「英文法の授業が大好きだった」人は少数派です。本来、英語の語順や用法をまったくわからない日本人のために説明してくれるありがたい授業なので、もう少し感謝されてもいいはずです。
ところが実際は「英文法など役に立たない」「細かい知識ばかり覚えさせられた」など最低の評価ばかりです。確かに参考書を見ると小難しい用語で埋め尽くされていて、楽しく読める内容ではありません。
参考書や教科書は「正しいこと」を伝えるのが目的で、「わかりやすく」伝えるのは教師の腕にかかっています。ところが多くの英語教師も「正しいこと」だけを伝えてしまい、生徒は混乱しているのが英文法の授業の実態です。
子どもが英語を学ぶときに避けて通れない文法の壁はいくつかあります。そのうちのひとつは時制です。「過去形・現在形・未来形」は日本語にはない概念なので、腑に落ちるまでにかなりの時間と労力が必要です。
その中でも特に「現在形」は「過去形・未来形」と比較しても理解するのが難しい時制です。ワークブックに取り組んでも英語スクールで習っても、正しく理解できている子どもは少ないです。
そこでお母さん向けに、「現在形」の本質について説明することにしました。楽しい話題ではありませんが、一度理解すると子どもにも良いアドバイスができます。ちょっとだけ辛抱して最後まで読んでください。
Contents
現在形は「今」ではない!
中学校で本格的に英語を学習すると最初に扱う時制は「現在形」です。その後に学習する過去形・未来形と合わせて「3つの基本時制」のうちのひとつです。
ところがこの「現在形」は意外とクセモノです。他の二つの時制にはない特徴があるので、正しく理解するには時間がかかります。
まずはお母さんが正しく理解して子どもの質問に答えられるように準備しておきましょう。
過去形・未来形は点、現在形だけ幅のある時制
学生時代に少しだけ戻って、3つの時制を復習しましょう。
*過去形
2013年の時点(過去)において、「10歳だった」と伝えています。
*未来形
来年の時点で10歳になります、と伝えています。
*現在形
日本語訳は「私は10歳です」で間違ってはいませんが、もう少し深く考えてみましょう。昨日私は何歳でしたか? 明日私は何歳でしょうか?
現在形は「今」のことだけでなく、少し前から少し未来のことまでを含めた時間を表現しています。過去形と未来形がそれぞれの時間軸の点で表現できるのに対して、現在形には「幅」があるのです。
これは現在形の大きな特徴なので正しく理解しましょう。
現在形という用語が悪い! 「いつものこと形」と呼ぼう
現在形には「幅」があることはすでにお伝えしました。しかし、中学生、いや高校生でも正しく理解している生徒は少ないかもしれません。
混乱の一因は「現在形」という文法用語ではないかと考えています。日本語の現在とは「今」の時点のことです。
英語の現在形を子どもにわかりやすく伝えるために、現在形ではなく「いつものこと形」と呼ぶことを提唱します。これは私のオリジナルではなく、友人の英語の先生が教えてくれたことです。
「いつものこと形」なら、英語の現在形を的確に表しています。例えば、I drink coffee after meals. なら「私は食後コーヒーを飲みます」という「いつものこと」を表現しています。
昔、高校の受験参考書の解説には「現在の反復動作」「不変の真理」に現在形を用いると書いてありましたが、子どもにそんな説明をして理解できません。
「不変の真理」を表す例文として代表的なものを紹介します。
これも「いつものこと」で充分説明できます。地球が太陽の周りを回っているのは「いつものこと」だからです。
子どもに3つの基本時制「過去形」「現在形」「未来形」を教えるときは、現在形は「いつものこと形」として理解させましょう。現在形だけ「幅」のある時制であることを教えてあげるだけで英語の理解度は格段に違ってきます。
「今」を語るなら、現在進行形
では今この時点のことを表すには、どうしたらいいのでしょうか。答えは、「現在進行形」です。
例文を見て違いを感じ取りましょう。
I listen to music every day.(現在形orいつものこと形)
I am listening to music.(現在進行形)
先述のとおり、「いつものこと形(現在形)」には幅が感じられます。おとといも昨日も今日も明日もあさっても「音楽を聴く」のです。
現在進行形では「(今)音楽を聴いている」ことを表しています。幅は感じられず、今この一点だけです。
子どもに時制を教えるのはプロでも難しいです。「現在」という文法用語に引きずられて、「今」を表す現在進行形と「いつものこと」を表す現在形を混同する傾向があるからです。
