「マレーシア母子留学」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 最近、マスコミでも取り上げられるようになって少しずつ浸透してきました。
プール付きの広々としたコンドに母子で生活し、掃除や料理はお手伝いさんにお任せしている光景が映し出されます。テレビは偏った情報が多いので、このような映像を見ると「旦那を日本に残しておいて、いい気なもんだ」と怒りを覚える人も少なくないでしょう。
テレビの影響は絶大ですが、母子留学の実態とはかけ離れているように感じます。この記事では私の経験を踏まえて、実際の「母子留学」とはどのようなものなのかを説明します。また、母子留学にチャレンジしたいと考えている家庭のために、成功させる秘訣を書いてみます。
マレーシア母子留学の増加
我が家はマレーシアに2014年から3年半滞在しました。私(父)を含めて家族全員(4人)での移住です。現地では母子留学中の親子と出会う機会も多く、「マレーシアへの母子留学は増えている」と感じていました。
・母子留学とは
母子留学(ぼしりゅうがく)とは、母親と子どもだけで教育目的の移住をすることです(1か月の短期留学を含めることもありますが、この記事では年単位の長期留学のこととします)。
一方、父親は日本で仕事を続けます。多くの場合、会社を辞めると収入が途絶えてしまうので、必然的にこのような形態をとるしかありません。
マレーシア母子留学増加の背景にあるもの
正確な統計は調べていませんが、母子留学の数は増えている気がします。背景にあるのはグローバル教育への関心の高まりです。簡単にいえば「英語力の向上と海外での経験を積ませたい」という親の希望を実現する手段です。
具体的に母子留学を考えると、費用・治安・学校・医療レベル・ビザ取得などを調べて納得する必要があります。これらの条件が揃う国はそれほど多くありません。
マレーシアは東南アジアの優等生と呼ばれる国です。生活費が日本と比較して割安であること、治安もそこそこ良いこと、インターナショナルスクールの選択肢が多く、医療レベルも悪くありません。ビザに関しても比較的取得しやすいです。
マレーシアの特徴をひとことで表すと多様性の国です。マレー系、中華系、インド系、欧米系、その他のアジア系など多様な人種が一つの国で生活しています。公用語はマレー語ですが、日常生活ではそれぞれの民族の言葉と共通語として英語が使われることが多いです。
宗教はイスラム教を中心として、仏教、ヒンズー教、キリスト教など礼拝所や寺院・教会が同じ町に共存しています。この風景からわかるように異なる宗教に対して寛容な国です。
上記のような要因の他、日本からのアクセスも6~7時間程度と比較的近く時差はたったの1時間であることから、母子留学先として人気があるのです。
準備
母子留学を実行するなら1年半前から準備を始めましょう。私の経験を踏まえて、どのような手順ですすめたらよいかを説明します。実際の業務はエージェントを見つけて、少しずつ進めていくのが普通です。
留学目的と必要な期間を明確にする
最も大切なのは、「母子留学の目的」と「必要な期間」をはっきりと決めることです。留学目的に「この時期にどうしても身につけさせておきたいこと」を明確にすることが成功の秘訣です。
もし留学の目的が「英語を話せるようになるため」だけなら、今すぐ中止しましょう。母子留学では家族が離れて暮らすことによるマイナスの影響や、日本語力低下の危険があります。英語のためだけにこれらの危険を冒すのは、ハイリスク・ローリターンです。
我が家の場合、少子高齢化が進む日本の将来を考えたのがきっかけです。子どもが成人する頃には大量の移民を受け入れているか、アジア圏の一部に取り込まれた日本を想定しないと、国の繁栄は難しいのではと考えました。
このような環境でたくましく生きていくには、従来の教育だけでは不充分です。夫婦で考えた結果、「外国人の中でも物怖じしない人間になること」「環境適応能力を高めること」「異なる人種・宗教・文化に寛容になること」を留学によって学ばせることにしたのです。
日本は人口の98%が日本人で構成される国です。国内環境でこれら3つのスキルや能力を高めるのは難しいと考えました。必要な期間は3年くらいと計算し、その後は日本の学校に戻すことにしました。
