英単語の暗記は誰にとってもつらいものです。私も中学校で初めて英語を習ったとき、曜日の英単語に苦労しました。Sunday, Monday, Friday, Saturdayは比較的簡単でした。しかし、Wednesdayになると発音されない「d」を入れることを毎回忘れてしまい、テストで間違えてばかりいました。
小学生が英単語を覚える場合は、大人が覚える以上に大変です。ここで苦しさしか感じないと英語学習が苦痛になります。そこで、ある程度暗記の困難を緩和するテクニックが必要になります。万能ではありませんが、何らかの助けにはなるはずです。
学習指導要領の中で小学校の英語では卒業時までに600語程度の単語力を身につけておくことが求められています。そこで、どうすれば少しでも効率的に子どもが英単語を増やせるのかについて解説します。
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小学生のための英単語暗記法
英単語学習は、文法学習と共に英語学習の核になるものです。よく言われる英語4技能(読む・聞く・書く・話す)はこの二つの知識をもとにして身につけることができます。これらの関係を図で表すと下のようになります。
お母さんによく観察して欲しいのは、知らない英単語に出会ったときに子どもが「どのようにその単語を調べて覚えようとしているか」ということです。簡単にいえば覚え方のステップです。
英語が伸びる子どもは、「読める(正しく発音)→意味がわかる→スペル(つづり)」の順番で知らない単語を覚えていきます。これまで個人指導も含めて多くの子どもを指導してきましたが、あとで英語が伸びる子どもはこのやり方を守っています。
まず、アクセントも含めて正しい発音でその単語を読めるように何度も口に出してブツブツ発音します。音を最初にマスターすると会話やリスニングで登場したときに使えるため、生きた知識になります。
最初に自己流の変な読み方(ローマ字読みなど)で適当に発話していると、あとで修正してもう一度正しい読み方を覚えなければなりません。最初から正しい読み方をマスターしたほうが労力は少なくて済みます。
次に、意味を調べます。ここはいろいろなテクニックを駆使して覚えるしかありません。テクニックについては後ほど解説します。これでもダメなら丸暗記が有効な方法です。
最後にスペリング(つづり)を覚えます。細かい話ですが、英語の得意な子どもはその英単語の発音をしながら、該当部分を紙に書くのが習慣づいています。
英語が伸びない子どもは知らない単語に出会うと、「意味→スペル(つづり)」のステップで単語を暗記しようとします。発音は無視するか、適当にローマ字読みをして流してしまうので、会話やリスニングで活用できる知識になりません。
知らない単語に出会ったら、意味やつづりよりも先に正しく発音できることを最優先にすることを子どもに習慣づけさせましょう。
究極の単語暗記法は反復すること
高校に入学したときのことを思い出してください。同級生と合うのは初めてなので、当然、名前と顔が一致しません。しかし、5月の連休前にはクラス全員の顔と名前は一致していたはずです。
この体験の中に、ボキャビル(語彙学習)の基本が隠されています。毎朝、担任の先生が点呼して、呼ばれた生徒は手を挙げます。授業中、先生が指名したらその子は返事をして答えます。子どもは胸に名札をつけているので、ひらがなが読めれば確認できます。
あなたは何度も顔と名前を一致させる作業を繰り返していたはずです。もちろん目立たない子や似た名前が複数いる場合は混乱しますが、確認作業を繰り返すうちに全員の顔と名前は一致するようになります。
英語のボキャビルの極意もまったく同じです。一日だけ一生懸命暗記しようとしても記憶は定着しません。英語が苦手な子どもほど、最初の1回で暗記をしようと試みますが特殊な才能がない限り覚えられません。
それよりも忘れることを前提に学習をするほうがはるかに現実的です。単語の綴り・読み・意味を一致させる作業を一定期間に何度も何度も繰り返す方が記憶は定着します。ですから究極の単語学習のコツは「90%以上の時間を復習に充てる」ことといえます。
小学生が覚えるべき英単語の一覧:おすすめ英単語帳
大学受験のときに、英語学習で単語帳を購入した経験のあるお母さんは多いでしょう。単語帳の役割を改めて考えてみると、「大学に合格するために必要な単語がわかる」ことです。
辞書にはたくさんの単語がありますが、すべてを覚えることはできません。そこで、「これさえ覚えれば何とかなる」という基準を与えてもらい、必要最低限の努力で英語の試験をパスできるためのツールが単語帳の役割です。
小学生が覚えておくと英語学習がはかどる単語が掲載されているのは、『ゼロからスタート 小学英単語』(安河内哲也著、Jリサーチ出版)です。
