私は中学生になってから英語を学び始めた普通の日本人です。30年以上前になりますが、中学校の先生の発音はお世辞にもお手本にできるようなものではありませんでした。
私は洋画が好きで、NHKで放送された字幕の物をビデオに録画して何度も見ていました。「本物の英語の発音」を耳にする機会が多く、彼らの口の形を参考にしながら何度も発音練習をしました。
その結果、周囲の生徒よりも英語らしい発音に近づくことができました。ネイティブ相手に英語を話しても発音が悪くて聞き返されることは滅多にありません。
しかし、私の息子は5~9歳の間、イギリス人の先生が担任のインターナショナルスクールに通っていました。クラスメイトにも英語ネイティブの子どもが何人もいる環境です。
1年もすると、息子の発音はあっという間に私のレベルを超えました。今では、私の発音をときどき直されることがあります。
このように発音の習得に関しては、幼児期に学ぶのが圧倒的に有利であることは確かです。しかし、小学生でもコツさえつかめばコミュニケーションには困らない程度の発音を身につけることは難しくありません。
今回は子どもの英語の発音を上達させるための、親が取るべき作戦について解説します。
Contents
子どもの英語の発音が良いほうがいい2つの理由
芸能人がたどたどしい英語を話して海外ロケをする番組が人気です。発音があまりにもひどいため現地の人から何度も聞き返されている様子が笑えます。
バラエティ番組としてはおもしろいのですが、これを見て「発音なんか日本人のカタカナ発音で良いのだ!」と開き直る人が多いのが気になります。
どうも「なぜ英語の発音を良くしなければいけないのか」について、理解が不足しているようです。英語の発音が下手なままではいけない二つの理由について、説明します。
相手に無用の負担を強いるから
さきほどの番組で、現地の人が根気よくヘタクソな英語に付き合ってくれるのは、親切心からです。「困っている人がいるから助けてあげよう」とか「撮影しているようだから、付き合ってやるか」というのが本音です。
対等の立場で話をするときに、英語として認識されないようなレベルの発音なら、相手にされません。ましてや仕事でこちらが相手にお願いする立場なら、ひどすぎる発音は完全に不利です。
「下手でも構わない」というのは話す方の理屈であり、聞かされるほうはたまったものではありません。相手に無用の負担を強いていることを意識して、最低限、通じるレベルの発音を身につけようと考えるのが礼儀です。
リスニングが得意になるから
発音が下手すぎる人のほとんどはリスニング力が低いです。英単語を自己流の音で覚えているので、本物の音を聞いたときに、音と意味が結びつかないからです。
例えば、I bought some oranges at the supermarket.(スーパーでオレンジを買ったんだ)という英語を日本人っぽく発音したとします。
boughtをboatと同じ音に、orangesをカタカナ発音で「オレンジズ」、supermarketは前にアクセントをつけずに「スーパーマーケット」と平坦にカタカナ読みします。
実際、このレベルの発音はそれほど珍しくありません。運が良ければ通じるかもしれませんし、突然話しかけたら「へっ?」という顔をされるかもしれません。
では、ネイティブがこの英文を口にしたときに、普段、めちゃくちゃな発音で覚えている日本人は意味を理解できるでしょうか。当然、できません。
最初からネイティブの発音をマネして覚えておけば、リスニングのときの負担はぐっと軽くなります。このように、発音を良くすることは英語を通じやすくするだけでなく、リスニング力を向上させるためにも必須です。
子どもの英語の発音上達法
では、子どもの英語の発音はどのようにしたら上手になるのでしょうか。先述の通り、この分野に関しては幼児のほうが高い適応力があるのは確かです。
そこで子どもの年齢を6歳未満と小学生以上に分けて説明します。
6歳未満の子どもが英語の発音を良くするための方法
極論ですが、あなたのお子さんが6歳未満なら、英語環境に放り込むのが一番です。英語圏の国に行き、3か月間プレスクールなどに通わせるだけで見違えるほど発音が上手になります。
人間には言語習得の本能があって、幼児期なら文法を介せずに言語を覚えることができます。数カ月程度だと英語を話すところまではいきませんが、歌を歌ったり単語レベルでも声を出していれば、かなり上達します。
私の印象ですが、この年齢の子どもの場合、先生から教わるというよりは周囲の子どもからの影響が最も大きいです。周りの子ども達がネイティブなら、それを見ながら自分も同じような発音をまねるようになります。
私の子どもはマレーシアにいたため、チャイニーズ系マレーシア人の家庭で育った子どもとも仲良しでした。彼らの間で「なまった(チャイニーズ系のような)英語」をふざけて話すのが一時的に流行していて、帰宅後もそのマネをしていました。
もちろん冗談だとわかっているので、きちんとした発音との区別はできます。
ただ、周りの子ども達の発音に与える影響はとても大きいことは私にもわかりました。
日本国内にいても、英語のプレスクールに通わせてみるなど、これに近い環境は作れるかもしれません。
子どもは環境に敏感で、周囲が誰も英語らしい発音で話さない中で一人だけネイティブのように話すというようにはなりません。
小学生以上の英語の発音上達法
7歳を過ぎると、幼児のように理屈無しで英語を覚えるようにはなりません。大人と同じように意識的なトレーニングが必要となります。
発音に関しては小学生のうちにある程度仕上げておいたほうが圧倒的に有利です。中学生になると恥ずかしがって声を出さなくなるため、英語らしい発音が身につきづらくなります。
小学生以上が発音を良くするためには、「日本人が話す英語がなぜ英語らしく聞こえないのか」という原因を知ることが一歩になります。そのあと、対策を講じたりトレーニングを積むことが大切です。
- カタカナとローマ字百害あって一利なし
カタカナとローマ字は、英語の発音を台無しにする諸悪の根源のひとつです。英語をカタカナに変換する際、正確な音やスペリングは失われてしまいます。
またカタカナには和製英語と言われるオリジナルの英語からかけ離れたものが多く存在します。night gameが「ナイター」になってしまったのは有名な例です。
もうひとつの典型的なパターンは、二重母音(母音が連続する音)がカタカナでは「-(音引き)」に置き換えられてしまうものです。
major league → 「メジャーリーグ」(メイジャーと表記すべき)
notebook → 「ノート」(ノウトと表記すべきだし、ブックはどこへ消えた?)
