中学校の英語の授業で先生が英単語の書かれたカードを素早くめくりながら、生徒にリピートさせていた光景を覚えてるでしょうか? あのカードを「フラッシュカード」と呼びます。主に単語の復習として昔から人気のあった道具です。
フラッシュカードを上手に取り入れると幼児の英語学習にとても高い効果が得られます。ところが「フラッシュカード」についてインターネットで検索すると、ネガティブな情報を目にします。
そこで、フラッシュカードによる弊害はどのようなものなのか、それを最小限にしつつ効果を上げる学習方法はないのかについて具体的に説明します。中途半端な知識で行動するのは危険です。この記事を最後まで読めば安心して取り組めるようになります。
Contents
フラッシュカードとは
「フラッシュカード」の英語のスペリングはflash cardです。flashとは「瞬間的に現れるもの」の意味です。
フラッシュカードは英語の授業でどのように利用されているのか動画を見てみましょう。
なかなかテンポ良くカードをめくっていますね。主に単語の暗記に有効なツールとして昔から取り入れられてきました。家庭での英語教育にも上手に取り入れると、子どもの語彙を飛躍的に伸ばせます。
ただし、注意点もありますのでフラッシュカードの長所と短所を正しく理解した上で導入しましょう。
フラッシュカードの長所
先ほどの動画でもわかるように、それぞれのカードを見せる時間は1秒以内です。すると生徒は瞬時に全体を把握して言葉を覚えるようになります。強制的に細かいところに目がいかないようにしているのが特徴です。
フラッシュカードは第二次世界大戦中に敵の戦闘機を素早く見分ける力を養うための訓練として導入されたものだそうです。戦闘機のパイロットは、瞬時に敵/味方を識別したり敵の数を把握したりしなければなりません。
敵と味方の戦闘機の写真をフラッシュカードにして戦闘機の名前を覚えました。数の把握方法については、それぞれのカードにドット(黒い点)を打ちその数を言い当てる訓練をしていたそうです。
人間の認識能力では、4つか5つのドットまでは瞬時に数を把握できます。しかし、6以上になると端から「いち、に、さん…」と数えていかないと数を把握できません。
ところがフラッシュカードによる訓練を重ねると、ドットが100を超えても瞬時に数を正確に言い当てられるようになったそうです。このようにフラッシュカードは視覚情報を通して大量の情報を脳にインプットするのに適しています。
英語に応用すると、フラッシュカードに描かれた絵を見たときにそれに対応する英単語を口から瞬時に出せるようになります。さらに応用すれば、「絵-単語」だけでなく「絵-関連したセンテンス」もインプットできます。
ある程度の年齢になってから英語を学習すると「車の映像→くるま→car」のように、一回日本語を間に挟みます。フラッシュカードで学習するとイメージとcarが直結して、瞬時に英語を口から出せるようになります。
また、幼児で大量の語彙を身につけると周りの大人から「よく知っているね!」とほめられることが多くなります。その結果、自分に自信を持つようになり、さらなる学習意欲の向上につながるのがメリットです。
フラッシュカードの短所
一方、フラッシュカードによる弊害も報告されています。例えば、「思考力が育たない」「自主性がなくなった」「表情が乏しくなった」「物事に無関心になった」などです。
フラッシュカードによる学習とこれらの症状との間にきちんとした因果関係は証明されていないようです。ただし、イメージとしては「洗脳」に近いものなので、子どもの人格に影響を及ぼす可能性もないとは言い切れません。
これらの症状に共通する原因は、「受け身の学習を長時間行ったから」です。子どもは五感をフル活用しながら、身の回りの物と言葉を結びつけて学んでいきます。例えば、散歩の途中で出会った犬の頭をなでてふわふわした毛を触りながら「いぬ」という言葉を覚えます。
一方、フラッシュカードでは、紙にプリントされた犬の写真を見て瞬時に「イヌ」と発音を繰り返すだけです。体験を通じて学んでいないので、犬を触ったときの感触やかわいいと思う感情が抜け落ちています。
そのため物事に関する興味関心が育たなくなってしまう可能性は充分ありえます。
デメリットの対処法
フラッシュカードの弊害を恐れるあまり、「まったく取り組まない」のももったいないです。実は2つの点にさえ気をつければ、フラッシュカードの弊害を避けることは簡単です。
一つ目は、5分くらいの短時間で終わりにすることです。「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」といいますが、何事もやり過ぎはいけません。短時間に抑えることで悪影響をほとんど受けずに済みます。
二つ目はフラッシュカードで覚えた知識を実生活と結びつけることです。例えば、フラッシュカードで動物の英単語を覚えたとします。その後動物園に連れて行って実物を見せることで知識と体験を関連付けできます。