小学校の中・高学年向けに最初に覚えるべき600語が掲載されています。最初にイラスト付きで「いきもの」「果物」などのカテゴリーごとにイラスト付きで名詞が並んでいます。
次に動詞が掲載されていますが、原形だけでなく例文付きで過去形も紹介されています。英検4級では過去形について出題されるので、そのレベルまでは使用に耐えるつくりになっているのが好感が持てます。
最後に形容詞が紹介されています。本当に基礎的でよくつかわれるものが厳選されている印象を受けます。単語以外にも基礎的な英会話フレーズがあって、小学校の間はこれ一冊で充分間に合います。
単語帳以外の単語が大切な理由とは
単語帳は手元にあれば便利なのは確かです。しかし、ここに掲載されていない単語を「覚えなくてもいい」とか「重要ではない」と考えるのはやめましょう。
例えば、『ゼロからスタート 小学英単語』にはdinosaur(恐竜)という単語は掲載されていません。そのときに、「小学生は覚えなくてよい」と子どもにアドバイスをしてしまうとせっかく英単語を増やせる機会を台無しにしてしまいます。
私も含めてお母さん世代は中学校から英語を学びました。どうしても試験を意識した概念的な単語を多く覚えるようになります。ところが、実際の生活では日常的な単語のほうが重要です。
例えば指の名称(人差し指~小指)をすべて英語で言える人は意外と少ないです(正解は、the index finger, the middle ~, the ring ~, the little ~ or pinkie)。environment(環境)は知っているけれどこのような基礎的な単語がわからないのはバランスが悪いです。
学校英語だけでは身の回りの英語を網羅しきれません。「試験に出る・出ない」という狭い考えで単語勉強をすると実践的な英語力から外れてしまいます。歯磨き粉を意味するtooth pasteなどネイティブなら3歳でも知っている単語ですが、日本の中学生の多くはすぐに口から出てきません。
小学生の頃はテストに縛られないので、単語帳の枠にとらわれないようにしましょう。子どもが興味を持ったり気になったりしたなら、どんどん調べて教えてあげましょう。そのほうが豊かな英語力が育ちます。
小学生の英単語学習の難しさ
小学生で英語を学んでいる子どもの多くは、超初心者レベルです。大人が英単語を学習するのと異なり、特有の難しさがあります。その原因は主に、発音と文法に関するものです。
単語帳にはCDが付属していて、正しい英語の音を聴けます。また、電子辞書などを使用すると、正しい発音を再生できます。しかし、これだけでは小学生が正しい発音を学ぶことは難しいです。
例えば、telephone(電話)という単語を付属のCDなどで音を聴いても、正しい発音をできるようにはなりません。なぜなら、日本人の子どもならこの音を聞いたときに、脳内で「テレフォン」というカタカナに置き換えて処理するからです。
カタカナで「レ」と発音している限り「lかr」なのか、永遠にわかりません。phは本来【f】という上の歯を下唇に押し当てて息を吐きだす音ですが、カタカナの「フォ」で処理しているのでfoと書き間違える可能性が高いです。
この対策としては、正しい発音がある程度できるまでは英語の先生に指導してもらうのが一番です。英語の発音はフォニックス(音とつづりの法則)にある程度習熟すると、発音記号を読むことで独学でも単語学習を効率よく進めることが可能になります。
カタカナでルビをふるのがダメな理由
子どもの向けの教材では、英単語を読みやすくするためにカタカナのルビがふってあります。子どものためにカタカナのルビをふることに私は断固反対です。カタカナで発音すると、相手に伝わりませんし相手の発音を聞き取ることが難しくなります。
例えば、pencilを読むときに、無理やりカタカナをふると「ぺ・ン・スィ・ル」(4つの音)となります。ところが英語では、pen・cilの2つの音のかたまりで読まれます。ここに「音の数のズレ(差)」が生じる原因があります。
リスニングのときに「英語が速すぎて分からない」との悩みをよく聞きます。原因のひとつは、この音のかたまりの数の差です。日本人はカタカナで音を捉えていて音のかたまりは英語よりも多いのです。英語ではもっと少ない音のかたまりで一気に発話されます。
上の図のように、同じ3秒でも読まれる範囲は全然違ってきます。カタカナに慣れた日本人が英語を聞いていて処理できなくなるのは当然です。長めの単語や読みにくい単語が登場したら、音のかたまりで下線を引いてあげると子どもが読むときの助けになります。
また、英語は子音が連続する傾向があるのに対して、日本語は子音と母音が交互に現れます。例えば、 twelfth(12番目)の発音記号は【twelfθ】で、母音は【e】のひとつです。これをカタカナ読みで「トウェルフス」と読むと【towelfusu】となり、ネイティブが聴いてもまったく別単語にしか聞こえません。
