ある英会話学校の人から聞いた話です。子どもを通わせているお母さんから「ウチの子、全然英語を話さないんですよ」とよくグチを聞かされるそうです。その家庭では日本語しか話さないので、当然の結果です。
実際、日本の小学生が英語を使う機会はほとんどありません。ほとんどの子どもは「親に言われて」「英語は受験に必要だから」だけの理由で英語を学んでいます。これでは受験科目としての英語からの呪縛から逃れられません。
もし、日本にいても「英語を使わないとならない」状況を日常的に作り出せるとしたら興味ありませんか? お母さんとお父さんにも協力してもらいますが、お金や時間はほとんどかけずに取り組む方法があります。
WhatsApp を使って親子で英語チャット
「ネイティブがいないので英語を話さない」と言っていたら、日本では英語を使用する機会はありません。「日本にいてもどうすれば英語を使う機会を増やせるか」と考え方を変えましょう。
私が試してみて効果的だった「WhatsApp(ワッツアップ)」というアプリを使った親子での「英語グループチャット」を紹介します。
生活に英語を取り入れる
英語を使えるようになりたければ、「実際に使う」ことでしか上達しません。ところが英語を話せる人が周囲にいないと、会話の練習にならないのも事実です。そしてほとんどの人はここであきらめてしまいます。
そこで普通の家庭でも生活に英語を取り入れる方法として、「親子で英語チャット」を提案したいと思います。
私自身、息子が幼稚園のころ一時期「英語で育児」してみようと挑戦したものの、思った以上に子どもの抵抗が強く失敗したことがあります。日本語を話し出す前ならうまくいったかもしれませんが、時間を戻せません。
一方、息子が小学生になったときしばらくの間「英語でチャット」をしたことがありました。初めはほんの遊びだったのですが、意外と毎日続けられました。会話の中身は他愛ないことや本当に必要な連絡も含まれていました。
チャットでは、必要なこと・言いたいとこをシンプルな英語で表現します。子どもが英語を実際に使う実践の場として、とてもいいと感じます。
「伝えたい」ことを英語で伝えるから、英語が身につく
英語学習において、例文の暗唱は避けられません。何度も何度も繰り返し口頭で練習します。
しかし、その表現を自分のものにするまでには、あともう1ステップ必要です。それは、その暗唱した表現を応用して、「自分が伝えたいことを表現する」ことです。
例えば、“John has to do a lot of homework today.”(ジョンは今日たくさん宿題をしなければいけない)という例文を暗唱したとします。しかし、これだけでは記憶は薄れていってしまいます。
そこで、実際の状況で “I have to do a lot of homework today.”と何度か使うと記憶は定着します。日常会話で使用するのが一番です。
暗唱した例文は、日常生活で使ってこそ身につくようになります。
親子だから間違えても恥ずかしくない
小学生になると、間違うことの恥ずかしさを強く感じるようになります。そのため「間違えても気にしないで」と諭しても、積極的に英語を話そうとはしません。
でも、親子だけのグループチャットならリラックスして英語でコミュニケーションを取れるはずです。
お母さんは英語を間違えても気にしないでください。お互い間違いをしながら、少しずつ上達すればいいのです。親子で英語を教え合うような関係が理想です。
文字が残るから訂正・復習が容易
会話では「瞬時に英文を口から出せること」と「相手の英語を聴き取る」二つのハードルがあります。標準的な小学生では、この二つをクリアするのはかなり大変です。
一方、チャットなら文章を入力するまでに考える時間があります。相手からの言葉も文字として残るので、知らない単語を確認することも可能です。
英作文を速くできて音声で表現したものが、英会話です。つまり、文字だけ投稿していても会話練習の基礎になっていることに注目してください。
間違えた英語を送ってしまっても、それはそれでいい教材になります。親子のうち誰かが気づいて、チャット上で正しい綴りや文章を教えてあげましょう。次からその表現を真似すれば、少しずつ洗練された表現ができるようになります。
このようにチャットでは文字による履歴が残るので、訂正をしたり復習したりが簡単です。できれば毎晩、その日の会話を振り返って正しい言い方や綴りを学ぶ時間を設けると、理想的なオリジナルテキストとなります。
WhatsAppを使おう!
