたでしょうか?
リトルフォックスというe-ラーニングサイトではリトルチャロのような動画教材が豊富に見られます。これを活用した学習法の動画セミナーはこちらで確認できます
「リトル・チャロ」はどうやったら見られるか
「リトル・チャロ」は再放送を待てば無料で見られますが、日本語字幕しか利用できません。英語学習には英語の台本(スクリプト)が必須です。
組み合わせとしては、以下のとおりです。
CD + テキスト
DVD(スクリプトは字幕表示を利用)
えいごで旅するリトル・チャロ(任天堂DS)
小学生でゲーム機DSを持っているなら、リトル・チャロのソフトを購入するといいです(評判も上々です)。テキスト+CDはすでに中古を探すしかないのと、子どもなら映像を確認したいと思うでしょう。
DVDを購入すれば、映像をテレビで楽しめて、英語字幕表示に切り替えればスクリプトも確認できます。
しかし、私は上記以外の方法で「リトル・チャロ」を観ました。それは高校生の娘が持っていた「電子辞書」でした。
おすすめは電子辞書の収録版
最近の電子辞書には、本来の辞書機能以外の「学習コンテンツ」が充実しているモデルがあります。その中に、「リトル・チャロ」を収録した電子辞書があります。
英語系の電子辞書の大手はカシオとシャープですが、全てのモデルに「リトル・チャロ」が収録されているわけではありません。実際に購入するときは、店頭で実物を手に取って確認したほうが確実です。
娘の持っていた辞書はシャープのBRAIN(PW-SH4)では、「リトル・チャロ」全話が収録されています。カシオのXD-G4800には確実に収録されています。
両者の違いは、シャープでは紙芝居風に収録(シーンごとの静止画)されているのに対して、カシオでは動画が再生できます。
小学生の子どもなら動画で見られたほうが楽しいかもしれません。一度、動画を観たことのある場合は、紙芝居風のほうが英語に集中できるともいえます。
では、なぜDVDではなく電子辞書で収録されたものが「英語学習におすすめなのか」について説明します。
おすすめの理由1:どこでも持ち運びができるから
英語学習を続けるコツは、「いつでもどこでも」することです。電子辞書は携帯に便利です(大きさを比較するために、スマホと並べて撮影)。イヤホンと一緒に持ち歩いていつでもどこでも「リトル・チャロ」で英語を学べます。
電子辞書には「前回のファイルを再生」というメニューがついています。これを利用すれば、直前に学習したエピソードを素早く再生できます。細切れ学習には不可欠な機能です。
DVDプレイヤーではテレビが設置してあるところでないと学習できません。どちらが英語学習を継続できるかは明らかです。
たとえば朝、学校に行く前に5分だけ「リトル・チャロ」を観るときに、お父さんがテレビでニュースを観ていても、電子辞書なら問題ありません。
おすすめの理由2:字幕表示の切り替えが一瞬でできる
DVDプレイヤーでも字幕表示の切り替えはもちろんできます。しかし、一時停止中に切り替えることはできません。再生中に字幕の切り替えボタンを押して、少し間が空いた後切り替わります。このわずかな時間が英語学習をするときはストレスに感じます。
一方、電子辞書の場合には一時停止中でも、言語を一瞬で切り替えられます(赤丸のボタン)。また、読まれている部分は赤い文字で表記されます(カラオケのように)。さらに、英語と日本語を同時に表示させることも可能です。この場合、該当する日本語訳はハイライトで表示されます。
欲しい情報を一瞬で入手できるのが、電子辞書収録版の優れているところです。
おすすめの理由3:セリフをタップすると、その場所から即再生するから
「リトル・チャロ」を英語学習に利用するときに、「音読練習」は欠かせません。そのときモデルとなる音声を何度も聞きながら、自分で声に出して練習しなければいけません。
DVDプレイヤーがもどかしいのは、聞きたい部分だけを繰り返しすぐに再生できないことです。「戻る」ボタンだけでは細かい頭出しはできません。
電子辞書の収録版では、スクリプトの部分をタップするとそこから「即」再生されます。これは大変ありがたい機能で、何度もモデルを聞きながら音読練習するのにうってつけです。
携帯性に優れ、字幕表示の切り替えやセリフがすぐに再生されるので、電子辞書の収録版「リトル・チャロ」はおすすめです。
すでに電子辞書を持っている場合や、DVDが家にある場合には、わざわざ「リトル・チャロ」が収録された電子辞書を買う必要はありません。しかし、もしまだ電子辞書を持っていなくてそろそろ買おうと思っているなら、「リトル・チャロ」が収録されたものがいいです。
小学生でも「リトル・チャロ」を攻略できる方法とは
では、「リトル・チャロ」を利用して、小学生でも取り組める英語学習法について解説します。ポイントは「何を目的にして」「どのように学習するか」です。
「リトル・チャロ」は平易な英語しか使われていませんが、ほとんどの小学生にとっては難しい語彙レベルです。無理にリスニングに取り組ませても、すぐにあきらめてしまいます。
私のおすすめは、「リスニング」ではなく「英文暗唱」です。セリフの一部を繰り返し「音読」して、あたかも自分が声優になったかのようにスクリプトを読まないでセリフを言えたら完成です。
「音読」する過程で、Reading「読む」、Listening「聴く」、Speaking「話す」の3技能をバランスよく鍛えられます。小学校高学年なら、最後の仕上げとしてディクテーションをすればWriting「書く」もカバーできます。
すべてのセリフやナレーションでこれをやるのは非現実的なので、一部に絞り込んで取り組んでみましょう。
チャロは日本の犬…だからやさしい英語しか話さない
