「基本単語」と聞いたとき、ほとんどのお母さんは「簡単な単語」というイメージを抱くかもしれません。このイメージは半分正しく半分間違っています。簡単であるがゆえに最も使用頻度が高く、自由自在に単語を使いこなすことが求められるからです。
また簡単な単語ほど定義がたくさんある傾向があります。例えばreinstate(を復職させる)は英検1級レベルの単語です。辞書を引くと項目は数個で終了です。一方、基本単語のplayを辞書で引くと、多くの定義が並んでいてどれを覚えたらいいのか困るほどです。
基本単語を覚えるときには、英語を見て日本語の訳を答えられるだけでは不十分です。今回は、基本語を子どもに学ばせるとき注意すべきポイントについて解説します。
お母さんに協力をお願いしたいのは、根気よく子どもを見守ることです。単語はすぐには覚えられません。意味を忘れたからといって怒らずに、子どもを励ましながらボキャブラリーの定着を目指すのが理想です。
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基本単語はすべてアクティブ・ボキャブラリーとして考えよう
小学生のうちに覚えたほうがいい単語数を600語程度と仮定します。これは中学2年生程度(英検4級)に相当します。中学校での必修語は1500語くらいまで増えることを想定すると、入学前にその4割を覚えておかないと取りこぼしが発生します。
ここで問題になるのは、「どの程度まで単語を学ぶか」です。その単語を「読んだときに意味がわかる程度」なのか、「日本語から瞬時に英語が口から出せるレベル」なのかでは学習方法も所要時間もまったく異なります。
小学生が学ぶ単語は「超基本語」ばかりなので、最終的には「日本語から瞬時に英語が口から出せるレベル」を目指しましょう。これは「スピーキング」や「ライティング」で使える単語にすることです。いわゆる「アクティブ・ボキャブラリー」にすることが目標です。
4技能で使いこなせる状態が目標
アクティブ・ボキャブラリーとして基本動詞を覚えるということは、4技能(リスニング・スピーキング・リーディング・ライティング)すべてにおいて活用できることを意味します。例を挙げて説明します。
基本動詞のひとつaskについて取り上げます。単語を覚えるときは最初に正しい発音(読み方)から入ります。電子辞書や先生が発音した音をよく聞いて学びます(リスニング)。次に中核となる意味とイメージを覚えます(リーディング)。
ask: たずねる、頼む
「パッシブ・ボキャブラリー(受信型の語彙)」の学習はここまでです。続いて「アクティブ・ボキャブラリー(発信型の語彙)」にするための訓練です。
単語を会話(スピーキング)で使うためには、よく使われる組み合わせを覚える必要があります。例えば「ask a question: 質問をする」「ask sb to do: 人に~するように頼む」「ask for: を求める」などが該当します。
*sb=somebodyのことで人が置かれる
最後に正しい綴りを覚え、文法の知識と絡めながら過去形はaskedになることを覚えるとライティングで活用できるようになります。
このように基本単語とは「頻繁に使用される言葉」であり、「覚えるのがやさしい単語」ではありません。運用法まで深く学ぶ必要があるため覚えるのは大変です。
名詞は「単語→イメージ」
具体的な名詞は日本語訳ではなく「瞬時にイメージできるかどうか」が重要です。特に普通名詞の場合はこれが当てはまります。
具体的な名詞は、そのものを思い浮かべればいいので簡単です。一方、抽象名詞は半ば強引にでも具体的なイメージを持つように子どもにアドバイスしましょう。そのほうが英語の処理速度が向上し使える単語になっていきます。
例えばhealth(健康)を覚えるときに、「健康」の訳語だけを暗記しても子どもの場合すぐに忘れてしまいます。そこからもう一歩すすめて、いかにも健康そうな人をイメージしてみることが大切です。
動詞・形容詞・副詞はコロケーションで覚える
先述のとおり、会話で単語を使えるようにするためには「コロケーション」で覚えることが必要です。コロケーションとは「ある単語とよく使われる組み合わせ」のことです。
