私の小学生時代の思い出のひとつは「夏のキャンプ」です。いとこに誘われて1泊のキャンプに行きました。「原人」と呼ばれていたひげ面のインストラクターに連れられて川遊びしたのは今でも楽しい記憶としてよみがえってきます。
そのような夏のアクティビティと「英語」を合わせたものは、「英語サマースクール」と呼ばれています。その内容は実に多彩で、アウトドアはもちろんインドア中心のスクールもたくさんあります。
家族以外との宿泊経験のない子どもを誰かに預けるのは、お母さんとしては不安に感じるかもしれません。また、肝心の英語力はどう変化するのかも気になるところです。
今回は「日本国内のサマースクール」に焦点を当てて、プログラムの詳細について説明します。また、子どもを参加させるときのお母さんの心構えについて私の意見をまとめました。
夏休みの最高の思い出になるようなスクールを選んであげましょう。
サマースクールとは
「英語サマースクール」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか? 英語を学ぶのはもちろんですが、それ以外はどんなイメージでしょうか?「キャンプ・カヌー・スポーツ・教室内での勉強」など、人によってさまざまな光景をイメージしたと思います。
実は広い意味ではこれらすべて「サマースクール」と呼ばれる活動です。ネイティブのインストラクターや講師は、英語初心者の子ども達にも楽しめるようにこれらの活動をサポートしてくれます。
「英語サマースクール」は開催地が海外(英語圏)か国内かによって大きく二つに分かれます。今回は、日本国内で開催される「英語サマースクール」について詳しく説明します。
国内と海外のどちらがいい?
海外に行くほうがハードルは高くなるのは間違いありません。パスポートの取得に始まり、親からの物理的・精神的な距離が遠くなることから、子どもは緊張します。時差の大きいアメリカ・カナダ・イギリスへの移動は体力的にも大変です。参加費も当然高くなります。
海外のサマースクール(アメリカ・カナダで2週間)なら40万円近くは見積もる必要があります。
英語力に関しても、ハードルは高いです。海外でのサマースクールに参加して成果を感じるためには、最低2年くらいの学習歴は必要です。
しかし、そのような高い壁を克服できたときの達成感もまたひとしおです。また異文化を肌で感じられる経験はとても貴重です。特に同い年の外国人との交流はかけがえのない体験となるはずです。
一方、国内で行われる「英語サマースクール」の利点は何でしょうか?
まずは「安心感」が違います。子どもが熱を出したりケガをしたりしても、親はすぐに迎えに行けます。時差はないし、気候も普段の生活と大差ありません。渡航費がかからないため、参加費は10万円以内で収まるところがほとんどです。
国内のデメリットとしては、異国の文化を感じることはできないこと、参加者は日本人の子どもだらけなので「英語を話す」プレッシャーを回避して「日本語で話してしまう」傾向にあることです。
それでも、小学校で英語を習い始めたばかりの子どもや、家族以外の人と宿泊を伴う旅行経験のない子どもなら、国内の「英語サマースクール」から始めるほうが無難です。
参加後の様子を見ながら「海外にも行ってみたい」と子どもが言い出して、予算や状況が許されるなら来年の計画として海外サマースクールへの参加を検討するといいです。
アウトドア中心とインドア中心
日本国内の英語サマースクールは内容が多様化しています。「アウトドア中心」と「インドア中心」の2種類に大別できます。それぞれネイティブのインストラクターや講師が中心となって、さまざまな活動を進めます。
「アウトドア中心」のものは「英語サマーキャンプ」とも呼ばれます。「アウトドア」の良いところは、「英語を学ぶ」のではなく「英語で学ぶ」ところです。英語はあくまでもコミュニケーションの道具として扱われています。
それまでは「学校で教科として学ぶ英語」しか知らなかった子どもが、言葉を学ぶ原点を見つめなおすようになります。