私が生徒に英語を教えるときは、カタカナになっている英語を覚えるときは注意するように指導しています。「意味を覚えるのにはカタカナは役に立つけれど、発音はしっかりと本物の英語のほうをチェックするように」と何度も伝えます。
また、ローマ字も私は日本人の英語学習において弊害しかないと考えています。ローマ字は英語と何の関係もなく、日本語の音を英語に無理やり当てはめただけです。つまりローマ字は日本語です。
ローマ字は小学3年生くらいで、国語の中で教わります。「ふ」はFUと書くように指導されるのでしょうが、fを英語の【f】の発音では読みません。
これではローマ字など最初から指導しないほうが、英語学習には良い影響を与えるはずです。英語の発音に関しては、ローマ字を習う前までに始めたほうがよいというのが私の持論です。
日本語にはない英語の音を出すトレーニングをしよう
カタカナ英語やローマ字の件からもわかるように、英語本来の音を日本語の音の枠に押し込めることが問題です。英語の音の数は日本語よりも多いため、日本人にはなじみのない音を追加して覚える(発話してみる)トレーニングが必要です。
代表的な音を列挙してみます。
【f/v】 five, voice 「フと読んでしまう」
【l/r】 light, right「ら行の音で読んでしまう」
【ʃ/s】 she, see「区別せずに発音してしまう」
【θ/s】 think, sink「シと読んでしまう」
【ð/z】that 「ザットと読んでしまう」
「 」に日本人の典型的な発音例を挙げました。これらは意識して何度も何度も音を出しながら練習しないとなかなか修正されません。
英語の先生に指導してもらったり、自分で英語を音読した声を録音して聞いてみるのも一つの方法です。
英文を読むときに強弱をつけよう
発音そのものだけでなく、強弱のリズムが英語と日本語ではまったく異なります。これをマスターしないと、英語らしく聞こえることは永遠にありません。
次の英文を音読してみましょう。
私が英語を教えてきた生徒の99%はこの文章を平坦によみます。しかし、英語を読むときは、強く読むべき場所と弱く読むべき場所を分けなければいけません。
一応、ルールのようなものがあるので簡単に挙げておきます。
代名詞は弱い
動詞は強く
冠詞は弱く
名詞は強く
さらに、単語の音どうしが干渉して「くっついたり」「変化したり」します。先ほどの例だと、played theは別々に発音されず、「プレイッザ」のように聞こえます。
これらを総合すると、次のようになります。
一語一語の単語の発音だけでなく、文を強弱つけて読めるようにすると、英語らしく聞こえるようになります。
大切なのは「ネイティブのように話したい!」という強い思い
書店に行けば発音に関する本はありますし、動画サイトなどでも詳しく説明しているので、いろいろと参考にしたらいいと思います。
しかし、最も大切なのは、「ネイティブのように話したい!」という強い思いだと私は思います。「まあ、いいや」と妥協してしまうと、発音トレーニングに力を入れないためいつまでたっても上達しません。
現在の日本の英語教育では発音のうまい・下手は成績にほとんど反映されないため、上達しようというモチベーションが育ちません。
動機は何でも構いません。「好きな歌を完コピしたい」「憧れのハリウッド俳優のようにしゃべりたい!」という動機があると、英語の発音トレーニングを頑張るという行動に向かわせてくれます。
「テストが乗り切れればいいや」としか英語を捉えていない生徒は、残念ながらほとんどの場合、発音が上手になることはありません。英語を教科としてとらえているか、コミュニケーションの道具としてとらえているかの違いです。
お母さん自身の英語の発音が下手でも構いません。子どもが自然と本物の英語にあこがれを抱くように少し工夫してみましょう。「ネイティブのように話したい!」と思うようになれば発音が上手になるチャンスは大きいです。
まとめ
英語の発音は2つの点で大切です。発音が良ければ、聞き手に負担を感じさせないため、コミュニケーションが円滑になります。また、良い英語の発音は、リスニング力の向上にもつながります。
発音の習得に関しては、6歳未満の幼児が圧倒的に有利です。最も確実な方法は、英語ネイティブの子ども達がいる環境に放り込むことです。
この年齢の子どもは先生よりも周囲の友達に最も大きな影響を受けるため、周囲の英語の発音をすぐにまねします。
幼児期を過ぎてしまった小学生でも、ポイントを押さえたトレーニングをすれば発音は上手になります。
そのためにはカタカナ英語から離れ、英語本来の音で覚えなければいけません。日本語の音にはない英語独特の発音を覚えることが大切です。
また個別の単語の発音だけでなく、文章として読まれるときの強弱にも気をつけるようにしましょう。
年齢が上がるほど英語らしい発音を身につけるのは大変になります。発音のトレーニングを続けるためには「ネイティブのように話したい!」という憧れを持つことも重要になります。
子どもが本物の英語に触れるような環境や機会を作ってあげましょう。お母さん自身が英語の発音が苦手でも、きっと子どもは前向きな気持ちで発音トレーニングをするようになります。