そのとき感じた「大きいな」とか「おもしろい顔をしているな」のように感情が揺さぶられる体験をすることで、受け身の知識から能動的な記憶へと転換できます。
このように長時間やり過ぎないこととできるだけ実体験を積ませることの2点を守れば、フラッシュカードによる学習の悪影響を最小限にとどめられます。
フラッシュカードに関する注意点
大量の情報インプットに向いているフラッシュカードですが、万能ではありません。フラッシュカードの学習に向いていないものや、より効果的な与え方をお母さんは把握するようにしましょう。
・学習内容によっては不向きである
幼児向けのフラッシュカードの基本は、カードの表に絵、裏面に単語が書かれているものです。このことから名詞(物の名前)とは非常に相性がいいです。
動詞(動作を表す言葉)には、swimとかrunなど多数あります。これらの言葉も比較的フラッシュカードと相性がいいです。絵で表現しやすいからです。
ところが形容詞や副詞になると事情が違ってきます。例えば、「硬い」意味のhardを学習するときに適切なイラストを選ぶのが難しいです。石と豆腐の絵を見せてもピンときません。
同様に、副詞も絵で表現するのは難しいかもしれません。「きちんと」の意味のnicelyを端的に表す絵は難しいです。
このように、「パッと絵を見て瞬時に言葉が浮かばないもの」はフラッシュカードを使用した学習に不向きです。既製品の中でそのようなカードが混ざっていたら、思い切って使用しないほうがいいです。
・カテゴリーごとにまとめること
フラッシュカードの1セットは、同じカテゴリーの言葉でまとめるのが基本です。例えば「動物」のカテゴリーを作ったら、動物以外のカードを混ぜないことです。
初めに“Today we are learning about animals.” と子どもに伝えましょう。このように伝えれば子どもは心構えができて学習内容を受け入れやすくなります。
・シャッフルの効用
同じカテゴリー内でシャッフルするのはかまいません。例えば、1~10までの数字を覚えるときに、「3、6、5、1…」のようにカードを混ぜて練習するのはとても有効です。
フラッシュカードを使わない学習方法だと、8(eight)を思い出すときに1(one)から順番に口にしないと言葉を思い出せないことが起こりえます。ランダムなフラッシュカードで訓練すれば、どの数字を見ても瞬時に口から出てくるようになります。
アナログフラッシュカードvs. デジタルフラッシュカード
フラッシュカードには紙で作ったアナログのものと、デジタル機器(パソコン、タブレット、スマートフォン)で使えるアプリを利用したデジタルのものがあります。
どちらにも一長一短あるので、特徴を理解して試してみましょう(この記事ではデジタルを推奨しています)。
アナログ式(紙のフラッシュカード)
Amazonなどで既製品を購入するか、プリンターを利用しながら自作して紙のフラッシュカードを用意します。それでは、紙のカードの長所と短所を考えてみましょう。
・紙のメリット
紙の良さは何といっても「目に優しい」ところです。幼児にはできるだけ目に負担をかけたくありません。この点は紙は優れています。
・紙のデメリット
使いこめば汚れたり曲がるのはは仕方ありません。数が増えてくれば紛失することもありますし、保管場所も考えなくてはいけません。
お母さんがフラッシュカードを適切に扱えるようになるまでは、訓練が必要なこともデメリットです。私も経験しましたが、10枚くらいのカードの束を持って子どもに見せながらテンポよくめくっていくのは結構難しいです。
手順は、手前のカードの裏側にある「apple」を覚えながら、そのカードを子ども側に移動させ「apple」と読み上げます(子どもにはリンゴの絵が見えている)。次の「banana」を頭にいれながら、カードを表に移動して「banana」と読みます。
これを1秒以内でできるように次々と繰り返すので、慣れないうちは大変です。しかし、ゆっくりやってはフラッシュカードの意味がありません(考える余地を与えてしまうため)。
デジタル式(アプリ:Quizletの紹介)
フラッシュカード学習をデジタル化するなら、アプリケーションの「Quizlet」がおすすめです。息子が通う学校のスペリングの宿題で存在を知りましたが大変便利です。
Quizletの詳しい利用方法は後述するとして、ここでは長所と短所をまとめてみます。
・長所
オリジナルのカードを自由に作成できるのは、大変魅力的です。既製品の紙のフラッシュカードにも親しみやすいイラストが使用されています。しかし、子どものことを知り尽くしているお母さんが、子どもの趣味にあったイラストや写真を利用できるのは大きな利点です。