「インドア」では宿泊を伴うスクールだけでなく、一定期間、その場所に通うタイプのものもあります。日本国内のインターナショナルスクールが夏休みの間場所を解放して、普段はインター校に通っていない子どもも受け入れているのはその典型です。
「インドア中心」のサマースクールでも、通常の英語の授業の他に「体験型のアクティビティ」が盛り込まれているようです。
活動内容と期間で選ぶ
インターネットで「国内 英語 サマースクール」のキーワードで検索すると、たくさんの情報がヒットします。あまりにもたくさんあるので、何を選んだらよいのか迷ってしまいます。
人気のコースは募集を開始してすぐに定員に達してしまうこともあります。遅くとも5月の連休にはチェックしたほうがいいです。
選ぶ基準は「活動内容(アウトドアかインドア)と開催期間」です。夏休みに入ってすぐの7月下旬は特に人気が高いので、あまり迷っている時間はありません。おそらく毎年参加するリピーターが早めに申し込んでいると思われます。
仲の良い友だちと参加するなら、なおさら早めにお母さん同士で日程を決める必要があります。
英語のレベル別になっているところもある
活動内容とは別に、英語の習熟度によってコースを分けているスクールもあります。同じくらいのレベルグループなら、インストラクターもコントロールしやすいです。参加者も「自分だけ英語を理解できなかった」という劣等感を感じずに済みます。
親心としてつい「ちょっとハイレベル」なグループに入れたくなる気持ちは理解できます。でも、子どもの英語力と性格をきちんと考慮して、適切なコースを選びましょう。不明な点があれば、主催者に遠慮せずに質問しましょう。
ちなみに帰国子女を対象にした「ハイレベル」なコースも用意されています。
英語のサマースクール(アウトドア)
キャンプといっても、サバイバル的なものではなく、子どもでも安心・安全に参加できるタイプのものがほとんどです。それでも、川遊びや山登りでは危険はゼロではありません。インストラクターがきちんと資格を持っているかどうか確かめましょう。
食品アレルギーや普段飲まなければならない薬がある場合は、事前に確実に伝えましょう。パンフレットや説明会、ホームページなどでそれに関する細かい記載のあるスクールを選んだほうが安心です。
前述したように、教室で学ぶのと違って英語で「アウトドア活動」などのアクティビティをするのが中心です。英語での指示を理解して「何かをやり遂げた」喜びを得られるのが、このタイプのスクールの良いところです。
英語のサマースクール(インドア)
「机に座って英語の授業を集中的に受ける」のがインドアタイプの主流です。しかし、こちらのほうも内容が多様化しています。こちらに参加させるお母さんは、「英語力について何かしらの向上」を期待している傾向が強いようです。
開催期間は3日~5日間くらいがほとんどです。この短い間で、お母さんにも伝わるような「成果」がスクールには求められます。そのため彼らも、あの手この手でいろいろと工夫を凝らした内容を提供しています。
アクティビティ&ワークショップ
主に、幼児~小学校低学年の参加者向けには、ゲームや歌などの楽しいアクティビティを通じて英語に慣れ親しませる内容が盛り込まれています。また、「英語で」何かの作品を造り上げるような作業をグループで行います。
幼児中心なので、宿泊ではなく「通いタイプ」が多いです。普段通っている幼稚園などととは違うお友達と楽しい時間を過ごせれば成功です。講師はもちろん英語で指示を出しますが、短期間なので英語力の急上昇は期待しないほうがいいです。
英語でのドラマ
短期間で成果を出すために、「英語での演劇」にチャレンジするコースです。お母さんは「書かれた台本じゃなくて、自由な会話を英語でして欲しい」と思うかもしれません。
しかし、演劇は英語を覚えるのにかなり有効な手法だと私は思います。私の息子がインターナショナルスクールに通っていたときも、毎年大きな「演劇」がありました。
最初は英語が不得手だったので、短いセリフしか与えられませんでした。それでも、人前で堂々と英語を話せたので本人も自信につながったようです。2年目以降は徐々にセリフは長くなりましたが、前年にも増して堂々した演技でした。
