欧米で教育を受けた帰国子女は日本に帰国すると「(年齢の)上下関係や先輩後輩の感覚を理解できない」といわれますが、これは本当です。欧米では相手が自分より年上か年下かはあまり意識しません。
この文化的な違いは、英単語にも表れています。例えば、子どもでも知っているbrotherとsisterです。便宜上、日本語では「兄弟」とか「姉妹」と訳されています。しかし、お気づきのとおり、brotherとsisterには年上・年下の区別はありません。
brotherとsisterを使用していて、使いづらさを感じるのはこれが原因です。このように英語と日本語で1対1に対応していない単語はたくさんあります。
その他にも、英語を話すときに性別がわからないと迷ってしまう場面があります。性別がわからないbabyやpetの代名詞は、he/ she/ itのどれが適切なのでしょうか?
今回取り上げた単語はどれも子どもでも知っている単語ばかりです。お母さんがときどき子どもに英語の雑学を教えてあげると、子どもの知的好奇心を刺激できます。
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「兄弟(姉妹)はいる?」と聞きたいときはどうするか?
「日本語を介さずに英語を話しなさい」というアドバイスをしばしば見かけます。私は学生時代からずっと英語を学んできましたが、正直未だにこの境地には至っていません。
確かに“Thanks.”レベルの表現は、すぐに口をついて出てきます。しかし、普通に何かを話すときはほんの一瞬でも「日本語」で内容を考えています。
「日本語で考えない」に縛られすぎるとかえって英語が出てこなくなります。だから自分の子どもにはあまりヒステリックに「日本語で考えるな」とは強制しないようにしています。
ただし、名詞に関しては「物のイメージ→英語」で覚えるほうがいいです。
つまり「apple=リンゴ」ではなく、図のようにイメージと英単語をダイレクトに結びつけるのです。あとで日本語の「リンゴ」であると結びつけるのはOKですが、わざわざ日本語を間に挟んで記憶する必要はありません。
ところが英語と日本語は常に1対1で言葉が対応しているとは限りません。このタイプの単語を学ぶときは、日本語と比較しながら「重なる部分」と「重ならない部分」を確かめたほうが英語を深く理解できます。
子どもでも知っている単語の中にもそのような単語はたくさんあります。ここではbrotherとsisterについて取り上げます。
日本語の兄弟姉妹と英語のbrother & sister
日本語の「兄・弟・姉・妹」は男女を区別するだけでなく、年上・年下の関係も明確に示しています。アジア圏の上下関係を重んじる文化を感じます。
男 | 女 | |
---|---|---|
年上 | 兄 | 姉 |
年下 | 弟 | 妹 |
ちなみに日本語で「兄弟はいますか?」と質問されたときに、「はい、妹がいます」と答えても不自然ではありません。これは「兄弟」が「姉妹」の意味も含めて使われているからです。
次に英語のbrother/ sisterは男女を区別はしていますが、年上・年下は同じ扱いです。これを表で表したのが下です。
男 | 女 | |
---|---|---|
年上 | brother | sister |
年下 |
英語で日本語と同じような意味で「兄弟(姉妹)はいますか?」と質問する場合、“Do you have any brothers or sisters?”となります。何だか面倒です。
さらに“Yes, I have a brother.”と相手が答えた場合、兄なのか弟なのかはっきりしません。年齢の上下を区別するときには、年上にはelderを年下にはyoungerをつけなければいけません。
男 | 女 | |
---|---|---|
年上 | elder/ big brother | elder/ big sister |
年下 | younger/ little brother | younger/ little sister |
*big brotherとかlittle brotherと表現することも多いです。
elderとよく似た単語で同じ形容詞のelderlyは「お年寄りの」の意味になります。私は勘違いしてelderとelderlyを混同していた時期がありました。紛らわしいので間違えないようい気をつけましょう。
英語にもあった! 「兄弟姉妹」を表す1単語とは
実は英語にはbrotherとsister以外にも「兄弟姉妹」すべてを網羅する便利な単語があります。それはsiblingです。
男 | 女 | |
---|---|---|
年上 | sibling | |
年下 |
ご覧のように、たったの1語で済ませられるとても便利な単語なのです。しかも日常的にかなりの頻度で使用されています。
「兄弟はいますか?」の質問をsiblingで作文すると次のようになります。
だいぶ簡単に表現できます。
他にも何かの書類で“siblings”という記入欄を見たことがあります。かなり浸透している言葉なので、海外に行く機会のある人は知っておいたほうがいい単語です。
私が最も頻繁にsiblingを目にしたのは、インター校での保護者宛のメールでした。学期の最後のお迎えのときの注意にはこのようなメールが来ました。
Older children will be asked to sit with their younger siblings. So when you drive through, the location of your youngest child should be where you stop to collect.