設定上、チャロは日本の子犬なので、簡単な英語しか話せません。発音もわざと日本人っぽく演じられています。これに対して「正しい発音ではないので、教材としては不適格」と決めつけてしまう人がいますが、私はそうは思いません。
チャロの姿は子どもからみれば「自分」なのです。小学生がニューヨークで親と離れ離れになったようなものです。
NHKがチャロの発音を日本人っぽくしたのは、おそらく「親しみやすさ」を視聴者に与えて、共感させるためです。
チャロは、やさしい短い英語を日本人っぽく一生懸命に話しています。この部分に的を絞り、小学生の子どもに音読練習させるのは理にかなっています。正しい発音は、ナレーションや他の仲間の犬たちから学べばいいのです。
チャロはもちろん主人公なので、子どもの満足度も高いはずです。小学生なら、チャロのセリフに絞って、音読練習してみましょう。これが攻略のコツです。
意味を理解して、セリフの音読練習
ここからは普通の音読練習と同じです。まずはストーリーをしっかりと理解するところから始めましょう。意味のわからない英語を何度音読しても、学習効果はありません。
チャロはしばしば日本語を話したり、犬の吠える声で「Arf!」と叫んだりしますが、そこは飛ばしましょう。
最初のエピソードの頃は、片言英語の部分が多いので、小学生でも簡単にまねできます。エピソードが進むにつれて、きちんとした文章が増えていきます(チャロの英語力が向上していきます)。
小学生には未習事項の「過去形」や「現在進行形」が頻繁に使われていますが、小学生に細かい文法解説は基本的に不要です。そのまま英語を繰り返しまねることだけに集中させましょう。
英語を日本語にしてみる
ここでもう一度、英語を理解しているか日本語にしてみましょう。正確に訳すのが目的ではありません。およその意味でよいので、英語の大意を理解しているかどうかを確認します。
意味を言えない場合、単語を知らないか文法を理解していないかのどちらかです。単語を知らない場合は、お母さんが教えてあげてください。
ここまでの段階で、「正確に英語を聞けて・音読できて・意味を理解している」状態であることがポイントです。
オーバーラッピング、シャドウイング、日本語→英語
次は、実際のスピードに合わせて音読する練習です。チャロのパートの少し前から再生して、チャロの声と同時に重ねて音読します。これがオーバーラッピングと呼ばれる音読練習です。
慣れてきたら、再生速度を一段階速めてもオーバーラッピングできるように練習してみましょう。電子辞書にも再生速度を調節できるボタンがあります。
充分にオーバーラッピングをしたあとは、シャドウイングに移ります。「シャドウイング」とは、シャドウ(影)のように「読まれる音声より3語くらい遅れて音読するトレーニング法」のことです
このときに音ばかりを追いかけるのではなく、チャロのセリフの内容に意識を向けましょう。
大変疲れる音読トレーニングですが、1語1語ではなくかたまりで英語を処理できるようになります。リスニング力を高めるときの基礎となるトレーニングです。
シャドウイングの次は、日本語字幕を読みながら該当する英語を口に出して読む練習です。英作に時間がかかるのは、ここまでの口頭練習が不足しているからです。もう一度、オーバーラッピングに戻って反復練習しましょう。
一瞬で言えるようになるまでには、一般的に50回~100回程度の反復練習が必要です。
アニメに合わせて演じる&ディクテーション
今度は声優になってアフレコをするつもりで、映像を観ながらチャロのセリフを言いましょう。このときに棒読みではダメです。チャロの心情をくみ取って、息づかいまでまねるつもりで練習しましょう。
感情と英語表現を結びつける訓練をすると、実際に自分がそれと近い感情になったときに英文が思い浮かぶようにするためです。ここまでくれば、ほとんどゴールです。
小学校高学年の子どもなら、最後の仕上げとして「ディクテーション(書き取り)」にも取り組んでみましょう。字幕をOFFにして、チャロのセリフの部分だけを聞いたあと、紙に英文を書きます。句読点(ピリオドやカンマ)なども正確に書きましょう。
このように紙に書くと、あいまいに覚えていた綴りや文法事項を確認できます。最後は必ず字幕をONにして、英語に誤りがないか答え合わせをします。
チャロのセリフは少ないですが、徹底して音読するのはそれなりに大変です。エピソードによっては英語を話さずに「Arf!」だけのものもありますが、その場合は音読練習せずにストーリーを楽しめばいいです。
しばらくしてから音読練習をしたエピソードを再生すると、チャロの部分の英語はすべて聞きとれるはずです。英語の学習はこれの繰り返しです。楽しみながら続けられるようにお母さんはサポートしてあげましょう。
まとめ
アニメとして楽しめて、英語学習用のコンテンツとしても細かく配慮されている「リトル・チャロ」を使えば、小学生でも楽しく英語を学べます。
DVDなどで再生してもいいのですが、DSのソフトや電子辞書に収録されている「リトル・チャロ」を活用すると、英語学習の効率が飛躍的にアップします。
平易で比較的ゆっくりとした英語で話されていますが、小学生がリスニング教材として使うにはレベルが高すぎます。それよりも、小学生の子どもと等身大の主人公「チャロ」のセリフに的を絞って、音読練習したほうがいいです。
電子辞書の再生機能をフル活用しながら、いろいろな角度から繰り返し音読練習しましょう。ひとつのセリフにつき最低50回は必要です。
しばらく経ってそのエピソードを観ると、チャロの英語は完璧に理解できるはずです。それが音読による学習効果です。
「リトル・チャロ」はディズニーのアニメよりもずっと日本人の子ども向きのコンテンツです。子どもの英語学習がマンネリ化してきたら、「リトル・チャロ」を利用した英語学習にチャレンジしてみましょう。