話しても通じない、相手の話したことも理解できないような単語学習は時間のムダなので、カタカナ読みは絶対に避けるべきです。
文法の知識がないため単語学習が進まない
文法の知識不足も、小学生の単語学習の足かせになります。例えば、“We enjoyed the play.”のplayを「遊ぶ」とか「スポーツなどをする」と動詞として考えていると、いつまでたっても意味がわかりません。
この場合、the playと定冠詞のtheがついていることから、playは名詞であり「芝居」という意味になることがわからないと、文意があいまいなままになってしまいます。
文法の知識不足は別の形でも影響してきます。物語を読むと、過去形が頻出します。不規則動詞のwentを見て、すぐに「goの過去形だ」とは小学生は気づきません。
対策としては、単語リスト付の本や教材を使用するのがいいです。その文章での意味がそのまま掲載されているので、文法の知識不足による単語学習の効率の悪さが解消されます。
ドリル、プリントがオススメできない理由とは
私は小学生時代の勉強といえば、毎日の漢字練習を思い出します。一行に何個も同じ漢字を書かされて、本当に大変でした。思い返すと、あの練習をしているときは無言でした。ドリルやプリントをするときは無言で取り組む習慣が身に染みています。
英単語を学ぶときに、ドリルやプリントをおすすめできない理由はまさにこれです。黙々と紙に単語を書いても、正確な発音をする機会がないために実践で活用できないからです。声に出しながら取り組むならいいのですが、染み付いた習慣はなかなか変わりません。
単語カードは昔から定番の英単語暗記ツールですが、これも小学生にはおすすめしません。そもそも書くスピードが遅いので、カード作成に膨大な時間がかかります。これなら単語帳を音読しながら学習したほうが圧倒的に効率がよいです。
このように小学生は英語に関しては超初心者なので、英単語の暗記に関して大人以上に注意が必要です。雪だるまづくりと似ていて、最初ほど大きくするのは難しいのです。少しでも最初の負担を減らすために、小学生に有効な英単語の暗記法を紹介します。
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小学生の英単語暗記法
英単語の丸暗記は確かに苦痛です。そこで、その苦痛を半分程度に抑えるために、巷でいわれるいろいろな方法をすべて試してみましょう。具体的には、語源や外来語を利用したり、多読を積みながらさまざまな文脈で使用される単語を覚えていく方法です。
長い間英語学習を続けた私が断言しますが、「英単語をすぐに覚えられるたった一つの方法」は存在しません。手を変え品を変え、少しでも暗記の負担を減らすのが最も有効な手段です。もしそのどれもが通じなければ、最後は丸暗記が最も有効です。
そこで、丸暗記の量を少しでも減らしてくれる代表的なテクニックと注意点について、詳しく説明します。
語源で覚える
漢字の部首のように、英単語にも意味のあるパーツで構成されているものがあります。例えば接頭辞(単語の頭について意味を添えるもの)にex-が付くと、「外に」という意味になります。
この知識を利用すると、explode(爆発する)やexhale(息を吐きだす)などを比較的簡単に暗記できます。反対を意味するun-を活用すれば、unhappy(不幸な)を簡単に覚えられるなど、語源の知識は知っておいて損はありません。
しかし、語源の知識は万能ではありません。例えば、money(お金)には暗記に役立つ語源はありません。辞書で調べると「ローマで最初の貨幣が女神ユノ=モネタを司る神殿で鋳造されたから」とわかりますが、単語を覚えるのには何の役にも立ちません。
カタカナ語(外来語)を活用する
日本語は外来語が氾濫しています。私の目の前にあるパソコン雑誌を適当に開くと次のようなカタカナが見つかりました。
- アップデート update(~を最新のものにする)
- スマート smart (賢い)
- タップ tap (コツコツとたたく)
- アイコン icon (アイコン、像)
- フォルダ folder (紙を挟む厚紙)
- ページ page (ページ)
日頃から本や新聞を読む習慣のある小学生なら、カタカナの知識を英語に活かさないのはもったいないです。日頃から日本語を読んでいて意味があいまいなカタカナに触れたらすぐに調べる習慣をつけておきましょう。
この積み重ねがあると、英単語を覚えるときにも確実に役に立ちます。ただし、2つ注意しなければいけないことがあります。それは、和製英語と発音です。
和製英語とは、日本人が勝手に英単語を並べて作り出した言葉で、英語圏の人には通じない単語です。有名なものには、「アルバイト」「マンション」「ナイター」などがあります。