例えばgoなら「go to school: 学校に行く」「go home: 家に帰る」が基本的なコロケーションになります。
覚え方は何度も暗唱するしかありません。紙に書くのも悪くはありませんが、数をこなすのが必要なので時間の制約上、口頭練習が基本です。正直とても大変なトレーニングですが、これを乗り切らないといつまで経ってもアクティブ・ボキャブラリーになりません。
多義語攻略は読書で鍛える
多義語とは「ひとつの単語で複数の意味を持つ単語」のことです。まじめな子どもは単語帳や辞書に書いてある日本語の意味をすべて覚えようとしますが、挫折するのがオチです。
多義語の攻略法は、まず中核になる意味を一つ覚えます。そしてできるだけそこから意味を広げられるようにイメージを柔軟に持つように心がけることが大切です。
次に、できるだけ英語での読書を習慣づけることです。基本単語はさまざまな文脈の中で繰り返し登場します。すると最初に覚えた「中核となる意味」から大きく外れる使い方をされていると違和感を抱くことがあります。
例えば「book=本」と覚えている子どもが、読書中に次のような文章に出会ったとします。
まずbookにedがついていることから動詞の過去形であることが推測されます。でもbookは本という意味しか知りませんから「違和感」を覚えます。
そこで先生に聞いたり辞書を調べたりすると「bookには予約する」意味があることを学びます。ここまでは少し勉強のできる子どもなら普通にやれるでしょう。でも、ここで終わらせてはいけません。
もう一つ踏み込んで「なぜ、本のbookが予約するという意味になるか」をしっかりと考えます。丸暗記よりも「なぜ?」を大切にして本質的な理解を目指します。
古い洋画を見ればホテルで予約を受けるときは宿泊名簿に記入しているシーンがあります。あの台帳がbook(本)であり、そこから動詞として使われるようになったことが想像できます。
このように読書を通じて多様な文脈の中で違和感を覚えるたびにチェックし、さらにそれを知っている知識と結び付けてみることで記憶は強化されていきます。
単語は覚えたようにしか身につかない
子どもの単語学習をサポートするにあたり、ひとつの原則を知っておく必要があります。それは「単語は覚えたようにしか身につかない」ことです。
英単語から訳語だけを結び付けて覚えると主に「リーディング」に使える単語となります。でも、その他のリスニング・スピーキング・ライティングの分野においてはあまり期待できません。なぜなら、そのような訓練をしていないからです。
さまざまなアプローチから単語を学ぶために最も効率のよい学習法は「音読トレーニング」です。決して楽ではありませんが、4技能と文法の能力を総動員することで「使える単語」が身につきます。
リスニングを伸ばす音読トレーニングについては、こちらの動画セミナーで紹介しています。
3色ボールペンの活用法
基本単語を学ぶときに便利なツールとして「3色ボールペン」があります。色の組み合わせは黒・青・赤がいいです。この3色ボールペンを使った基本単語の覚え方を紹介します(ここでは例として動詞の「listen」を覚えます)。
まず、先生の発音・CD・電子辞書の読み上げ機能などを使って正しい発音を覚えます。繰り返し子どもに発音させます。もちろん【l】と【r】の区別ができているかもきちんとチェックします。くれぐれもカタカナ読みで妥協しないように注意しましょう。
次に紙(広告の裏などでよい)を用意します。そして、音節(音のかたまり)ごとに読みながらそれに対応させて紙に綴りを書きます。こうするとアルファベットのl(エル)を見ながら【l】の発音をするので、文字と音を一致させられます。
またtがあるにもかかわらず、発音されないことにも気づきます。自分の先入観と実際の綴りのズレを何度も確認するのはとてもよい勉強になります。
次にlistenを含む例文「Tim listened to the radio.」を丸ごと音読します。CDの助けを借りながら正しい発音で読めるまで何度も練習します(最低20回)。listenedのedの発音は【d】です。細かいところまでこだわって発音しましょう。
スムーズに読めるようになったら、今度は3色ボールペンの黒を使って例文を見ないでブツブツつぶやきながら紙に英文を書いていきます。