親子の英語チャットに使うアプリとして、私はLINE(ライン)ではなくWhatsApp(ワッツアップ)をおすすめします。LINEは日本では大変メジャーなアプリですが、世界的にみると圧倒的にWhatsAppのほうが利用されています。
単に利用者数の多さがWhatsAppを選ぶ理由ではありません。親子の英語チャットにWhatsAppのほうがふさわしいと思われるポイントをいくつか紹介します。
スタンプ機能を使えないから英語学習にはWhatsAppがいい
LINE人気の原点は、言葉の代わりにムード(気分)を表す「スタンプ機能」が充実していることにあります。忙しいときばかりでなく、細かいことを濁したいときにも便利な機能で、日本人のコミュニケーション特性にピッタリです。
しかし、英語学習を目的としたチャットでは、この「スタンプ機能」が邪魔になってしまいます。英語で表現するのが目的なので、お母さんの問いかけにたいして、スタンプばかりで返信しては意味ないからです。
WhatsAppには絵文字がありますが、あくまでも文章に添えるものです。絵文字だけで返信するのは不自然です。そのため「なんとか英語の文で伝えよう」と一生懸命頭を使って考えるようになります。
ゲームがなくシンプルだから英語に集中できる
ラインにはニュースやゲームなど子どもの気が散るサービスがあります。ビジネスとしては優秀でも、英語学習ツールとしては危険です。
その点、WhatsAppはチャット機能に特化しています。子どもがいつの間にかゲームで遊んでしまったりサイトを閲覧したりして、無駄な時間を過ごすことが起こりにくいです。
子どもの使用するスマホやタブレットには、余計なアプリを入れないようにしておくことも忘れないでください。
グループ作成したらお父さんや他の親族にも英語で参加してもらう
グループ作成のやり方は、LINEとほとんど同じです。グループ名は「〇〇 Chat」のようにして、英語っぽい名前がいいです。プロフィールの写真も子どもの好きなように設定してあげましょう。
最初に参加するのはお母さんと子どもです。そして、普段忙しくてなかなか子どもの英語教育に関われないお父さんにも参加してもらいましょう。もし、難しければ英語の得意な親族に参加をお願いしてみましょう。
参加するメンバーの選択基準は、子どもが間違えてもおおらかに対応してくれる人です。基本はやはり両親と子どもです。あまり人数が多いと人任せになってしまうので、3人くらいのほうが投稿する頻度は高くなります。
英語を打つならフリック入力からQWERTY(クワーティ)入力に
子どもが使用する端末は、お母さんの古いスマートホンやタブレットで充分です。わざわざ新しいものを購入する必要はありません。
ひとつだけお母さんが事前に設定してあげたほうがいいことがあります。それは、入力方式をフリック入力ではなく、QWERTY(クワーティ)入力に切り替えることです。QWERTYとはパソコンのキーボードのような配列のことで、英文の入力には適しています。
こうすることで、ストレスなく英語を入力できるようになります。必要な機器や周辺環境、設定をまとめます。
・Wi-Fi環境が自宅にあること(SIMカード不要)
・入力方式をQWERTYに切り替えてあげる
親子でどんな英会話をするか
準備が整っていざ英語でチャットを始めようと思っても「何を話したらいいのか」わかりません。どのようにすすめると毎日のチャットを継続できるかについてまとめます。
連絡、親子のコミュニケーションに
お母さんが働いていれば、子どもへの伝言としてチャットを利用しましょう。仕事が終わって帰宅するのが6時なら、そのことを子どもに英語で伝えます。“I will be home at 6.” のようにシンプルに書くのがコツです。
英語だからといって、特別なことを話す必要はありません。日常必要なことをシンプルに伝えればいいのです。これを積み重ねると、必要な英語表現を覚えられるようになります。
英会話の具体例
まだイメージしにくいお母さんのために、サンプルとしてチャット例を紹介しておきます(お母さん、お父さん、みきちゃんの3人でグループを作成していると仮定)
(ミキ、カップケーキが冷蔵庫にあるよ。5時前に洗濯物を取り込んでおいてね)
Miki: When are you home?
(いつ帰ってくるの)
Mum: I will be home around 6 o’clock.
(6時くらいかな)
Miki: Ok.
(了解)
Dad: I will have dinner at home tonight.
(今夜は家でご飯食べるよ)
Mum: What do you want to have for dinner tonight?
(今夜の夕ご飯は何を食べたい?)
Dad: I like fish better than meat. How about you, Miki?
(肉より魚がいいな。ミキはどう?)
Miki: Me, too.
(私も)
このように、普段の連絡用に利用すれば一石二鳥です。夫婦の会話も子どもは読むので、勉強になります。
一日一回は必ず書く
毎日、必ず一回は全員がチャットに投稿するように決めておきましょう。どんなに忙しくてもひとことでいいので、習慣づけるようにします。ひとりが約束を守らないと、他の人たちも次第にフェイドアウトしてしまいます。
毎日そんなにおもしろいネタはありません。ちょっとしたことを短いセンテンスでいいので書くことが大切です。
英語で日記を書く学習方法がありますが、ひとりで毎日書き続けるのは意外と大変です。しかし、仲間がいて皆が何らかの投稿をすればそれに応えようと頑張れます。
子どもの反応が芳しくないときは、これから述べるポイントに気をつけてみてください。
子どもから英語を引き出す方法
最も効果的なのは「チャットを読まないと不利益を被る」か「チャットを読んで投稿すると得する」のどちらかの状況をつくることです。このような状況で英語を使用すると、英語は教養のための言語から、「必要な言語」として刷り込まれます。
例えば、大好きなケーキが冷蔵庫に入っていれば、それをチャットで伝えます。Cakeの単語は分かっても、fridge(冷蔵庫)を知らないと食べられないので、一生懸命調べるはずです。
たとえ「ケーキ→冷蔵庫」と予想できたとしても、ケーキを発見できればfridgeを覚えられます。
子どもにとって大切な情報を英語で伝えましょう。例えば、お小遣いの支給日なら、このように伝えます。
Miki: It is March 1st.
