英語学習の楽しみはいろいろありますが、英語を聴いてダイレクトに自分の脳で内容を理解できたときは「英語を学んできてよかったな」としみじみ思います。
英語を長く学ぶには、損得勘定ではなくこういう喜びが大きな原動力になります。子どもであっても、これは同じではないでしょうか。
一方で、リスニング能力が今後英語の試験で大きな比重を占めることになりそうです。社会人の昇進や就活などに使われるTOEICはリーディングとリスニングが半々なので、リスニングを得意にしておくと有利に働くことは間違いありません。
従来は文法・単語学習・リーディングなど優先で後回しにされがちでしたが、今後は早めにリスニング対策することが大切です。
今回は英語試験におけるリスニングの状況と、小学生がリスニング学習を始めるときに気をつけるポイントについて詳しく説明します。
子どもの英語リスニング力を伸ばそう
リスニングは4技能(読む・書く・聴く・話す)のうちのひとつです。しかし、リスニングは他の技能とも密接に関連しています。だから、リスニング能力だけを単独で伸ばすという考え方は正しくありません。これは他の技能にも当てはまることです。
英語を聴き取るには、まず単語力と文法力が必要です。英語教育に携わる人の間では常識ですが「知らない単語は聴き取れない」からです。したがって、知っている単語の数が多いほど聴き取れる確率は高まります。
文法が重要なのは次のような場面です。たとえば、“He’s been to Okinawa…” の短縮形の部分(He’s)の部分を聴き取るときに役立ちます。もし現在完了形(have+過去分詞)の知識があって、次に続くbeenを聴き取れればこの ’s がhasの省略形だと理解できます。
また、実際の英語でこの ’s を聴き取るのが難しかったとしても、文法の知識があれば「hasと言ったに違いない」と良い先入観を持てます。したがってリスニングを伸ばしたければ、文法を学ぶことが大前提です。
リスニングとリーディングには強い相関関係があります。リーディングで返り読み(目線を左に戻して何度も同じところを読む)をしている子どもは、リスニングで英語を理解することは不可能です。
なぜなら音声は聞こえた順番に消えるので、読まれたとおりに理解できなければそれで終わりです。返り読みをしていては、英語の内容を耳で聞きながら内容を理解することは不可能です。
スピーキングにおいては、一方的に自分だけが話すわけではありません。相手の言った内容や質問に正しく反応することで英会話は成立します。つまり、リスニングができないとスピーキングも成立しません。
これらのことから、リスニングを伸ばすためには単語と文法力を基礎にして、他の技能と同時に伸ばしていかないと難しいことがわかります。
リスニングが苦手な子どもは早めに克服しよう
中学・高校での英語のテストではあいかわらずリーディングが中心です。定期テストでもリスニングを導入していますが、配点はそれほど高くありません。そのため生徒はリスニング対策をつい後回しにしてしまいがちです。
ところが高校入試や大学入試ではリスニングの配点が今後高くなることが決定しています。センター試験では250点満点中50点でしたが、次の大学入試共通テストでは、英語の50%はリスニングにすることが検討されています。
リスニングは暗記科目のように一朝一夕に仕上げられません。日常的に英語音声を利用した地道なトレーニングを長期間実施して初めて身に付きます。
理想はそれぞれの学習段階に合わせて、リスニング能力を継続的に引き上げていくことです。リスニングに苦手意識を持たぬよう、小学生のうちから少しずつ英語の音声に慣れていく必要があります。
リスニングが得意だとこんなに得をする
リスニングが得意だと、そうでない生徒と比較してかなりのアドバンテージを得られます。英検でも大学入試問題でも、リスニング問題がもし文字で印刷されていたら実はかなり簡単な問題だからです。
つまり音さえ聞き取れれば、割と簡単に解答できるため貴重な得点源にすることができます。我が家の息子は小学4年生のときに英検2級に合格しました。海外のインターナショナルスクールに通っていたためリスニングは得意です。
成績表を細かく見ると、リーディングや語法の問題で少し間違いがありました。しかし、リスニング問題の出来は良好でした。英語を聴き取ることができれば、小学生でも理解できる内容であることの証明です。
中学・高校の英語の授業は英語で教えられる
今後、中学・高校の英語の授業は基本的に英語で行われる予定です。もし、リスニングが苦手だったら英語の授業がほとんど理解できない状態になります。
このような事態を防ぐために、文法の説明だけは日本語に切り替える先生が多いと予想されますが、オールイングリッシュの授業にこだわる先生なら文法も英語で説明するでしょう。
6年間の英語の授業をほとんど聴き取れない状態で過ごすなんて、かなりの苦痛だと思います。こうならないためにも、早い段階から生の英語を聴き取れるように対策をするべきです。
子どものリスニングは精聴から取り組もう
リスニングのトレーニングには大きく分けて精聴(せいちょう)と多聴(たちょう)があります。精聴とは短めの音声を利用して、一字一句逃さぬように神経と研ぎ澄ませながら英語を聴き取る訓練方法です。聴き取り精度を上げるのが目的です。