また「現在形」では「3人称・単数(he, she, itなど)」が主語になると動詞に「s」をつけるルールがあります。3つの基本時制の中で最も難しい時制です。
もし子どもが英語スクールや塾の先生から時制を教わって混乱していたら、お母さんがもう一度整理して教えてあげましょう。
3つの基本時制と3つの相
子どもが時制を学ぶときに混乱してしまうもう一つの原因は、時制の知識が整理されないまま詰め込まれるからです。3つの基本時制のあと、進行形や完了形などが追加されると訳がわからなくなります。
ここでは時制の概念をわかりやすくするために、表を用いて解説します。また、小学6年生までにどの時制まで学習しておいたほうがいいのか、の目安についても触れます。
- すべての時制を一枚の表で理解する
まず、「過去形」「現在形」「未来形」の3つの基本時制があります。
基本 | 過去形 | 現在形 | 未来形 |
---|
そして3つの基本時制だけでは表現できないニュアンスがあるため、さらに3つの概念を掛け合わせます。
基本 | 過去形 | 現在形 | 未来形 |
---|---|---|---|
進行 | 過去進行形 | 現在進行形 | 未来進行形 |
完了 | 過去完了形 | 現在完了形 | 未来完了形 |
完了進行 | 過去完了進行形 | 現在完了進行形 | 未来完了進行形 |
ご覧のとおり、時制は全部で3×4=12あります。しかし、基本はあくまでも過去形・現在形・未来形しかありません。「進行」「完了」「完了進行」は「味付け」です。
麺の基本が、「うどん」「そば」「パスタ」とします。それに「カレー味」「カルボナーラ」「めんつゆ」の味付けをしていると考えればわかりやすいかもしれません(一部食べたくない組み合わせがありますが)。
基本 | うどん | そば | パスタ |
---|---|---|---|
カレー | カレーうどん | カレーそば | カレーパスタ |
カルボナーラ | カルボナーラうどん | カルボナーラそば | カルボナーラパスタ |
めんつゆ | めんつゆ+うどん | めんつゆ+そば | めんつゆ+パスタ |
詳しい説明は割愛しますが、現在完了形は「現在形」の一種です。
I have just finished my homework.
これはたった「今」宿題を終えたという表現なので、現在形のグループであることは明らかです。
もし子どもに英語の時制について解説を求められて混乱してしまったら、一度この表を眺めてみることをおススメします。
小学6年生までに理解しておきたい時制はここまで
では、小学6年生までに時制についてどのあたりまで理解しておけばいいのか、の目安について解説します。
英語の絵本の読み聞かせをしたことのあるお母さんならすでにお気づきと思いますが、いきなり過去形のオンパレードです。なぜなら、物語は「~しました」という過去形で大部分が語られるからです。
まずは現在形・過去形を理解するところから始めましょう。お母さんが中学時代にやったような不規則動詞の「原形・過去形」を呪文のように唱える覚え方は、子どもには不向きに感じます。
例えば、子どもは絵本や本の音読を繰り返しながら、thoughtとthinkを別々に覚えてもいいです。そのあとどこかの時点でふたつの単語がつながって「同じ単語である」と認識でいれば大丈夫です。
余談ですが、未来形は正確には動詞は変化していません。willや be going toを組み合わせて表現するので「未来表現」と呼んだほうが適切です(これも英語教師の友人に教えてもらいました)。
3つの基本時制を理解したら、それに進行形の味付けを加えられれば表現の幅はグッと広がります。小学6年生までに、表で示された「赤とオレンジの枠」まで理解できれば充分です。
*学習の優先順位の第一位は 赤 > 黄色 > 緑 > 青
まとめ
「現在形」が表現するのは「今」の一点ではなく、幅のある「いつものこと」です。「今」に限定した内容を表すには「現在進行形」を用います。
この点において、「現在形」は他の基本時制である「過去形・未来形」とは決定的に異なります。また現在形においては、主語が3人称・単数の場合、動詞にsをつける決まりがあります。「現在形」は中学校で最初に習う時制ですが、実は最も難しい時制と言えます。
進行形・完了形・完了進行形は、「時制」への味付けです。これらのことを長期間に渡り一つずつ学ぶと頭の中が混乱してしまいます。しかし、一覧表で眺めればそれほど難しいことではありません。
小学生にも理解しておいて欲しいのは、3つの基本時制と進行形までで充分です。ここまで進めば簡単な本を読めるようになるので、英語学習のスピードは加速します。