私は25歳のとき、初の海外旅行先にニュージーランドを選びました。バスで国内を移動中、突然バスが田舎道で止まりました。
すると、何百頭のヒツジの群れが道路を横断しているのが見えました。人口よりもヒツジの数のほうが多いと言われるニュージーランドらしい光景でした。このとき突然「なぜ、sheepは複数形でもsheepなんだろうか?」と私は考えました。
sheepは複数形でもsをつけない代表的な名詞です。同じく、fishも複数形でも形は変わりません。「ヒツジと魚の共通点は何だろうか?」としばらく考えましたが、そのときは何も思い浮かびませんでした。
今回の記事は、単数形でも複数形でも形が同じ「fish」について取り上げてみます。子どもでも知っている単語ですが、実は奥が深い名詞です。
お母さんはこの記事の内容を雑談のなかで子どもに教えてあげてください。きっと興味を惹かれる子どももいるでしょう。
Contents
fishは単複同形の名詞
英語を学び始めて最初に嫌気がさすのは「名詞」に関する文法です。名詞の単数形・複数形や可算名詞(数えられる名詞)・不可算名詞(数えられない名詞)の概念は日本人には理解しがたい感覚です。
学習初期のうちは簡単です。appleは数えられる名詞(可算名詞)だけれどwaterは数えられない(不可算名詞)ことは、子どもでもほぼ理解できます。
しかし、次第に日本人の理解を超えていきます。例えばfurniture(家具)が数えられない名詞であることを知ると、子どもはもちろん大人でも混乱し始めます。
furnitureはいろいろな種類の家具の総称であるため正確には「家具類」のことを指します。だから、one furnitureとかtwo furnituresとは数えません。数える必要があるときは、a piece of furnitureとするか、two desksなどと具体的に表現します。
このように英語では名詞について独特の捉え方をしており、子どもの英語学習の負担になっています。
fishは単数形と複数形が同じ名詞
突然ですが、問題です。( )の中にfishを必要に応じて適切な形に直して入れてください。
We caught a lot of ( ) yesterday.
解答です。
We caught a lot of (fish) yesterday.
fishは子どもでも知っている単語です。注意しなくてはいけないのは、複数形になってもfishのまま(s, esがつかない)であることです。
学校のテストでもよく出るところなので、正解したお母さんも多かったかもしれません。
このように単数形も複数形も形が変わらないことを「単複同形(たんぷくどうけい)」と呼びます。
形が同じだけで単数形と複数形がある…つまり可算名詞
はじめに次の2文を読んでください。
I want some water.
ここで質問です。fishはappleと同様に数えられる名詞(可算名詞)でしょうか。それとも、waterと同様に数えられない名詞(不可算名詞)でしょうか。では、少しだけ考えてください。スタート!
正解:fishは可算名詞
形が変わらないので、waterと同じくfishは不可算名詞であると誤解する人が多いです。しかし、実際は、fish は数えられる名詞(可算名詞)です。複数形の「s(es)」が付かないだけです。
言葉だけではよくわからないので、表にして整理してみます。
表で確認してみる
単数形 | 複数形 | ||
---|---|---|---|
可算名詞
(数えられる名詞) |
apple | apple | apples |
fish | fish | fish | |
不可算名詞
(数えられない名詞) |
water | water | water |
この表からわかるとおり、fishは複数形のときにs(-es)がつかないだけで、実は数えられる名詞です。だから、次のように表現できます。
I need two fish for dinner.