多聴とは、英語をたくさん聞くことです。聴き取れない部分に執着せずに長めの英語を聴くことです。映像やテロップなどを参考にしながら、聴き取れなかった部分を想像しながら英語を聴きます。多聴は集中力を切らさずに大意をつかむのが目的です。
英語の中級者以上(英検2級以上)なら、両方とも平行して取り組むのが一番です。しかし、小学生の場合はほとんど英語の音を捉えることができないため、精聴だけに集中しましょう。
リスニング対策を始めるタイミング
リスニングのトレーニングをするタイミングですが、英検でいえば4級を取得したあたりから少しずつ精聴を始めるといいです。この時期になれば、最低限の単語と文法を身につけているからです。
このレベルになるまでは、英語をモデルとなる音声のマネをして音読するだけで充分です。我流で音読しても正しく読めるようにならないので、英語の先生に指導してもらうのが一番です。
英語は文章として読まれる場合、音の変化を伴います。一例を挙げると、sit downでは、sit のtの音は消えて「スィッ ダウン」と発音されるのが普通です。このような英語特有の音の変化に慣れておくと、あとでリスニング力を伸ばすのに役立ちます。
英検4級を取得するまでは、英文を英語の音の変化にしたがって正しく音読するように訓練しておきましょう。語彙が600語を超え過去形や助動詞の基礎を学んだら、少しずつリスニングのトレーニングも取り入れていきましょう。
リスニングに効果的な子どもがハマる教材
リスニングの精聴トレーニングの詳細については「子どもの英語リスニングは精聴で伸ばそう(実践編)で説明しますが、何度も同じ英文を聞くので大人でもきついと感じるときがあります。
そのためリスニング学習に使用する教材はできるだけ子どもが「楽しい」「おもしろい」と感じる素材であることが望ましいです。平易な語彙を使用しながら内容が楽しい素材を探すのは難しいのですが、これはとても重要なことです。
以前、マレーシアに居住していたときインターナショナルスクールに通う息子のリスニング力を伸ばしたいと考えたことがありました。そのときに、いろいろと探した結果、まさに理想的なリスニング教材「Little Fox」を紹介します。
「Little Fox 英語童話ライブラリー」をおすすめする理由
息子が実際に使って効果を上げたのは「Little Fox 英語童話ライブラリー」でした。
レベル別に子ども向けの楽しいストーリーがたくさんあり、集中力が切れない長さにまとめられているところが素晴らしいです。人間は物語を欲するので、「次はどうなるのか」と興味や好奇心が喚起されます。これが英語学習を続けられるエンジンです。
400本近くの動画が無料で体験できます。小学生なら、レベル1か2から始めるとよいです。Little Foxの素晴らしさは、物語のおもしろさだけではありません。再生機能や学習機能がとても充実しています。
パソコンで再生する場合、動画の横に5つのアイコンが並んで見えます。
・クイズ(鉛筆のアイコン)
内容一致問題です。レベル2では、本文中の英語が一文読まれて、それと一致する絵を2つの中から選びます。英検4級くらいのレベルです。
・単語学習(ABのアイコン)
動画で登場した主な英単語が学習できます。掲載されている例文は動画の中の説明文やセリフと一致しているので、使用された文脈を思い出しながら学習できます。
子どもの学習者のために、スピーカーのアイコンを押せば単語の正しい発音を聞くことができます。日本語の定義で使用される漢字にはフリガナが振ってあるので、まさに至れり尽せりです。
・スペリング学習(クロスワードのアイコン)
英文字のタイピングができるなら、表示された単語をタイピングすることによって学習します。ちょっとしたゲームのようになっています。タイピングができない子どもには、使えない機能です。
・MP3ダウンロード(ヘッドホンのアイコン)
音声だけをダウンロードできます。スマートフォンなどにダウンロードしておけば、外出時に音声だけを聴いて物語を再生することができます。
動画の情報に頼らず音声だけで場面を想像したりできるため、リスニング力を磨くにはとてもありがたい機能です。
・プリンタブルブック(プリンターのアイコン)
A4の紙に印刷すると、一冊の絵本が出来上がる機能です。この機能は地味ですが、とても価値の高いものだと私は思います。
ホチキスで止めてテーブルの上に置いておくと、暇なときに子どもは英語を読むようになります。一度動画で内容を理解しているので、英語を読むのが苦になりません。
洋書はコンスタントに購入するとかなりの金額になります。有料版を使用したとしても、この機能だけで元が取れてしまいます。
・スクリプト(紫のアイコン)
最後は、動画の英文だけを印刷できる機能です。圧巻なのは、単語をクリックすると表示/非表示を切り替えられるため、オリジナルの「虫食い」テキストを簡単に作れるところです。
リスニングでポイントとなる部分をOFFにして、その他の部分をONにすれば子どもの能力に合わせたリスニングテストを作成できます。
精聴用と多聴用のエピソードを分ける
まじめなお母さんは、Little Foxのすべてのエピソードを精聴させようと考えるかもしれません。しかし、せっかく楽しい物語(動画)を子どもが楽しめなくなってしまいます。