セリフは何度も何度も繰り返して声に出して覚えます。つまり、音読と同じ効果があります。ただの音読よりも優れているのは、セリフを話す状況が明確で、その人物の心境に合わせてセリフを読むところです。これは音読より現実の世界に近いものです。
驚いたことに、帰国して数年経ってもセリフの一部や挿入歌などを口ずさむことがあります。繰り返し音読練習することの学習効果が高いことの証明です。
私は子どもをサマースクールに参加させたことはありません。それでも、「ドラマ」タイプはおもしろそうだと感じています。
英語学習
いわゆる英語の「お勉強」です。ただし、普段受けている学校での授業と違って、「オールイングリッシュ」で行われます。発言も積極的に行うように要求されるので、緊張感は段違いでしょう。
一般的にネイティブの先生は「ほめ上手」です。日本人には未体験レベルで「ほめられる」ので、子どもによっては大きな自信につながります。
以前、仕事の関係でニュージーランド人が経営する会社の女性スタッフと食事をすることがありました。普段の社長の様子をたずねると「彼はとにかくほめますね。ちょっとしたことでもYou’re a champion! と言って大げさにほめてくれるんです」とうれしそうでした。
大人だってほめられるといい気分になるのです。子どもならなおさらです。これがきっかけで「英語好き」になるかもしれません。
英検対策
「短期間で成果を出す」点では、検定対策もいいかもしれません。私は「英検の級だけを目標にした英語学習」は推奨していません。しかし、英検を受ける予定があるなら、短期間で集中して成果を上げるのは悪いことではありません。
英検合格がやや難しく感じられる3級から活用するといいでしょう(小学生で3級を狙う子どもは上級者です)。特にネイティブを活かして、面接練習を豊富にできるのがメリットです。
無事、目標の級に合格できたら「参加してよかった」とお母さんも納得です。
お母さんの心構え
サマースクールに子どもを参加させるとき、お母さんはどのような心構えでいるべきでしょうか? 同じスクールに参加しても、満足しているお母さんもいれば「不満だらけ」のお母さんもいます。
子どももお母さんも「参加して(させて)良かったな」と心から思えるために必要な「心構え」について説明します。
英語力向上の過大な期待はやめよう
海外でも国内でも、スクールの期間は数日~2週間程度です。確かにその期間は英語漬けの状態になります。しかし、語学習得の観点からすればそんな短期間で英語力の向上は無理です。
私は日本から英語ゼロで海外のインター校に入学してくる子ども達を何人も見てきました。英語を話し始めるまでの期間は、一般的に3か月~1年は必要です。これは「片言」レベルの話なので、ネイティブの子ども達と遜色ないレベルになるには数年は必要です。
だからサマースクールだけで英語力を大幅に向上させるのは不可能です。もし、お母さんが過度にそのような期待をしてしまうと、子どもは「お母さんの期待に応えられなかったから、ボク(ワタシは)ダメなんだ」と勘違いしてしまいます。
楽しい経験になるはずだったのに、お母さんの無茶な期待で不幸になってしまうのは避けましょう。
参加後の子どもの気持ちを大切にしよう
人間は忘れる動物です。帰宅直後は英語に対するモチベーションが高まっています。その時期を何もしないでやり過ごすのはあまりにももったいないです。英語学習の習慣づけのきっかけにしましょう。
スクールに参加するとわかりますが、普段音読などで繰り返し覚えたフレーズでなければ実際の場面ではすぐに口から出てきません。基礎練習の大切さを子どもは体験しているこのタイミングがチャンスです。
「英語は声に出して読むことが大切だよ」「毎日少しずつ音読の練習をしてみようか」など、現実的な目標を設定して、一段ギアアップした英語学習に移行しましょう。
参加者が得られる成果
サマースクールに参加しても「英語力そのものの向上はそれほど期待できない」ことは先述したとおりです。では、子どもがサマースクールに参加して得られる学習効果とはいったいどのようなものでしょうか?
