私の知り合いに資産家の人がいます。彼は普段、質素な生活をしていて行きつけのレストランのポイントをマメにため込んでいます。車も時計も持っていないし、服装もいたって普通です。
そんな彼がよく口にするのは「モノではなくて経験にお金を使う」ということでした。
しかし、ときどき子どもを連れて海外の変わった場所に行き、いろいろな体験をさせています。たいていの物は古くなると価値が減りますが、経験は一生の財産となります。
私も彼に賛同するところがあり、マレーシアに家族で3年半住んでいたのも、子どもに海外での生活を経験させたかったからです。
マレーシアは近隣のアジア諸国にアクセスが良く国内旅行並みの料金で海外旅行に行けます。我が家も当時、子どもの長期休暇を利用してシンガポールやベトナムを旅行しました。
帰国後はどこも出かけない家族になってしまいましたが、行ったことのある国をテレビで見ると想い出話に花が咲きます。
お子さんが英語を学習中なら、海外旅行は英語のモチベーションアップの絶好の機会です。しかし、何も考えずに出かけると英語を使わずに旅行が終了することがほとんどです。
今回の記事では、子連れ海外旅行で子どもの英語モチベーションを上げるコツを紹介します。また、その経験から得られる英語以外のことについても詳しく説明します。
Contents
海外旅行では、子どもに英語体験をさせよう
日本国内で英語を話す場面はほとんどありません。そのため教科として英語を捉えていたり、受験に必要という理由だけで勉強していたりする子どもは多いです。
しかし、英語は「コミュニケーションに必要な道具」以外の何物でもありません。人に自分の希望や意見を伝え、相手の考えを理解するための道具です。この一点を小学生時代に理解できるだけでも、そうでない子どもと比較して大きなアドバンテージとなります。
外国で英語を使って生活している人たちを見ると、帰国後の英語学習に対する意識は確実に高まります。中学・高校で受験勉強をしても、その先に「コミュニケーションの道具としての英語」が見えていて、一段高い目標設定ができるからです。
海外旅行中、子どもに英語を話す場面を意図的に作ることをおすすめします。そして、「ボク(ワタシ)の英語が通じた!」という喜びを実感させてあげましょう。この小さな成功体験が、その後の英語学習の起爆剤になります。
海外旅行中は、子どもはほとんど英語を話す機会がない
残念なことに、旅行中、子どもが英語を話す場面はほとんどありません。家族で海外旅行に行ったことのあるお母さんなら同意してくれるはずです。子どもはビクビクして親から離れず、ひと言も英語を話そうとしません。現実はこんなものです。
我が家の初海外旅行での出来事を紹介します。ランチで庶民的な食堂に行きました。自分で食べたい屋台に行って注文するシステムです。妻と申し合わせていた私は、自分達だけ先に注文して何食わぬ顔をして食べていました。小6の娘は腹ペコです。
娘「私たちのご飯は?」
私「自分で注文するシステムだから、好きなところで注文しておいで」
娘「英語がわからない」
私「“Can I have~?” で通じるよ」
娘「…お腹空いてないから要らない」
私「あっ、そう」
私の麺のスープからはおいしそうな湯気が立っています。しばらくすると、さすがに空腹に耐えられなくなったのかお店の方へ歩いていき、いろいろやり取りしている様子でした。
数分後、ワンタンメンが運ばれてきて、娘はおいしそうに食べています。
私「それ、自分で注文したの?」
娘「そうだよ。ちゃんと注文できた。これ、おいしい!」
これ以降、どこへ行っても子どもだけで好きな料理を注文できるようになりました。ローカルの人に挨拶したり、お店で買い物をしたりするのも平気になりました。中学生になって英語を学ぶようになると、習った表現を積極的に使っていました。
このようにして、我が家では娘の「外国人に緊張してしまう病」を克服させることに成功しました。しかし、振り返るともう少しスマートな方法があったのではと反省しています。
そこで、初めて家族で海外旅行に行くお母さんのために考えた「子どもに英語を使わせるための2つの作戦」を紹介します。海外旅行に行く予定のあるお母さんは参考にしてください。
子どもと行く海外旅行ではあえて小規模宿泊施設B&Bを選んでみる
一つ目の作戦は、大きいホテルではなくB&B(Bed and Breakfast)に泊まることです。B&Bは一般の住宅の一部を宿泊客に提供し朝食が料金に含まれる小規模な宿泊施設です。
私はニュージーランドでB&Bを利用しました。快適なベッドとおいしい乳製品たっぷりの朝食で大満足でした。B&Bを経営するくらいなので、ご主人はフレンドリーです。宿泊客は私だけなので、朝食中は陽気なご主人とずっと雑談をしていました。