当時、私の娘は小学生で息子は幼稚園でした。娘は自然に英語を覚える年齢は過ぎていたので、インター校は不向きと考え現地の日本人学校へ通わせることにしました(学生ビザでは日本人学校には入学を許可されません)。
年齢を考慮せず兄弟平等にとインター校を希望する人が多いですが、子ども一人ひとりのことを考えることが大切です。英語ゼロの子どもがいきなり小学校高学年のインター校の授業についていけると考えるのは無理があります。
息子は年齢的にインター校でも大丈夫そうでした。そこで娘の中学卒業時(日本人学校は中学までしかない)までの3年半を留学期間に定めて計画を立てました。
母子留学をするなら子どもに身につけて欲しい「大きな目標」が必要です。夫婦で話し合ってお互い充分に納得した目標でなければいけません。英語だけなら日本国内でも学べます。海外でないと得られないものを設定できるかどうかが成功の鍵です。
ビザ
母子留学するには、子どもにビザ(学生ビザ)が必要です。子ども1名に対して保護者一人は「ガーディアンビザ(保護者ビザ)」を申請できます。兄弟がいる場合は、両親がガーディアンビザを取得することも可能です(マレーシアの場合)。
学生ビザの申請には通学するインター校の証明書が必要です。手続きは学校が紹介するエージェントを利用するのが普通です。手数料は一人につきRM250くらいでした。移民局の方針は頻繁に変わるので、条件などはその都度確認するしかありません。
申請は学校に通い初めてから出来るだけ早く、ということになります。ウェイティング(空き待ち)状態が長くなる場合は、一度出国(日本へ帰国)する必要があります。
視察は1年空けて最低2回、それぞれ5日以上
誠実な留学エージェントはとても心強い存在ですが、自分の眼で確かめる手間を惜しんではいけません。移住する1年半前に一回目の視察、移住する2か月前に2回目の視察は最低限必要です。
ネットで得られる情報よりも、自分が体験した1次情報の方が何十倍も正確です。視察のポイントをいくつか挙げてみます。
・1回目の視察(5日間以上)
最初に子どもの学校を絞り込みましょう。現地の人の意見や、実際に通う人を紹介してもらって直接話を聞くようにしましょう。希望する学校と事前にアポを取り見学しましょう。マレーシアは休日が多く、無計画に視察に行くと学校が休みの期間と重なってしまいます。
担任の先生はネイティブかどうかを確認しましょう。肌で感じる学校の雰囲気はとても大切です。気になることは事前にリストにしておいて、その場で質問しましょう。
学校を決めたら、ウェイティングリストに登録しておきます。評価の高い人気のインター校は、すぐには入学できません。
私の隣人は、子どもが生まれて3か月後にはインター校のウェイティングリストに登録していました。日本では考えられませんが、マレーシアでは普通のことです。
学校によってローカル枠、海外赴任枠、その他留学生枠の比率が決まっています。政府機関や観光業に携わる人の子ども達は優先して入学させることが多いです。
このような事情で、名前を書いたからといって必ず入学できるわけではありません。ときどきメールや電話でウエィティングの順番や、自分の子どもの様子(英語力など)を報告することは大切です。「この学校に子どもを通わせたい」という熱意が大切です。
次に学校周辺の住環境を調べます。学校から近い(車で15分圏内)コンドミニアムや一番近いショッピングモール、郵便局、レストラン、治安の状況などが対象です。マレーシアは車社会なので、渋滞状況の確認も必要です。
希望するエリアのホテルに宿泊すると効率よく調査できます。徒歩圏内で食べられるローカルフードを食べてみるのもいい経験になります。
・2回目の視察(5日間)
絶対に子どもを連れて現地視察をしましょう。ウェイティングに登録した学校にアポを取り、子どもを連れて見学に行きます。
どういう計画で移住計画を進めているか、どれくらい本気なのかを担当者や先生にアピールするためです。冷やかしでウェイティングに登録する人は大勢います。その中でわざわざ子どもを連れて日本から見に来ているという熱意を見せるのです。
住んだつもりになって、子どもと歩き回ることも大切です。お母さんだけで歩くのと子どもを連れて歩くのでは大違いです。交通量の多いところでは信号機があるかどうかも確認が必要です。
ウェイティングの状況を見て順番が回ってきそうだと感じたなら、エージェントに相談してコンドミニアムの見学をしましょう。日本とは事情が異なるポイントについてだけ、簡単なチェックリストを挙げておきます。