(年上の子どもは年下のきょうだいと座るように指示されます。だから車で来られるときは、一番年下のお子様の場所があなたが子どもを拾う場所です)
siblingは決して特殊な単語ではありません。子どもがbrotherとsisterを覚えたら、ついでにsiblingも教えてあげましょう。男女の区別をしなくてよいので、きっといろいろと役立つ場面が出てくるはずです。
babyの代名詞も難しい
簡単な英語なのに、いざ話そうとすると考えこんでしまうときがあります。
学校に子どもを迎えに来ると、知り合いのお母さんがかわいい赤ちゃんを抱っこしていました。ベビー服を見ると白のベビー服なので「男の子か女の子か」わかりません。
そこで「男の子ですか、女の子ですか?」と質問するときに、ふと止まってしまいました。
Is ( )a boy or a girl?
文法的には簡単なbe動詞の疑問文です。問題は( )の中は「he/ she/ itのどれが適切なのか」です。
参考書ではbabyの代名詞は、性別がわからないときはit、それ以外はhe, sheで受ける
文法の参考書では「babyの代名詞は、性別がわからないときはit、それ以外はhe, sheで受ける」と書いてあります。
しかし、いざ赤ちゃんを抱っこしているお母さんを前に、性別がわからないからといって「it」を使うのがはばかられたのです。試験の解答用紙には躊躇なくitと記入できます。ところが、実際の場面では「失礼になるのではないか」と不安で言えませんでした。
しばらくすると別のママ友が“How cute! Can I hold her?”と近寄ってきたので、「女の子か!」とわかったので、そのあとは普通に会話できました。
itは奥の深い代名詞
文法上はitで間違いないのですが、やはり人間の感情としてかわいい赤ちゃんにitを使うのは気が引けてしまいます。このへんの微妙な感覚をいつかネイティブの人に聞いてみようと思っています。
冷静に考えれば、代名詞を使わずに“Is your baby a boy or a girl?”と聞けばよかったです。
そういえばスティーブン・キングのホラー小説に『IT』があります。2度映画化されて私も観ました。弱い子どもにしか見えない不気味な存在の「何か」は確かに「IT」でしか表せません。
このようにitには明確に既出の名詞を指す場合と、正体不明の何かを示すために使われる場合の両方があります。
ペットも同じ
赤ちゃんと同様に、ペットの場合も「性別がわからないときはit、それ以外はhe, sheで受ける」ルールが適用されます。
しかし、ペットを溺愛している飼い主に向かって、「it」とはなかなか言えないです。「モノ」の響きがあるからです。こういうときは主語を省略して「男の子ですか、女の子ですか?」と聞ける日本語は便利だなと感じます。
代名詞について子どもに教えるときに、ゴリゴリの暗記をさせるとすぐにあくびをし始めます。しかし、このような話を織り交ぜながら考えさせると、日本語と英語の違いについて理解を深めることができます。
まとめ
「brotherとsister」は英語習いたての子どもでも知っている単語です。しかし、日本語の「兄弟と姉妹」という訳語にはぴったりと一致していません。なぜなら、上下関係がわからないままだからです。
この違いに着目すると、その言語を使っている人達の文化が見えてきます。日本は人間関係において年齢を重視しています。一方、欧米の人達は日本ほど相手の年齢を気にしていません。だから区別する必要が薄いのです。
ところで、英語には兄弟姉妹すべてを包括した単語があります。それはsiblingです。決して特殊な単語ではなく、日常会話でもしばしば使用されます。
人を表す代名詞の場合は男女の区別をします(he/ she)。しかし、性別がよくわからない赤ちゃんやペットに対しては、itを使うことがあります。知識としては正しいのですが、いざお母さんや飼い主の前でitと言おうとすると、抵抗を感じてしまいます。
itは短い単語ですが、英語と日本語の違いを知り文化的な差異に気づかせるきっかけになります。
英語を勉強として捉えて、ワークブックばかりやらせると子どもは英語を嫌いになってしまいます。しかし、おやつの時間などに、子どもにこのような話をしてあげると言語や文化に対する興味を惹くことができます。