もし、あの場に子どもがいたら、ご主人は絶対に子どもに話しかけます。子どもは英語で答えるしかありません。小さいお子さんがいるようなB&Bだったら、子ども同士でちょっと会話するシチュエーションもあるかもしれません。
子どもと行く海外旅行ではホテルのプールでゆっくりと過ごしてみる
二つ目の作戦は、ホテルに泊まり、プールに子どもを連れていくことです。どういうわけか欧米人はプールサイドで日光浴をしながら本を読むのが大好きです。その間、彼らの子どもは完全放置状態です。
暇になったネイティブの子どもは適当な遊び相手を探しているので、これがチャンスです。子どもはネイティブの子に話しかけられれば、英語を使わざるをえません。“Let’s play on the slide!(滑り台で遊ぼう)” などの英語を知っていると、結構盛り上がります。
短い時間でも外国の子どもと仲良く遊べた経験は「英語を使って仲良くなれた」という自信になります。
「通じた」喜びと同様に、「伝えたいことがうまく言えなかった」という軽いフラストレーションも、英語学習のモチベーションアップにつながります。いずれにしても、実体験から学んだことは強烈なインパクトがあるので貴重です。
「B&Bでの宿泊」と「ホテルのプール」でのシチュエーションづくりをヒントに、わずかな時間でも子どもに英語を使わせる機会を作ってみましょう。あまり強引にやりすぎると英語嫌いや外国人恐怖症になってしまうので、子どもの性格と反応を見ながら加減してください。
子どもの人生を豊かにする海外旅行
以前テレビ番組で、ドトール・コーヒー創業者の鳥羽さんがドトールの業態を思いついたいきさつを語っていました。
創業前、喫茶店組合でパリへの視察旅行があったそうです。通勤途中カフェへ気軽に立ち寄りコーヒーを楽しむ人たちを見て、鳥羽さんは衝撃を受けました。当時の日本では、喫茶店は暗い雰囲気でコーヒーの価格も高かったのが常識だったからです。これをヒントに鳥羽さんは気軽にコーヒーが飲めるコンセプトのドトールを全国に展開しました。
さて不思議なのは、同じ光景を他の人たちも見ていたのに、「これだ!」と気づいて成功したのは鳥羽さんだけという事実です。これについて鳥羽さんは次のような言葉を遺しています。
同じ旅行でも、ただ単に行くのと、明確な目的をもって行くのとではものの見え方、感じ方がまるで違ってくる。関心があればこそ見えてくる。関心がなければ見ているようで実は何も見えていないのだ。目的意識があればこそ、その光景をいつまでも心の中に鮮明に、克明にとどめておくことができる。
ほとんどの子どもは明確な目的意識や先入観を持っていません。ですから、旅先での両親の行動や発言が、子どもが海外で見たり考えたりするときの「基準」となります。そしてその延長線上に将来の価値観が形作られます。
例えば、海外のショッピングモールに行くと営業時間中にエスカレーターの整備をしていることがよくあります。お客さんは、停止したエスカレーターの隣のエスカレーターを階段のように上り下りしなければなりません。
それを見て「けしからん。夜中にやればいいのに」と反応するのと、「整備している人たちにも家族がいる。昼間に働けるようにみんなで協力している。日本もこれでいいのにね」と発言する親では、子どもの見方・考え方は大きく変わるはずです。
このように海外旅行で日常と異なるものを体験し、お母さんやお父さんの行動や発言をもとにして、子どもの認識の枠組みが出来上がります。
いろいろなことへの関心を高めることによって、子どもは「無意識にやり過ごしていたこと」や「常識だと思っていたこと」をもう一度考え直すいい機会を得られます。
このような経験を積み上げることによって、深みのある人格が形成されます。英語だけができる人ではなく、英語をフル活用して人生を豊かにできる大人に育ってほしいと思います。
では具体的にどのような経験が役に立つのかを紹介します。
海外旅行で子どもが学べる英語以外のこと(基本編)
ここまで「子どもに英語を使わせて、学習のモチベーションを上げる方法」について説明しました。
ここからは、さらに一歩すすめて英語以外のことにも目を向けてみましょう。海外旅行を思い出深いものにして、子どもにとって学びの多い機会とするためのヒントを挙げてみます。
マナー
海外旅行に限った話ではありませんが、マナーは大切です。宗教的・文化的にタブーとされていることはあらかじめ子どもにきちんと伝えておくべきです。旅先の人や文化に敬意を払うように教えましょう。
英語圏・非英語圏を問わず、挨拶とお礼くらいは現地の言葉で大きな声で言えるようになって欲しいです。英語なら “Hello!” と “Thank you.” は笑顔で言えるように、両親が模範を見せることが肝心です。