□風通しのよい部屋か(光熱費が相当変わる)
□すべての蛇口から水は出るか
□水漏れがないか
□蚊が多くないか(デング熱を媒介するので注意)
□すべてのスイッチを入れて電気製品が動くかどうか確認する
□近くにモスクがあるか(早朝、大音量でアザーンが流れるので気になる人は注意)
□日当たりが良すぎないか(南向きは避けるのが南国の基本)
□子どもが遊べるプールはあるか(子どもの運動と暇つぶしに)
条件や希望に合うコンドが見つかったら、その場で契約したほうが安心です。住所が決まると諸々の手続きが一気に進みます。
英語の準備
最初の見学でインター校の先生に「日本人の子どもは英語が全然話せないので、できる限り勉強させて欲しい」といわれました。英語力は学ぶための手段として絶対に必要です。Year1~Year2に入学するなら、簡単な本を読めるレベルになっているのが理想です。
私は移住までの1年半、英会話スクール(週一回)と自宅で「英語絵本読み聞かせ」(週数日)を継続しました。200語くらいの単語とフォニックスの基礎を覚えるのがやっとで、息子は英語を話せるレベルには到達しませんでした。
英語以上に時間をかけたのは、実は国語と算数でした。5歳で海外に行けば日本語に悪影響が出るのは明らかです。幸い幼稚園では、ひらがな・カタカナ・小1までに習う漢字を教えてくれました。
移住後しばらくの間は英語に集中しなければならないので、国語の勉強で1年間のアドバンテージを持つことはとても役に立ちました。
エージェント利用の注意点
ほとんどの母子留学では、エージェントにお願いするのが一般的です。ネットでは調べられないような細かい情報にもこたえてもらえるので、有効利用したほうがいいです。
一部には悪い噂のエージェントもいますので、現地調査のときに直接会って人柄を確かめた方がいいでしょう。トラブルを避けるために報酬額、支払い方法などを納得するまで確認しましょう。信頼できるエージェントならきちんと回答してくれるはずです。
自分でできることは自分で動き、移民局などの役所が絡むようなことやコンド選びなどに絞ってエージェントに依頼すると、比較的トラブルは少ないです。お母さんの依存心が強すぎると、すべての要望に応えられないエージェントに不信感を抱くようになります。
現地の日本人社会は狭いです。正当な理由もなく報酬を支払わなかったり嘘をついたりすると、悪い噂は確実に広まります。あとで母子ともに居心地の悪い状況を作らないためにも、社会人としてのルールやマナーを大切にしましょう。
親戚、周囲の人への告知
いよいよ移住が決まったら、親戚や周囲の人々への告知をしましょう。黙って国外に住み始めるのは良くないので、やはり何かしらの説明が必要です。
子どもが学校や幼稚園に通っている場合は、早めに担任の先生に母子留学の可能性があることを伝えておいた方がいいでしょう。
「みんなびっくりするのでは」「母子留学の理由を聞かれたらどのように答えようか」などと不安になるお母さんもいるかもしれません。どのように説明したらいいのかと悩むこともあるかもしれません。しかし、ほとんどの場合それは取り越し苦労です。
私の経験では、驚くほど周囲の人は興味を示しません。ほぼ無関心です。移住後に一時帰国して、親戚に会うこともありました。そのときも、マレーシアの様子について詳しく聞かれたことは一度もありませんでした。
費用
マレーシアでの母子留学が注目される理由のひとつに、費用の安さが挙げられます。そのため退職後の移住先としても人気があります。しかし実際住んでみると、思った以上にお金がかかるというのが正直な感想です。
生活費は日本の3分の1ではない
「物価は日本の3分の1」とよくいわれますが、実際の感覚とはかけ離れているように感じます。デフレの日本とは異なり、インフレのマレーシアでは当たり前に物価が上昇しています。
移住中は、RM10.00(約300円)以内でランチを済ませることが多かったです。ときどき、空調のあるようなレストランでプチ贅沢するとRM20.00(約600円)を超えることもありました。
上下水道に関しては驚くほど安いのですが、浄水器をつけたりウォーターサーバーを契約したりすると、月々数千円かかります。電気代は日本よりは安いですが、広い部屋でエアコンを常時つけていると日本以上に電気代を請求されることもあります。