英語への興味が高まる
何といっても英語への興味が高まります。たとえ短期間でも、英語を理解しようと頑張らないと楽しい活動はできません。それまでは「雑音」として英語を聞き流していたのが、「意味のある言葉」「有益な言語」として認識するようになります。
なぜ海外の現地校やインター校に移った日本人の子どもが英語を話せるようになるかというと、「必要性」を肌で感じているからです。英語を話せないと友だちと遊べません。先生の言うことも理解できません。英語に対する真剣度が違うのです。
日本国内でそのような環境に身を置くことは皆無です。しかし、サマースクールはたとえ短期間でも「英語の必要性」を感じられる貴重な時間となります。
英語「で」何かを学ぶ体験
私はこれが最も貴重な体験だと思います。日本人はどうしても英語を学校の「教科」や「受験科目」として考えています。そのため「解答欄に記入できればいい」と考えて音声を軽視したり、受験が終わると英語から離れてしまったりする残念な人が多いです。
しかし、アクティビティは、英語「で」何かを学ぶ体験そのものです。「何か楽しいことにチャレンジするために英語が必要」という動機なら、成績や受験に関係なく一生英語を学び続ける原動力になります。
帰宅したらぜひお母さんから子どもにこのような話をしてあげましょう。普段は関心を示さない内容かもしれません。しかし、サマースクール直後なら真剣に耳を傾けるはずです。
「もっと話せるようになりたい」につながるふたつの体験
サマースクールに参加中、子どもは二つの経験をします。つたない英語でも「通じた喜び」と、簡単なことでも「英語で言えなかった」フラストレーションです。実は、どちらも今後の英語学習を継続するために必要な経験です。
片言の英語でも、相手が理解してくれた喜びはひとしおです。英語の学習は長期間に渡る努力が不可欠です。そのため「ごほうび」がないと心理的に消耗してしまいます。「通じた喜び」は最高の瞬間です。
一方、「どうやって火をつけるんですか?」のように、日本語なら幼稚園児でも言えることを英語でうまく言えないことがあります。参加中このようなフラストレーションを子どもは頻繁に感じます。
あまりフラストレーションが多すぎるとやる気を失ってしまいます。しかし、適度なフラストレーションは「もっと勉強して英語を話せるようになりたい」気持ちにさせてくれます。
もし、参加者の英語レベルが細かく分かれているなら、子どもに合ったレベルに参加させましょう。うまくいくと、「通じた喜び」と「フラストレーション」の両方をバランスよく体験させられます。
モチベーションが最高潮になっているところで、英語の本格的なトレーニングを始めましょう。
まとめ
夏休みに子どもを「サマースクールに参加させたい」と計画中なら、5月の連休までにはチェックしましょう。人気のコースや日程はすぐに埋まってしまいます。
日本国内の英語サマースクール(サマーキャンプ)なら、手軽にお手頃な費用で参加できます。
それぞれのスクールでは、さまざまな内容を用意しています。子どもの適性に合わせて、どのスクールに参加させるのがよいのか子どもと相談しながら決めましょう。英語の習熟度に合わせたコースを用意しているスクールもあります。
短期間のサマースクールで、英語力の急激な向上を期待するのは禁物です。しかし、英語への興味を高めたり、コミュニケーションの道具として英語を再認識したりできる貴重な機会です。
また、英語で生活しながら「通じた喜び」と「通じないフラストレーション」の両方を体験できます。これらは両方ともその後の英語学習を継続するために大切な経験です。
比較的時間に余裕のある小学生のときは、サマースクールに参加するチャンスです。子どもが「参加してよかった」と笑顔で帰宅できるようなスクールを見つけてあげましょう。