世界中を見たわけではありませんが、挨拶とお礼を笑顔で言われて怒る人はいないと思います。円滑なコミュニケーションの第一歩です。
多様性
異なる人種・宗教・文化を肌で感じられる海外旅行は、子どもが他者に寛容になれるチャンスです。テレビでの報道だけだと特定の宗教や国に悪いイメージを抱きがちです。しかし、実際に自分の目で見るとそれぞれに良いところがあって尊重すべきものであることに気づきます。
偏見を持たずに、自分と異なる人や物・習慣などを受け入れられるような心の広い子どもになって欲しいです。
日本を客観的に見直す
日本は世界でも類を見ないほどの急ペースで、少子高齢化が進んでいるのはご存知のとおりです。しかし、子どもは生まれた時から同じ環境にいるので、感覚的に理解できません(大人でも意識している人は少数です)。
東南アジア方面に旅行すると、どこへ行っても若い人たちで溢れていることに気づきます。通販が発達していないのか、休日のショッピングモールはたくさんの家族連れで賑わっています。
ところが帰国すると、ひと目で高齢者が多いことに気がつきます。このように外国と比較して初めて日本の置かれている現状に気がつくのです。
子どもが大人になる頃には人口減少と高齢化がさらに進行した社会になっています。帰国後、子どもにそのような話をしてあげると、そのようなニュースが流れた時には興味を持って聞くようになります。
このように英語以外のことも、子どもと対話する中で気づかせることができます。テレビや活字での知識ではなく、自分が見てきた経験に基づいているので記憶に深く刻まれます。
海外旅行の食事で子どもが学べる英語以外のこと(発展編)
ここでのテーマは食事です。私はマレーシアに移住していた間に、食事には「その人の性格や思考」が明確に反映されることに気がつきました。
駐在している家族で、海外生活を楽しんでいる人たちは現地の食べ物に積極的に挑戦していました。一方、いつも現地の不満ばかり口にするネガティブな人たちは日本食のレトルトやリンゴ・ミカン・バナナしか食べようとしませんでした。
海外旅行中は珍しい料理や果物、不衛生に見えるレストランなど日常とは異なる食事を前にするので、いつも以上にその人の性格や思考が反映されやすくなります。「たかが食事、されど食事」です。
反対に考えると、食事の際の行動を変えると思考を変えることができます。例えば、未知の食事に積極的に挑戦することで、運を引き寄せる子どもに育てることができます。このようなポジティブ思考は英語学習にもきっとプラスに働きます。
スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した理論に、「運を引き寄せるための5つの行動パターン」があります。これと食事にまつわる私の経験を重ね合わせると、非常にわかりやすかったので紹介します。
子どもの好奇心が刺激される
マレーシアのデザートに「チェンドル」があります。
引用:近畿日本ツーリスト
私は最初にこれを見た時に「うわっ、着色料が大量に使用されていて健康に悪そう!」と思いました。しかし、すぐそばで地元の人が美味しそうに食べているので、試しに買ってみたのです。
「…うまい!」
緑麺のように見えるのはパンダンという植物から色付けされたゼリーです。これに氷、ココナッツミルク、甘い小豆と黒蜜をかけたのがチェンドルの正体です。
レストランで味がわかりきったものしか注文しない人は、好奇心が無さすぎます。親が好奇心を発揮すれば、子どもも挑戦するようになります。不味かったら笑い話にして終わりなので、何も失うものはありません。
子どもの粘り強さが向上する
私の知り合いに、事業で大成功している人がいます。彼の若い時の体験談がとても印象に残っているので紹介します。
初めての海外出張でアメリカに行ったとき、ドライブスルーでハンバーガーを注文したそうです。スピーカーから聞こえる英語は早口で何も聞き取れず、冷や汗を流しながら何とか注文を終えました。英語が通じず、ずいぶんと情けない思いだったそうです。
普通の人なら二度とドライブスルーには挑戦しませんが、彼は真逆でした。「英語がわかるまでドライブスルーでハンバーガーを注文する」と、毎日通い続けたのです。そして一か月後には何の問題もなく注文できるようになりました。
「いかに英語ができなかったか」という笑い話のつもりだったかもしれませんが、私はちょっと感動しました。彼の粘り強さは、子どもにも身につけて欲しい能力です。ついでに言うと英語の習得にも粘り強さが欠かせません。
例えば、ホテルでは朝食バイキングのところに、シェフが客の好みに合わせて卵料理を作っています。出来合いの物ばかり選ばずに、あえててシェフのいるところへ子どもを行かせて、目玉焼きやオムレツを自分の希望どおりに注文させます。