実際に使ってみると反応の悪いイラストや写真の入替えや、カードの追加・削除も自由自在です。また、紙のように場所を取らず、欲しいカードのセットをすぐに見つけられる機能も重宝します。
音声で英語を読み上げる(自動読みあげ)の機能があるので、英語の発音に不安を感じる人には便利です。
・デメリット
デジタル機器全般にいえることですが、目に負担がかかります。5分くらいの学習時間ならそれほど気にすることはありません。
Quizletでは他の誰かが作ってくれたフラッシュカードを利用できます。しかし、使い勝手が今一つのことが多く、結局自分で作ったほうがよいです。慣れるとそれほど手間はかかりませんが、忙しいお母さんは負担に感じるかもしれません。
アナログでもデジタルでもフラッシュカードの学習効果に違いはありません。個人的には、パソコンで学習セットを作る方が使い勝手が良いと感じました。
Quizletを利用した学習方法
Quizletはフラッシュカードのアプリというよりは、暗記学習用のツールです。その中の一機能にフラッシュカードによる学習があります。実際の画面には、さまざまな学習モードが表示されています。
綴り(スペリング)の学習もタイピングができれば可能ですが、幼児にはあまり使えない機能かもしれません。英語に限らず幅広い学習に応用できますし、大人になっても大変便利なアプリです。
Quizletとは
Quizletとは、オリジナルのフラッシュカードをオンライン上で作成できて、さまざまな学習モードで暗記ができるサービスです。初心者でも直感的に操作できるようになっていて、適当にボタンを押しているうちに簡単に理解できます。
他人の作成した「学習セット」を検索して利用することもできます。例えば、「英検4級単語」と検索するとそれに該当する学習セットがヒットするので、気に入ったものを選び学習に利用できます。
最も効果的な対象年齢は1歳~3歳
フラッシュカードを用いた学習(絵→音声)で最も効果が高いのは、1歳~3歳の幼児です。この年齢の子ども達は、文字からの干渉を受けずに映像をそのまま記憶する能力が高いそうです。
もちろん、小学生でも大人でもQuizletは暗記ツールとして効果的です。その場合は絵→音声だけでなく、英単語→日本語でも大丈夫です。
アカウントの取得
まず、Quizletにアクセスします。画面右上の「新規作成」を押すと、アカウント取得のウィンドウが現れますので、それぞれの項目に記入します。GoogleのアカウントやFacebookのアカウントからもログインできます。
アカウントは、お母さん用(先生)と子ども用(生徒)の2つ取得したほうがいいです。とりあえず、お母さん用だけを取得して、操作に慣れてから子どものアカウントを取得する方法でも大丈夫です。
お母さんは「先生用のアカウント」を取得して、子どもは「生徒用アカウント」で学習をすすめましょう。子どもの進捗状況をお母さんは確かめられます。息子の学校ではこれを使って宿題を出していたので、勉強していないと先生にすぐにバレました。
まずはあちこち開いてみて、使い勝手を確かめましょう。マニュアルを見るより、手を動かして試行錯誤するほうが早く覚えられます。
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お母さんには有料のアップグレードがおすすめ
幼児が英語を学ぶときにはカードの表面に「絵(写真)」を挿入します。この機能を使うためには有料のアップグレードが必要です。1年で$34.99なので、月々およそ330円の利用料です。「設定」から支払いに進めます。
設定の項目にはアカウントの種類を「先生」または「生徒」のどちらかから選べるようになっていますので、最初に間違えて選んだとしても後から変更できます。
作成
画面上の「作成する」をクリックすると、「新しい学習セットを作成する」の画面が現れます。最初にフラッシュカードのカテゴリーを決めて、タイトルを記入します。例えば動物のカテゴリーを作るなら「animals」と記入します。
後はフラッシュカードに該当する部分を作成するだけです。左側に単語、右側に画像を挿入していきます。例えば、左にdogと入れたら、右側の画像のアイコンを押すと自動的に犬の写真やイラストが出てきますので好きなものを選びクリックすると挿入されます。
この画像にはお母さんが撮影した写真や、インターネットの画像検索でダウンロードしたものを利用できます。例えば「family」のカテゴリーでは、「dad」に本物のお父さんの写真を使うなどの工夫もできます。
1カテゴリーにつき、10枚の単語カードを作りましょう。幼児の学習にはこれくらいの数は集中力が切れずにちょうどいいです。
カテゴリーは身の回りのものから始めて、職業、国旗など少しずつ世界を広げていくのがコツです。あまりにも抽象的で幼児の理解を超えるようなものは避けましょう。固有名詞は普通名詞を覚えさせたあとに取り入れるなど、順番にも配慮しましょう。