Mum: You forget something important.
Miki: What do I forget?
Mum: I won’t tell you that. Guess what.
Miki: I have no idea.
このようにできるだけ子どもの投稿を促すような質問をすることで、会話はつながっていきます。
翻訳ソフトや会話本をそろえておく
お母さんかお父さんのどちらかが英語が得意なら問題ありません。両方とも得意でない場合は、英語で投稿するのは面倒になります。このような場合、ゼロから英文を考えるのは難しいので、日常会話の本を一冊備えておくといいでしょう。
また、WhatsAppと同時に翻訳アプリをインストールしておけば、ある程度までは英語に直してくれます。ほとんどの場合、間違えている部分があります。それを見つけるのも勉強になります。
英語のチャットはテストではありません。カンニングしていいのです。できるだけハードルを下げて、親子での英語チャットを習慣化しましょう。
英語でチャットをするときのルール決め
親子の英語チャットでは、大まかなルールを作っておいたほうがうまくいきます。その中でも特に大切だと思われるものだけ取り上げてみます。
英語しか使ってはいけない
最も守るのが難しいルールは「英語しか使ってはいけない」ことです。誰かが日本語を使い出すと、なし崩し的になってしまい元には戻れません。チャンスは一度きりなので、必ず英語で通すようにしてください。
ただし、魚や植物の名前などの一部はローマ字表記のほうがいい場合もあります。例えば、夕食にさんまを食べようと思っているとき「saury(サンマ)」を使っても理解できません(実は私も今調べました)。
このようなときは “I wonder if we are going to have sanma for dinner.”と投稿したほうがわかりやすいはずです。
このような例外は別にして、基本的には英語で通すことを第一のルールにしましょう。
英語を間違っても怒らない
親子でチャットをする利点は「間違いを気にしない」ことでした。しかし、お母さんやお父さんが、子どもの英語文法や綴りなどをうるさく注意してばかりでは、子どもは嫌になってしまいます。
しかし、訂正してあげないといつまで経っても上達しません。子どものやる気をそがずに訂正するには、ふたつ方法があります。
ひとつ目は、毎晩その日の投稿を見直してよりよい文章を教えてあげることです。「これは何ていえばいいのだろう」というフラストレーションからその日のうちに開放されるので、子どもにとって嫌な気分になりづらいです。
もう一つは、聞きなおすような(確認するような)感じで投稿してあげることです。例をご覧ください。
Mum: Oh, you are hungry. You want to have some snacks, right?(WhatsAppでは文字に色をつけたり、太字にするような文字修飾機能はありません)
このように聞きなおすと、自然と子どもに正しい英文を伝えることができます。うまく学習すると、次回からはこの表現を真似するようになります。
一方的に正解を伝えるばかりではなく、子どもに気づかせるのも大切です。
略語やネットスラングは使用しない
外国の人とチャットをするとあまりの略語やスラングの多さに、英語を理解できないほどです。代表的なものを挙げると、FYI: For Your Information(参考まで)、ASAP: As Soon As Possible(できるだけはやく)です。
このような表現は小学生の英語学習には不要なので、使わないようにしましょう。面倒でも省略しないで書くことをおすすめします。
同様にスラング(俗語)もできるだけ使わないようにしましょう。日本人が好んで使うOh my God! は、おすすめしません。なぜなら、みだりに「神」の名を口にするのは慎むべきとされているからです。
驚きを表現するときは、Oh my goodness.やOh my gosh.などを代わりに使用するようにしましょう。
子どもは家でのみ利用する
子どもだけでネットを使用するときには、注意が必要です。くれぐれも悪意のあるサイトに騙されないように注意しておきましょう。
無用なトラブルを避けるためにも、「親子チャット以外では使用しないこと」「スマホを家の外に持ち出さないこと」をルールにしておきましょう。
子どもをネットから完全に遮断するのが難しい今日、早めにネットの正しい使い方を教えておくのは必要です。
まとめ
日本で普通の生活をしていると英語に触れる時間はほとんどありません。しかし、英語を定着させるにはどうしても「使う」状況が必要です。WhatsAppを利用してグループを作り、親子で英語チャットを続けましょう。「英語を使う」状況を自然に作ることができます。
チャットは文字による会話です。これを早く正しくできるようになり音声化できれば、会話力もアップします。会話の本や翻訳ソフトの力を借りてもかまいません。無理なく続けられる方法を見つけましょう。
最低でも数か月続けると、よく使う表現については覚えるようになります。使うことによって覚えた表現は忘れにくい特徴があります。お金をかけずに取り入れられる学習法なので、ぜひチャレンジしてみましょう。
オンライン英会話では質問をするときにチャット機能を使用することがあります。日頃から簡潔に英文を書く訓練をしていると、英会話の授業でも役に立ちます。