これらは正しい英語では「part-time job」「condominium(mansionは大邸宅の意)」「night game」となります。これらの和製英語には気をつけなければいけません。
また、発音については「カタカナ」は無視しましょう。特に2重母音(【ei】【ou】など)は、日本語のカタカナでは「ー(音引き)」で処理されることが多いです。
例えば、majorは正しい発音は「メイジャー」ですが、日本語では「メジャー」と表記・発音されるため、まったく参考にはなりません。
カタカナの意味の知識は活用しつつ、発音は丁寧にオリジナルの英単語を調べることが大切です。
多読で覚える
多読により語感が研ぎ澄まされるのは確かです。これはいろいろな文脈の中で使用される単語に触れるからです。
例えば「彼女は鏡をバッグから取り出した」という文章で “She took a mirror out of her bag.”と書いてあったとします。「から」ですぐに思いつくのは「from」です。しかし、ここでは out ofが使用されています。
日本語ではあいまいに処理されていますが、箱やバッグの中にあるものを取り出す場合の「から」は「out of」が正解です。「from」ではもともと中にあったというニュアンスが伝わらず変な意味になってしまうからです。これは、単語帳からは学べない貴重な知識です。
多読の経験を重ねると、多義語についても学べます。多義語とは「たくさんの意味や用法がある単語」です。一つの単語で複数の意味を持つので、単語帳で暗記するには不向きな単語です。
多義語を攻略するにはいろいろな用例に触れて実際に使いながら覚えるしかありません。tellという動詞は文脈によって意味や使い方が異なる単語です。
この単語の全体像を捉えるには異なる文脈での使われ方を見ていくしかありません。単語学習の観点からは多読は単語数を増やすのではなく、言葉のイメージを豊かにしていく効果があるといえます。多読で単語を覚えようとするのは非効率です。そもそも本を読める前提として9割以上の単語を知っていることが条件だからです。
しかし、単語帳で覚えた意味を実践で思い出す訓練や、ストーリーと関連づけて印象的な単語を覚えやすくする効果はあるので、多読は大切です。
以上、英単語を楽に覚えるコツを3つ(語源の活用・カタカナの知識・多読)を紹介しましたが、現実的にはこれらをすべて試してみることが肝心です。それでもダメなら、最後は根性で丸暗記するのが最後の手段です。英語学習の辛い部分ですが、長期的な視点に立って子どもをサポートしてください。
スペリングは「ぶつぶつライティング」で覚える
単語学習の仕上げとして、スペリング(つづり)について触れたいと思います。小学生の間は書けなくても問題ありませんが、中学校では英語の試験が始まり英単語を正確に書くことが求められます。
そのため、小学生のうちから少なくとも「正しいスペリングの覚え方」を身につけておくことが大切です。私のおすすめは「ぶつぶつライティング」です。これは声に出しながら、英単語を書く方法です。
例えば、mouth(口)を書くときは、【mau】と声に出しながらmouとつづります。声とスペリングを同時にすると、「ouはアウと発音するのか」と確認できます。
【th】を舌先を上下の歯に軽く挟んで息を出すことで発音しながらthとつづると、thの文字を見るとこの音を出すようになります。もしいい加減にカタカナの「ス」と発音していると、ネズミを意味するmouseと混同する可能性が出てきます。
英語が苦手な子どもほど黙々と英語を書いて覚えようとします。正しい発音でつぶやきながら書くだけで、英単語のスペリングは驚くほど正確に覚えられるようになります。ぜひ、子どもにぶつぶつライティングを習慣づけさせてください。
まとめ
小学生にとって英単語の習得は本当に大変です。しかし、英語力の核となる部分なので、正面から取り組む必要があります。
小学生が最低限覚えるべき英単語の一覧として、英単語集を手元に置いておくといいです。ただし、それ以外の単語学習にブレーキをかけないように注意しましょう。
辛い丸暗記を少しでも減らすために、語源やカタカナを活用したり多読を積むのは良いアイデアです。しかし、万能は暗記法は存在しないので、これらの方法がうまくいかないときには丸暗記の努力も必要です。
中学校に進めばスペリングも大切になるので、ブツブツつぶやきながら英語を書く習慣を小学校のときから身につけておくと有利です。簡単にできるので試してください。
単語に関しては、単語帳を開いて学習するだけでなく、あらゆる機会を通じて英単語を覚えようとする姿勢が大切です。町の看板、本で読んだ意味の分からないカタカナなど気になったら調べる好奇心と行動力を子どもが身につけると、英語力は加速度的に向上します。