私の息子は週1回、オンラインで英語を学んでいます。冒頭は先生との挨拶や他愛もないフリーカンバセーション(自由な会話)で始まります。
相手(先生)の声は私には聞こえません。息子は“I’m 9 years old.” とか“I’m good.” と答える声だけが聞こえてきます。おそらく“How old are you?” とか“How are you?”と質問されているのでしょう。
レッスン後「先生の質問に答えるだけでは先生が話しづらいよ。もう一つ、センテンスを足してごらん」と私はアドバイスをしました。
息子は話し好きな性格なので、次から「1センテンス」を付け足して答えるようになりました。すると、画面上の先生も表情豊かになっているのが見てわかりました。
実は英会話のテキストには書いていない「会話を弾ませるコツ」があります。小学校高学年くらいの子どもなら難しくないので、お母さんからもアドバイスをしてあげましょう。
英語力の有無にかかわらず、話が続かない!
英語学習の目標に「日常会話」を挙げる人が多いのですが、実は日常会話は難しいです。すべてのジャンルに対して準備をしなければいけないし、突然話題が変わることもよくあります。
子どもは残酷なところがあって、相手にまったく気をつかいません。そのため、子どもの英会話初心者がネイティブの子ども達に混ざると、わずかなチャンスをものにできなければそのまま放置されます。
英語力(語彙力・文法力など)と会話を弾ませる「コミュニケーション能力」は別の能力です。日本人同士でも話が続かずに気まずい空気が流れることはよくあることから、そのことがわかります。
まずは話が続かない典型的なパターンを理解して、普段から意識的にトレーニングをしなくてはいけません。
話が続かないパターン
相手の質問に対して必要最低限しか答えないと、話は途切れてしまいます。「今日、お昼は何を食べたの?」と聞かれ「うどん」と答えれば相手の問いには答えています。英会話のテキストにもこのようなパターンです。テストではこれで正解です。
しかし、実際の場面では質問した相手はそれ以上話を膨らませられずに、気まずい雰囲気になってしまいます。
- 英語力と会話を続けられるスキルは同じではない
このように英語力と会話を弾ませるスキルはまったく別物です。
B: I had udon.
テキストにはこのようなダイアローグ(対話)が無数に載っていて、質問と答えを暗唱します。この学習自体は間違っていません。英語力を上げるためには絶対に必要です。しかし、これだけでは会話を弾ませることはできません。
英語力を磨きつつ、コミュニケーション術も磨く
よく「聞き上手は話し上手」と言われます。これは「聞き手は黙っているだけでいい」という意味ではありません。相手が話を続けたくなるような質問を投げかけられる技量が必要です。
反対に、聞かれたほうは質問に答えるだけでなく「もう一つ、情報を付け足す」努力が必要です。そうしないと相手はツッコミようがないからです。
子どもに英会話の練習をさせるときには、常に「相手がいる」と想定するようにアドバイスをしましょう。そうすると、実際の場面でも会話を弾ませるための準備ができます。
今回の記事では、「答えるほう」に意識を向けてみました。会話を弾ませるための「答え方」について具体的に説明します。
英会話のコツ:「プラス1センテンス」で答えよう
Yes/ No Question(Are you~?など)はもちろん、Wh-?, How-?の質問には、とりあえず答えることが必要です。そして「もう一つセンテンスを付け加えるように心がける」と相手の興味や関心を引き出せるようになります。
センテンスを付け足すときには、二つのパターンがあります。ひとつは「理由を説明するもの」、もう一つは「逆接の接続詞(しかし、でも)でつなぐもの」です。以下、詳しく説明します。
理由(because)を説明する
B: I had udon, because my mom always cooks udon for lunch. (うどんです。なぜなら母はお昼はいつもうどんをつくるからです)
このように答えに理由を付け足すだけで、聞いた相手はいろいろと次の質問をしたくなります。「一週間に何日くらいうどんなの?」「温かいうどん、それとも冷たいうどん?」「うどんには天ぷらをつけるの?」「毎日うどんで飽きないの?」などです。
理由にはその人の日頃の習慣や意見が現れるので、ツッコミやすくなります。逆に、質問者の立場で相手がプラス1センテンスで答えてくれたら、その部分にもう一つ質問を投げかけてあげましょう。
逆接(but)でつなぐ
次は、逆接の接続詞でつなぐパターンです。例文を見てみましょう。
B: I had udon, but I wanted to have a hamburger. (うどんでしたが、ハンバーガーが食べたかったです)
but以下にはその人の本音が現れるので、理由を言われたときよりもさらにツッコミやすくなります。この場合は十中八九「なぜハンバーガーにしなかったの」と質問が続くはずです。
これも理由のときと同じく、自分が質問したなら相手のbut以下の内容に関して、きちんと返してあげることが重要です。
