世の中には「知らないほうが幸せだった」雑学があります。例えば、「きゅうりは世界一栄養のない野菜」とか「エビのしっぽの成分はゴキブリの羽と同じ成分でできている」などが該当します。
学校で習う英文法にも似たものがあります。その代表例は「時制の一致」です。高校で英語を学んだ人なら一度は耳にしたことがあるはずです(忘れた人はそのまま忘れたほうが幸せですから、この先読まないでください)。
この知識はまさに「百害あって一利なし」です。今回の記事は、高校時代に英語を一生懸命勉強したお母さんに向けて書きました。「時制の一致」は理屈に合わない部分が多いので、振り回されないように気をつけましょう。
子どもに英語を教えるときも、「時制の一致」の知識を子どもに押しつけないようにしていただきたいと思います。
Contents
時制の一致とは
高校の英語文法には「時制の一致」という項目があります。私は受験勉強の際、機械的に「時制を一致」させるようについ考えてしまいます。このときは何の疑念も抱きませんでしたが、今となっては「ほとんどインチキ」とさえ感じています。
時制の一致の不合理さを説明する前に、「時制の一致」とはどのようなものだったか確認しましょう。
時制の一致のおさらい
例えば、She said, “I am a student.”(彼女は「私は生徒です」と言った)から“”(引用符)を取り除くとします。
すると、She said that she was a student.(彼女は彼女は生徒ですと言った)と書き換えられます。このときに「時制の一致」を適用しなければいけませんが、その理屈は下の表のようになります。
*時制の一致
主節 | 従属節 |
---|---|
She said | that she was a student. |
主節の動詞said(過去形)に揃えるために→ | 従属節の動詞(be)もwas(過去形)にする |
「時制の一致」は変?
息子が海外のインターナショナルスクールに通っていた頃のことです。子どもを学校に迎えに行くと同級生のママさんに会いました。話題は今学期で母国(韓国)に戻ってしまう生徒の話です。
韓国に帰る女の子のお母さんから直接聞いていたので、私は次のように教えてあげました。“Her mom said (that) they would go back to Korea.”
主節の動詞saidの時制は過去形です。時制の一致のルールを適用して、willの過去形wouldを何も考えずに使いました。文法的には正しいです。
すると私の話を聞いていたママさんは目をまるくして“Oh, are they already gone?”(えっ、もういないの?)とたずねてきました。慌てて否定して「今学期が終わったら帰るんだよ」と訂正しました。
誤解の原因は私の「機械的な時制の一致」です。“He mom said they will go back to Korea after this term ends.”と伝えれば誤解されませんでした。しかし、この文には「時制の一致」が適用されていません。
例外だらけ
「時制の一致」には例外がたくさんあります。というより、一致しないことのほうが多くて、「そんなルールは存在しない」と表現したほうが適切です。
具体例をもう少し見てみましょう。
「時制の一致」をしなくてもよい例
この場合従属節の文章water boils at 100℃.は「不変の事実」なので現在形boilsのままにしなければいけません。boiledにはなりません。
時制の一致の例外はこれだけではありません。こうなると何がなんだかわからなくなってしまいます。
しかし、慌てないでください。英語における時制の発想はもっとシンプルです。子どもでも理解できます。
常に「今」と比較しよう
時制の大原則は、常に「今」と比較することです。これだけを頭に入れておけば、時制の一致など学ぶ必要はまったくありません。むしろ知らないほうがいいとさえいえます。
主節も従属節も「今」を基準にして時制を決めよう
主節の動詞も従属節の動詞も、「今」を基準に考えてみましょう。彼女が言ったのは過去なので過去形のsaidを使います。
“”内のI は彼女のことなのでsheに変えます。be動詞の時制については、「今」を基準にします。現在彼女は学校を卒業して働いていたら、studentだったのは昔のことなので、wasにするのが正解です。
この場合主節と従属節の時制は同じ過去形で一致しています。しかし、これはただの偶然です。
もし彼女の発言が昨日のことで、「今」も生徒なら「いつものこと」をあらわす現在形isを使用するのが正解です。だからShe said that she is a teacher.もあり得ます。
私が知り合いのママさんに間違えて伝えた発言も、「時制の一致」などにつられなければ簡単にわかります。
女の子のお母さんが発言したのは過去なので、過去形のsaidで正解です。
そして引用符内のweはher familyのことなのでtheyに置き換えます。彼らが韓国に戻るのは、私が発言している「今」を基準にすると未来のことなので、willを使うほうが誤解されません。
wouldでも文法上は間違っていませんが、この場合はwillのほうが適切でした。
主節の時制と従属節の時制はそもそも無関係
強調しておきたいのは「主節の時制と従属節の時制には何の関連性もない」ということです。それなのに受験勉強では繰り返し主節と従属節の時制を一致させようと問題を解き続けました。
そのときに問題に気づかなかったのは「たまたま一致していた」事例だけが、扱われていたからに過ぎません。
引用符の文章を間接話法(引用符ではない表現)を用いて表現するときは、動詞の時制よりも主語を正しく変えられるかどうかのほうがはるかに大切です。
例えば昨夜のパーティーでKateとMikeが“We are going to buy a house.”と発言していたとします。
これを間接話法で書き換えるとKate and Mike said that they were going to buy a house.となります。語り手である「私」から見てthat節内を書き換えるので、we→theyとするのが正しいです。
この視点の移動については子どもにもきちんと教えてあげましょう。
まとめ
英文法は英語を学ぶ上でとても大切です。しかし、「時制の一致」に関しては、むしろ知らないほうがマシです。
英語では時制の決め方はとてもシンプルで、常に「今」を基準にして決められています。そのため「従属節の動詞の時制を主節の動詞の時制に一致させる」ようにすると訳がわからなくなってしまいます。
子どもの英作文をチェックするときは、「時制の一致」の知識は忘れましょう。何も触れないほうが子どもは正しく理解する可能性が高いです。