車のランニングコストはとても安いです。新車なら最初の3年間は保証期間ですから、故障しても無料で交換してくれます。ガソリンは日本の半分以下で、この価格に慣れると帰国時に満タンにするとびっくりします。駐車場はコンドについているので無料です。
全体的にみると、日本の7~8割程度の費用で生活できる感覚です。
学費は高い
中国をはじめとするアジア諸国で富裕層向けのインター校が増えています。そのため、優秀なネイティブの先生の採用競争が厳しい状況です。その他の要因と合わさり毎年のように授業料が上昇しています。授業料が3割上昇するくらいまでは想定しておきましょう。
インター校(小学校)の授業料は学年が上がるごとに高くなっていくのが普通です。安いところで年間60万~80万、普通は100万円以上です。
授業料と学校の質は必ずしも比例しません。やはり現地調査のときに自分の眼でしっかりと確認するのがベストです。先生の質は教育レベルに最も影響する部分なので、妥協は禁物です。
素敵なコンドは高い
便利でセキュリティーがしっかりしていて清潔なコンドは、家賃も高めです。母子であれば広さを妥協すれば都市部なら単身者向けの部屋を借りることもできるかもしれません。
最初から満点の物件を探すのは難易度が高いです。とりあえず1年契約にしておいて、次回の契約更新時にそのまま住み続けるか、別のコンドに引っ越しすることを検討してもいいでしょう。
マレーシアでは基本的にはfurnished(家具付き)なので、引越しはそれほど大変ではありません。母子の場合は荷物も少なめなので迷うことはありません。
自動車は必須に近い
マレーシアの公共交通機関は日本ほど発達していません。移動には自動車が必要な場面が多々あります。私も最初の頃はマイカー無しの生活を試みましたが、バスがバス停で止まらないことがあり(よくある)思い切って新車を買いました。
Grabなどの配車サービス(アプリから利用できる)をフル活用する人もいますが、女性や子どもだけの利用は安全面で不安が残ります。タクシーはどこでも拾えるわけではないし、お金もかかります。仕方なくマイカーを持つ人が多いのもうなずけます。
マレーシアの交通マナーは決して良くないので、慣れないと運転は怖いです。方向指示器を出さずに車線変更や、バイクのすり抜けなどは日常茶飯事です。一方通行も多いので、運転は気を使います。
それでも、1年以上滞在するならマイカーを所有したほうがいいかもしれません。
移住後の子どものサポート
学校に通学し始めると少しずつ生活が落ち着いてきます。しかし、これでようやくスタートラインに立っただけです。学校の勉強や宿題に加えて、英語の特訓、日本帰国後に困らないようにするために国語の勉強が欠かせません。
お金に余裕があるならチューター(家庭教師)をお願いする人もいます。それができないなら、お母さんが自分で教えるしかありません。
学校からはほぼ毎日宿題が出されるので、最初の1年半くらいは手伝ってあげないと何をしていいのかわからない状態です。ここでは、移住後の子どものケアに関して、お母さんが気をつけなくてはいけないポイントを説明します。
英語力
入学試験で入学を許可されるとホッとする気持ちになりますが、勉強の本番はこれからです。日本からやってくる子どものほとんどは英語力に問題があるので、必死に勉強しなければなりません。
小学生は基礎を身につける大事な時期です。英語を話せないだけなら問題ありません。しかし、英語がわからないことが原因で、足し算・引き算、掛け算などの大切な学習事項を身につけられなかったとしたら、その後の人生に深刻な影響を及ぼします。
インター校は英語を教える学校ではありません。「英語で」勉強を教えてくれる学校です。英語ができないと基礎的な学習がおろそかになってしまいます。
日本人の場合、5歳前後で入学すると英語を話し始めるのに3か月~1年は必要です。学校の授業に完全についていけるようになるためには約15か月必要です。母子留学で何かを学ばせたいなら、最低でも2年以上の滞在が必要な根拠はここにあります。
ちなみにヨーロッパから来た子ども達のなかには、英語ゼロでも1か月くらいで話し始める子どももいます。これは母国語と英語の言語構造が似ていて、習得までに必要な労力が圧倒的に少なくて済むからです。
日本語力
日本で英語を勉強している限り、日本語に悪影響が出ることはほとんどありません。しかし、6歳未満で海外のインター校に通い始めると、多くの場合日本語力がみるみるうちに衰えていきます。