例えば動物の中で「bird」を覚えた後に、「sparrow」「hawk」「eagle」「owl」 などを覚えていくようにすると、頭の中に知識の階層が順序立てて組み立てられます。
学習方法
まず、パソコンのモニターの前にお母さんと子どもが座ります。小さな子どもなら、ひざの上に座らせてもいいです。キーボードの操作はお母さんの担当です。
“Today we are learning about animals. Do you like animals?”などと子どもと英語で話しかけながら準備をしましょう。子どもと勉強するときは楽しくやるのが基本であることを忘れないようにしましょう。
再生ボタンを押すと順番に「表→裏(単語読み上げ)」→次のカード、と自動で学習をすすめていきます。便利な機能ですが、残念なことに再生スピードはおよそ2秒で遅すぎます。これではフラッシュカードとしての効果は半減してしまいます。
仕方がないので、お母さんがキーボードを操作して素早くカードをめくりましょう。「spaceキー」で「カードをめくる」、「→キー」で「次のカード」にすすめます。紙のカードよりもずっと楽です。すぐに簡単にテンポ良くめくれます。
ある程度「絵→単語の読み上げ」をできるようになったら、センテンスにも挑戦しましょう。先ほど使った学習セットをコピーして、左側のセンテンスだけを変更します。
例えば、左に「I like cats.」-「猫の写真」とか、「She is sleeping on the sofa.」-「猫がソファーで寝ている写真」のように、センテンスを記入します。カテゴリーごとに同じ表現の方が混乱しません。学習セットのタイトルは「animals 現在進行形」のように設定します。
注意点
先述したように、長時間のフラッシュカードによる学習は危険性が指摘されています。「1回5分一日2回まで」のように時間と回数を制限しましょう。子どもの表情がぼんやりして機械的に解答しているだけの状態はよくありません。
子どもがまだ話せない時期は、リピートや発音練習はできません。話せるようになってから無理のないようにすすめていきましょう。お兄さんお姉さんがいる場合は、いっしょに取り組ませると盛り上がります。
受け身の学習にならないように、実生活の体験とフラッシュカードで覚えた知識をつなげるように意識しましょう。例えば、最近、乗り物カテゴリーで単語「bus」を覚えたとします。
お出かけしたときにバスを見かけたら、すかさず “What’s that?” とたずねましょう。子どもが “A bus!” と答えたら “Do you want to get on a bus?” と質問を続けます。
このように日常のあらゆる場面でカードの知識を体験と結びつけると、受け身の学習から能動的な学習へと変換できます。
お母さんへのアドバイス
Quizletには「自動読みあげ機能」があり、英語に関してはほぼ正しい発音とアクセントで再生されます。それを参考にしながら、お母さんも一緒に発音しながら子どもと一緒に勉強しましょう。
発音に関しては、ネイティブのような完璧さは不要です。ただし、L/R、TH/Sなど日本人がつまづきがちなポイントに注意をしながら読む練習は必要です。
フレーズやセンテンスを扱う場合はシンプルで自然な英語にしましょう。文章が正しいかどうか気になるようでしたら、英語に詳しい人に聞きましょう。
お母さんが読み上げるときは、気持ちや感情を込めるようにしましょう。子どもの学習効果において、お母さんの肉声にかなうものはありません。
楽しい雰囲気をつくるために、ジェスチャーや笑顔も大切です。毎回、フラッシュカードの学習を楽しみにするような雰囲気づくりができたら成功です。
最初は10枚のカードを覚えるだけでも時間がかかります。あせらずに根気強く続けましょう。5分間集中力を切らさずに続けられたら、子どもの集中力も相当高まっています。
まとめ
インターネットで「フラッシュカード」と検索すると、ネガティブな意見が多くヒットします。詳細は本文で紹介した通りです。何事にも両面がありますので、このような意見にも耳を傾けることは大切です。
しかし、過剰に恐れるあまりせっかくのプラスの面を無視してしまうのはもったいないです。日本語を介さずにイメージと英語を瞬時に結び付けて記憶できるトレーニング方法として効果は実証されています。
言葉や表現を数多く知るようになり、現実の世界と結び付けられるようになると、子どもは学ぶことの楽しさを感じるようになります。また集中して勉強する習慣をつけると、小学校や中学校にすすんでもきっと役に立ちます。
フラッシュカードは万能ではありませんが、要所要所で大きな威力を発揮します。正しい方法で子どもと一緒に楽しみながら取り組みましょう。
最終的には、いろいろな文脈の中で使われる単語の意味を何度も考えることによって、豊かなボキャブラリーは得られます。こちらの動画セミナーではその方法を詳しく説明しています。