そこで私のおすすめは、精聴用の動画と多聴用の動画を分けることです。子どもがある程度内容がわかるレベルなら、うるさいことは言わずに好きなストーリーを時間を決めて見せます。
おもしろいセリフは子どもが勝手に覚えるので、あまり英語の勉強と結び付けるのはよくありません。とにかく楽しませておけばいいです。
精聴用の動画は、1話すべて(または一部)を何度も何度も繰り返し聴きながらトレーニングをします。内容のおもしろさも大切ですが、レベルの選択が鍵になります。
30秒くらいの部分を取り上げて、字幕を見ずに何度も英語を聴きます。最初に聴いたときに、せめて4割くらい理解できるものを選ぶと挫折しないで済みます。
無料でもしばらくは学習できる
子どもが食いつくかどうかを確認するために、しばらくは無料で見られる範囲で試してみましょう。400本近い無料動画があるので、数か月は困りません。
子どもがハマったのを確認できたら、有料版の購読を検討しましょう。長期一括にするほど割安になっています。
アメリカドルでの価格設定なので、為替レートの変動により日本円での費用が異なりますので注意しましょう。
パソコン(タブレット)、インターネット環境は必須
Little Foxの機能を使い倒すなら、パソコン・プリンター・インターネット環境は必須です。スマートフォンやタブレットのアプリからも利用できますが、一部機能に制限がかかったり仕様が異なります。
リスニングは音声にかかわるトレーニングなので、デジタル機器の得意分野です。昔なら到底実現できなかった学習環境とコンテンツが世界中から利用できるようになっているので、積極的に英語学習に取り入れましょう。
具体的なトレーニング法については、こちらの動画セミナーで詳しく説明しています。
子どものリスニングで聞き流し教材は効果なし
新聞・雑誌などの広告で大々的に宣伝されているリスニング教材に「聞き流し教材」があります。勉強不要で、ただ音声を再生してれば自然と英語が聞き取れるようになる、というウリで人気があるようです。
しかし、断言しますが英語をただ聞き流すだけでは、BGMと何ら変わりません。学習効果はゼロです。聞き流すだけではリスニング力は向上しません。
多聴と聞き流しは似ているように感じる人もいるでしょう。しかし、多聴ではわからない部分を映像や文脈などで必死に補いながら英語を聴きます。何も考えずに英語を聞き流すときとはまったく異なります。
歌はリスニング学習にあまり向いていない
洋楽をリスニングに取り入れたいと考えるお母さんも多いかもしれません。確かに大好きな歌なら、リスニングには最適と考えたくなるのももっともです。
しかし、歌もまたリスニング学習の教材としてメインに使用するのに向いていません。なぜなら歌は独特の節がつくため普通に読まれる英語よりも聴き取るのが難しいからです。
NHKの朝ドラ『まんぷく』は人気のあったドラマなので、観た人も多かったと思います。その主題歌「あなたとトゥラッタッタ」はドリカムが歌っていましたが、日本語であるにもかかわらず、私はほとんど聴き取れませんでした。
これと同じ現象が英語でも起こります。ネイティブでも聴き取れない歌を日本人の子どもがリスニング学習に使うのは不適切です。
また、歌詞では文法的な正しさよりも語呂の良さを優先することがしばしばあります。たとえばビートルズが歌っていた「Ticket To Ride」では、she doesn’t careとすべき箇所がshe don’t careと歌われています(下の動画0:33あたり)。
ただし、歌は耳に残りやすいし、すべての歌がリスニングに不向きなわけではありません。息抜きに英語を楽しむ分にはまったく問題ありません。あくまでもリスニングのメイン教材としては不向きであるということです。
リスニングにまったく効果がないのが「聞き流し教材」です。また、洋楽の歌はネイティブでも聴き取りにくいことを考えると、リスニング学習の教材としては不向きです。
端的にまとめると、聞き流さないのがリスニング学習です。ストーリーのあるもの、内容がまとまっているものを標準的な英語で話された素材を使うのがポイントです。
まとめ
英語を攻略することが受験や入試には大切です。また、新しい大学共通テストではリスニングの配点を半分にまで引き上げることが検討されています。リスニング対策を後回しにせず、早めに取り組むことが求められています。
小学生が英語リスニングを本格的に始めるなら、英検4級を取得した頃がいいです。リスニングには精聴と多聴の二つのトレーニング方法がありますが、初心者の場合は精聴だけで充分です。
使用する教材は子どもが続けやすいものを選ぶのがポイントです。私のおすすめはLittle Foxです。とにかく内容が充実しているのと、欲しい学習機能がすべてそろっているので、リスニング教材としては最適です。
聞き流し教材や洋楽などをリスニングに活用するのはやめましょう。聴き取り能力を向上させるためには、集中して英語を聴き取る努力が求められるからです。
リスニング能力を伸ばすと、英語試験において圧倒的に有利なので頑張りましょう。
次の記事「子どもの英語リスニングは精聴で伸ばそう(実践編)」では、Little Foxを使って実際にどのように子どもにリスニング学習をさせるのかについて説明します。