子どもは最初は避けますが、私がうまそうに食べていると我慢できなくなります。そのうち一人で行って、手ぶりや身振りを混ぜながらオーダーをします。
英語が伝わらず子どもが泣きそうになっても、あえて何度も挑戦させるのも大切な経験になります。「成功までは常にあと一歩である」ことを子どもに伝えましょう。
子どもの柔軟性が高まる
私が家族でシンガポールを旅行した時のことです。情けないことに、あまりの物価の高さにまともなレストランで朝食を食べることができず、街をうろうろしていました。すると街角に「トーストとゆで卵とコーヒー」をセットで販売する小さな店を見つけました。
「シンガポールらしいもの」を食べようと計画していたので、日本の喫茶店でも食べられるようなものは嫌でした。しかし、多くの出勤中の人たちが新聞を片手にパクパクと食べている光景を見て、これも「シンガポールらしいもの」であると判断して家族分注文しました。
サクサクのトーストと食べたことのない美味しいジャムが絶妙のコンビネーションでした。半熟卵にしょうゆを数滴たらして食べると、これもまたおいしい。南国で飲むホットコーヒーですっかり目が覚めて、すっかり元気になりました。
実は私たちが食べたのは「カヤトースト(ココナッツから作ったカヤジャムを塗ったトースト)」でシンガポール名物であることをホテルに帰ってから知りました。もし、あの時自分の思い込みに固執していたら、カヤトーストには出会えなかったでしょう。
子どもが楽観的な性格になる

ベトナム名物フォー。街角の屋台のほうがおいしい。
私の失敗談です。ベトナムのレストランでたらふく食事をした後、財布がポケットにないことに気づきました。「しまった。財布をホテルに忘れてきた!」とつぶやき、家族からは大ブーイングです。
私は生来の楽観主義者なので、「旅先のハプニングは後で笑い話にできる」としか思っていません。落ち着いてウェイターを呼び、これから財布をホテルに取りに行くから待って欲しいと英語で交渉しました。家族はここに置いていく条件です(人質です)。
ホテルまでは2キロ離れていたので往復4キロ。財布もないのでタクシーは使えません。歩くと1時間はかかります。ふと外を見ると従業員用らしい自転車が置いてあるので、厚かましくも使わせてもらえるか再び交渉。
気持ちよく1台を貸してくれて、30分で戻って来て無事支払いを済ませました。戻ってきたときはすべてのウェイターから笑われて拍手で迎えられましたが、旅行のいい思い出づくりに貢献できました。
あの時もしオロオロしている様子や夫婦で喧嘩をする様子を子どもが見ていたら、窮地を切り抜ける心構えを子どもに見せられなかったでしょう。英語力プラス楽観性で対処できたことを子どもに見せられたので私は大満足です。
子どもの冒険心を刺激する
マレーシアに住んでいた頃、近所のおいしいホーカー(屋台)でランチを済ませ外に出ました。すると日本人観光客の夫婦がガイドブックを見つめて、真剣に話し合っていました。
おせっかいだとは思いましたが声をかけると、「ガイドブックに載っているチキンライスの店が見つからないで困っている」とのことでした。地図が古く、その店のことは私も知りません。しかし、この夫婦の真後ろこそ、近所で最もうまいと評判のチキンライスの店でした。
そこで「ここのチキンライスがこの辺りでは最高ですよ」と教えてあげました。奥さんは「あら、そうだったの」と乗り気です。しかし、旦那さんは「いや、このガイドブックの店ではない」と譲りません。
私は用事があったのでそのまま立ち去ったので、この夫婦が実際に私のすすめたチキンラスを食べたかどうかは確認していません。私はあの夫婦は食べてないような気がします。旦那さんに冒険心が無いからです。
たった4リンギット(当時110円位)のチキンライスでさえも、思い切りのよさを発揮できないのでは、成功する人間にはなれないでしょう。たかが食事ですが、その人の思考がはっきりとわかります。
このように海外旅行は英語のモチベーションを高めるだけでなく、子どもの成長のきっかけにもなりえます。安全な範囲なら小さなトラブルも良い経験になります。
まとめ
家族で海外旅行に行けるのは幸せなことです。お金だけではなく健康や休みなどの条件が揃わないと実現できません。子どもが中学生以上になると忙しくてなかなか遠くに旅行することも難しくなっていきます。
もし小学生の間に家族で海外に出かける機会があるなら、ぜひ有意義な思い出深い旅にしてください。子どもが英語を使う機会は思ったよりも少ないので、事前の準備が大切です。少しでも「通じた!」という達成感は、英語学習のモチベーション向上に効果的です。
また、海外での両親の何気ない行動や発言が、子どもの生き方に大きな影響を与える可能性があります。英語だけでなく、人生を豊かにする思考を学ぶ絶好の機会でもあるので、旅行中は子どもと語り合って欲しいと思います。.