問題はお母さんが子どもの日本語力の低下に気がつきにくいということです。なぜなら、日常会話レベルでは変化が見られないからです。家庭では「お腹空いた、ご飯まだ?」「すぐ作るよ」レベルのやり取りしかしません。
小学生が身につけるべき国語力とは、ひらがな・カタカナ・漢字を学び、本を読み(スラスラと音読)、その年齢の日本の子どもが知っているくらいの教養語を覚えることを指します。
日本語の必要性を感じられない環境で、国語力を上げる勉強を続けることは想像以上に大変なことです。しっかりと学習計画を立てて、特に長期休暇中は国語の学習時間を多くとるなどしないと、帰国後の学習に支障が出ることは間違いありません。
日本人の子どものための「日本語補習校」に通うと、毎週日本語を話す友だちと一緒に学ぶことができてペースがつかめるようになります。同じように母子留学してる方もたくさんいるので、情報交換の場としても貴重です。
精神面のサポート
言語も含めて生活環境が激変すると子どもの心には相当な負荷がかかります。お母さんに気を使って「日本に帰りたい」という気持ちを言わない子どももいます。お父さんと会えない寂しさを訴えることもあるかもしれません。
子どもの能力や性格によって対応はまちまちですが、サポートの大部分はお母さん次第です。時間を作って悩みを聞いてあげることはとても大切です。
私は息子の登下校には車で送迎していました。わざわざ車を手前で停めて、歩いて息子と学校に行き教室の手前まで一緒に行ってあげた時期があります。仲良しができずにウロウロしている様子を見ると辛かったですが、悩みを共有してあげることが大事です。
3か月目のある日、帰る途中で「僕は日本に帰りたいな」とポツリとつぶやいたことがありました。このときは真剣に帰国することを考えました。妻には「あと3か月で慣れないようだったら帰国する」と伝えました。
数週間後「一人で大丈夫だから」とスタスタ学校に向かい、途中で会った友達と笑顔で挨拶をかわしている様子を見てやっと安心しました。
子どもによっては我が家のようにうまくいかないケースも発生するでしょう。強いストレスに長期間さらされると、子どもの成長に深刻な影響を与えてしまいます。どこかでラインを引いておき、日本に帰国する選択肢を常に残しておきましょう。
食事
留学準備として、食べ物の好き嫌いを減らしておくのもとても大切です。我が家では「環境適応能力の向上」は重要な教育目標だったので、何でも食べさせるようにしました。
せっかく南国にいるのに果物は「バナナ・リンゴ・オレンジ」しか食べない日本人が多いことに驚いたことがあります。パパイヤ、マンゴー、マンゴスチンなど南国のフルーツがたくさん食べられるので、いろいろチャレンジさせたいです。
多民族国家のマレーシアでは、マレー、インド、中華を中心としてバラエティー豊かな料理を楽しめます。インド料理はスパイスが本格的で、子どもは食べられませんでした。しかし、半年もすると好んで食べるようになりました。
世界中どこの食事でも食べられるというのは「生きる力」そのものです。我が家はこの点はほぼパーフェクトにクリアしました。
レジャー
長期の休みには、レジャーに連れていくのも息抜きや勉強になります。マレーシアを拠点にするとアジア諸国へのアクセスが大変良く、国内旅行感覚で遊びに行けます。
我が家は東マレーシア(コタキナバル)、シンガポール、ベトナムに連れていきましたが、今となっては貴重な思い出です。ベトナムでは裏通りのおばちゃんの屋台にチャレンジしましたが、いつも通りに食べているのを見て「たくましくなったなぁ」と感心しました。
帰国後のことを常に頭に入れておく
留学中は親子とも忙しい日が続きますが、帰国後のことを常に考えて準備することが必要です。特に日本語力は維持するだけでなく、学年相当に伸ばしていかないと苦労します。
必要性を感じない漢字の書き取りや日本語の読書を継続するのは容易ではありません。帰国後にスムーズに日本の学校に戻れるようにするためには、時には厳しく子どもに接する必要もあります。
母子留学の場合、収入以外の全てのことが母親一人にかかってきます。子どもの学力や国語力の低下に悩むときに、一人で抱え込んでしまいます。相談できる相手がいればストレスは軽減されますので、一時帰国してでも夫婦で悩みを共有するのは大切です。
父親はどうなる?!