練習問題
では、練習問題です。次の質問に対して「プラス1センテンス」で答えてみましょう。理由を述べるパターンと逆接でつなぐパターンの2パターンで答えてください。
解答例
(理由)
(逆接)
もし、質問する立場だったらこれらの回答に対して、どのような質問を続けるかを考えます。このような訓練を子どもにさせるだけで、教科書的な対話だけでなく実践的な英会話術を身につけさせられます。
スポーツ選手が「練習するときは試合のつもりで、試合のときは練習のつもりで」取り組むという話と似ています。普段やらないことは本番でもできません。
また、日本語でも普段の会話から相手の質問に「プラス1センテンス」で答えるようにすると、会話が弾みやすくなります。
コミュニケーションの肝は相手の立場に立つこと
「プラス1センテンス」で回答すると、会話が盛り上がる様子をこれまで確認しました。これと冒頭で紹介した「話が弾まないパターン」を比較すると、ある一つの結論に達します。
それは「コミュニケーションの肝は相手の立場に立つこと」です。極論すれば、これだけを心がければ英語でも日本語でも会話を続けられます。
英語でも相手を楽しませる
簡単に言えば「おもしろい話」ができれば、相手を楽しませることができます。しかし、これは難しいです。
私はインド人の家庭に招待されたことがありました。そこで私は日本人ならほぼ笑ってくれるはずの笑い話をしました。しかし、まったく相手の表情は変わりませんでした。本当に冷や汗が出まくった苦い思い出です。
文化の異なる外国人は笑いのツボも異なります。どんなに英語を学んでも相手を常に笑わせるのは難しいです。
相手が話したいことを質問する
相手に対して予備知識がある場合は有効です。相手の得意なスポーツや趣味について、話題を振るのです。
英会話の教科書に載っているような例文は初対面の人には割と答えづらい質問が多いような気がします。
How old are you? (あなたは何歳ですか)
What is your name? (あなたの名前は何ですか)
What do you do? (あなたの職業は何ですか)
ほとんど、入国審査のような質問ばかりです。プライバシーや宗教・政治的な信条にかかわる質問は避けたほうがいいのは、日本語でも英語でも同じです。
その点、相手の趣味や詳しそうなことに質問をするのは会話を弾ませるためには大切なポイントです。
相手の欲しがる情報を与える
相手が得する情報を与えると、相手からどんどん質問がくるので会話は自然とスムーズになります。
試験前に学校を休んだ友人に、先生が話していたテスト範囲の詳しい情報を与えれば確実に食いついてきます。「相手の視点」に立てばそれほど難しいことではありません。
子どもの頃からこのような訓練をしておくと、将来営業の仕事をするときにもとても役に立つはずです。
相手に役立つ情報を与える
「相手の欲しがる情報」と似ていますが、相手はそもそも「何を必要としているか」わかっていないことがあります。そんなときに「役に立つ情報」を与えると会話は弾みます。
女の子ならファッション系の話とかアイドルの話題、男の子ならゲームの攻略法などが該当します。
英語で自由にこれらの話題を話すには高いレベルが要求されます。しかし、相手が興味を示してくれればこちらの英語に多少の間違いがあっても問題ではありません。
小学生の子どもに上記のことを意識しながら英語で会話をするのは、難しすぎます。しかし、自分ひとりで対話文の練習をするときに、「プラス1センテンス」を心がけるだけなら大丈夫です。
オンライン英会話に取り組む子どもの様子を見ていて「沈黙が多いな」と感じたら、それは先生も苦労している証拠です。「理由」や「逆接」でつなぐように子どもにアドバイスをしてあげましょう。
また、普段からそのような会話を日本語でも心がけると、周囲の友だちから「〇〇君は話しやすい」「〇〇ちゃんと話すと楽しい」と思ってもらえます。
まとめ
英語のテキストには、質問に対する「答え方」は書いてあります。しかし、「会話を弾ませるためのコツ」には触れていません。
相手の質問に答えただけでは、会話はまったく続きません。そこで、自分の答えにもう一つ文章を続けてみましょう。続け方には2つあります。
ひとつ目は、自分の答えの「理由」を述べるやり方です。その情報が詳しいほど、相手はその部分について興味をもってくれます。もう一つは、「逆接」でつなぐやり方です。自分の本音を表現できるので、相手は興味を惹かれます。
子どもが英会話の練習をするときは、テキストに載っている例文を暗唱するだけでは不充分です。仕上げとして「プラス1センテンス」を実践しましょう。そうするとオンライン英会話など実践的な場面でとても役に立ちます。
会話を弾ませることは、つまり「相手の立場になって会話をする」ことです。それさえ気をつければ会話中沈黙が続いて気まずい思いをすることが減ります。
日本語で会話するときも、お母さんから子どもに「プラス1センテンス」を意識するようにアドバイスしましょう。会話の質と量が高まれば、そうでない場合よりも英語の上達も早くなります。