まず、一回だけ英文を声に出して読みます。このときの意識はあたかも誰かに真剣に話しかけているようなつもりで読みましょう。
例えば壊れたラジオを前に怒っている父に自分が壊したのではないことを証明するシーンを思い浮かべます。そして父に向って「ティムがラジオを聴いていたよ」と言わなければいけません。
テキストを何かで隠しておいて、3色ボールペンの黒で英文を書きます。忘れた個所は飛ばして、思い出したところはすべて紙に書きましょう。
忘れた個所は意味を思い出しながら必死になって思い出そうとさせましょう。子どもはすき間を埋めようと必死に頭を使いながら「どんな言葉が適切か」を探っています。簡単に正解を与えてはいけません。
どうしてもわからなかったら、正解の例文を見ます。でもすぐに全文を見てはいけません。先頭から少しずつカバーをずらして、一文字ずつ確認します。
そうすると子どもは「to」がひらめきます。このようにして思い出すと、listen to というコロケーションが頭に残りやすくなります。同じようにradioの前のthまで見れば「the」を思いつくでしょう。
「話題に出ているラジオは、話している人も聞いている人もどのラジオのことか明らかだからtheが必要」と納得します。綴りを間違えたり抜かした言葉は赤で記入します。
これを5単語くらいをそれぞれの例文とともに黒ボールペンで写します。それが終わったら、青ボールペンで同じことを繰り返します(Round 2)。同じようにRound 3は赤ボールペンで書きます。ボールペンは消せないので、自分の間違いを確認しながら学べます。
すぐに同じ単語で3回書かないのは、一回忘れるためです。記憶の定着には「忘れる→思い出す」作業が欠かせません。時間を空けすぎると永遠に忘れてしまうので、忘れかけのタイミングで復習するのが効果的です。
復習のタイミングと頻度が鍵
その日の単語練習を終了したら、翌朝にもう一度復習するのも非常に効果的です。夕方~夜に新しい単語を扱い、翌朝に復習します。
朝は脳に余計な情報が溜まっていない状態なので、単語を定着させるタイミングとしては最適です。
このような形で1週間の中で5日間を単語学習に充て、土日の2日間は予備日としておきます。我が家の経験上、土日は意外とイベントが多く普段のほうが予定通り学習できます。5日で1サイクルとして考えると長続きするのでおすすめです。
「忘れたことを叱らない」
繰り返しになりますが、単語の定着には「忘れる→思い出す」行為の反復が不可欠です。子どもが何度も単語の意味を覚えられないのは普通です。お母さんから見ているとイライラが募ってきますが、絶対に叱ってはいけません。確実に子どもは英語嫌いになります。
忘れるのは人間の本能のようなものです。特に子どもは雑念が多く、興味がなければあっという間に忘れます。それを充分に理解して根気よく復習するように促しましょう。ただし「思い出そうとする」努力は怠らないようにお母さんは子どもに注意する必要はあります。
まとめ
小学生のうちに覚えておいたほうがいい英単語の数はおよそ600語です。これくらいをマスターしておくと、中学校でスムーズに英語の授業についていけるようになります。
小学校で学ぶ英単語はすべて「基本単語」です。基本単語は「最も使用頻度が高い単語」のことであり、「覚えるのが簡単」という意味ではありません。実際、600語はすべて英語で発信するときにも使えるようなアクティブな状態にしておく必要があります。
4技能で使える単語にするためには発音・意味のチェックから始まり、読書を通じて意味を思い出したり、コロケーションで覚えたりする多角的なトレーニングが必要です。
単語学習の基本は反復です。「忘れる→思い出す」を繰り返すことで記憶は定着していきます。お母さんは子どもの単語学習を見守るときに、忘れたことに対して叱ってはいけません。根気よく付き合いながら「思い出す」努力を促すようにしましょう。
基本単語をマスターするのは大変ですが、身につけると中学以降で大きな起爆剤となります。また単語の学習方法を確立するとその後の学習にも大いに活用できます。語彙力は英語力の根幹なので、じっくりと取り組んでいきましょう。