ここまでマレーシア母子留学について説明してきましたが、まだ大事なことに触れていません。それは「父親」です。私は一緒にマレーシアに行っても、仕事にそれほど支障がなかったので恵まれていました。普通は、ほとんどの家庭ではそうはいきません。
自分のケース
我が家でも、最後の3か月だけ母子留学状態になったことがあります。上の娘の高校受験を控え、私が同行したからです。
日本には私と娘、マレーシアには妻と息子の二つグループに分かれました。一時期だけ母子留学状態になったのです。そのときのことを振り返りながら、母子留学の時の父親の心情を振り返ってみます。
父は寂しい…はず
私は現地での生活を知り尽くしていたので、向こうで生活する2人のことを不安に感じることはありませんでした。もしそうでなかったら、どんなに説明されても不安な気持ちは晴れないままだと思います。できるだけ、お父さんが現地に行って過ごすことも必要です。
最初のうちはマメに連絡しますが、お互い忙しいので徐々に連絡の頻度は下がっていきます。スカイプ(インターネットのテレビ電話)で顔を見ながら子どもと話をしても、共通の話題が少ないので、話が盛り上がらなくなります。
やはり同じ空間を共有することが家族にとっては理想です。マレーシア側のお母さんたちは割とたくましく生きている人が多いです。日本で働くお父さんから話を聞く機会がないのでよくわかりませんが、私はだんだん子どもとの距離感がつかめなくなりました。
スカイプで話をしたとしても「元気?」以外の深い話題にならないとか、そういうことが起こるのではないかと感じます。子どもの中でもお父さんの存在感は少しずつ薄らいでいくのは確かです。
父の立場から正直に言えば、これは寂しいです。ほんの数か月離れるだけでもこの状況です。3年以上この状態が続く母子留学中、日本に残っているお父さんはどのように過ごしているのだろうと考えてしまいます。
そのような経験から母子留学に私はややネガティブにとらえていました。しかし、母子留学のお母さんたちと話す機会が増えるにしたがって、考えが少しだけ変わりました。今では母子留学については「完全に中立の立場」です。
見方が狭かったのを反省した
母子留学を決意するに至る経緯は、人それぞれです。事情をよく知らない人は「外国かぶれした母親が子どもと留学して、父親はATM扱いなのだろう」と考えがちですが、それは偏った見方かもしれません。
一例だけ紹介します。お父さんが過度に教育熱心で、娘さんはそのプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。家庭内のことなので、学校や塾のように辞めて解決というわけにはいきません。
見かねたお母さんが出した策が「母子留学」です。外国に留学するという目的であれば、父親も許可するし娘さんにとってもいい結果を生むのではと考えました。一時的に距離を置くことでお父さんの考え方も変わるかもしれません。
この作戦は見事に的中して、女の子もニコニコしながら楽しそうに学校生活を送っていました。「こんな表情は日本では見られなかった」とお母さんから聞いたので、子どもは日本にいたときには相当なストレスを抱えていたと推測できます。
「母子留学」は準備を含めて大変です。それでも実行するのは、他人には理解できない深い事情がある可能性もあります。私自身、一面だけを捉えて「母子留学」にネガティブな感情がありました。でも、今では中立な立場で見ることができます。
期間限定で夫婦が納得していればいい
「母子留学」に関しては周囲の言葉を気にするよりも、家庭内で納得していればいいのです。
確かに帰国時期を決めずに、終わりが見えないような母子留学には私は反対です。しかし、きちんとした目標を立ててそれに必要な期間を話し合い、夫婦が納得すれば何も問題ありません。
1年で数日しか過ごさない親子の会話を聞いたことがありますが、お父さんは子どもへの接し方がわからず、子どももよその大人に話すような感じでよそよそしいものでした。
このような悪影響を最小限にとどめるためには、やはり期間を区切っての母子留学の方がいいのではと感じます。
まとめ
すべての物事には裏と表があり、一面だけを見ているとバランスを欠いた行動を取ってしまいます。「母子留学」は確かにブームかもしれませんが、ポジティブな効果ばかりを見ないで、家族関係や日本語能力に及ぼす負の影響についても検討するべきです。
成功の秘訣は、事前の目標と期間の設定です。面倒くさがらずに「留学しないと身につかない(難しい)もの」を夫婦で考え抜くことが大切です。
帰国後に家族全員が「留学してよかった」と笑顔で言えるように、計画・準備を進めましょう。帰国後の英語力維持には英会話教室やオンライン英会話などを利用するとともに、英語での読書習慣が大切です。帰国後のことを見据えて、留学中に子どもが勉強に打ち込めるようにサポートしましょう。