一方、waterにはone, two…と数字をつけることはできません。理由は数えられないからです。この場合は、下記のように入れ物(容器)にいれて数えるしかありません。
a glass of water, two glasses of water
単複同形の名詞に見える人間の歴史
fishのように単数形も複数形も形が変わらない名詞(可算名詞)は、他にもあります。
sheep(ヒツジ)
deer(シカ)
正確に調べたわけではありませんが、群れで行動する動物や人間が狩猟対象・家畜対象として認識している動物に、単複同形の名詞が多いように感じます。毎日見て世話をしたり食べたりしているといちいち「複数形のs」をつけるのが面倒になったのかもしれません。
文法を絶対的なルールとして捉える人もいますが、それは間違っています。言葉は人間的であいまいなものです。fishの扱いは人間の都合で見方を変えているだけです。合理的な理由があるわけではないのです。その証拠に時代によって文法は変化しています。
fish, sheep, deerが単複同形であることから、人間の狩りや動物の飼育の歴史を垣間見ることもできます。
単なる知識として子どもに押し付けると英語嫌いまっしぐらです。しかし、おやつの時間などに子どもとこのような話をしながら、「なぜそうなったか」について意見を出し合うと英語への理解や興味関心を引き出せます。
スーパーで売られている魚はどうやって表す?
以前、マレーシアに住んでいるときにマーケットにいくとデカい謎の魚を切り売りしていました(歯ごたえのある白身魚でおいしいです)。
妻に買い物を頼まれたときは、店のおばさんに“I’ll take four slices of fish.”(魚4切れちょうだい)と注文すると、手際よく切り身にして渡してくれました。
切り身はa slice of fish
four slices of fishという言い方は、a slice of breadと同じ表現です。つまり、fish(魚)を数えられない名詞として考えています。
つまり下の写真のような魚は不可算名詞です。
「肉」として扱われる場合の魚は不可算名詞です。このように決まった形を持たない物質として扱われる場合、数えることはできません。このような種類は「物質名詞」と呼ばれ、他にも下記のものなどが該当します。
そのような訳で、数えるときはa slice of fish, two slices of fishと表現することになります。
魚の「種類」を強調するときはfishes
実は、魚の「種類」を強調するときはfishesと表現することがあります。例えば下記のような文章でfishesは使われます。
(この川には多くの種類の魚がいます)
しかし、この文章でs(es)を付けずにfishを使用しても間違いではありません。子どもに細かいことを教えると混乱するので、やはりfishは単数形も複数形もfishで統一したほうがよいです。
上記のように、魚をどのような対象で見るかによってfishの扱い方が変わることがわかります。生物としてなら可算名詞としてのfish、切り身で売られているときは数えられない名詞(物質名詞)としてのfishとなります。
種類を強調するときのみfishesと表現することは可能です。しかし、fishでも間違いではないのであえて覚える必要はありません。
意外な単複同形名詞
海外旅行に行くとお金を支払う場面は多々あります。そのときにふと思うのは、「お金の単位には複数形のsをつけるのだろうか」という疑問です。
日頃音読している記憶では、“one hundred yen”が普通です。 “one hundred yens”は見たことがありません。
日本のお金「円」は単複同形の名詞です。
dollarにあって、yenにはないもの
では米国の通貨である「ドル(dollar)」はどうでしょうか。
実は、dollarにはsをつけます。つまり、one dollar、two dollars、three dollars…と続きます。同じく英語ネイティブであるイギリスの通貨「ポンド(pound)」も、複数形のsをつけます。
表
頭を整理するために、下の表をご覧ください。
単数形 | 複数 | |
---|---|---|
dollar | dollar | dollars |
pound | pound | pounds |
Euro/ euro | Euro/ euro | Euros/ euros |
yen | yen | yen |
表の中に「ユーロ」があります。英語での表記で、大文字から始めるか小文字から始めるかはまだあいまいです。複数形に関してはsをつけます。
根底にある考え方
アジアの通貨には複数形でも「s」を付けません。やはり英語ネイティブの価値観は「西欧中心主義」であることが、お金の数え方からもチラッとうかがえます。
文法は数学のようにきれいに割り切れるルールなど存在しません。すべて人間の心理や思考に基づいているので、あいまいな部分や文化的な価値観が現れています。
英語を深く学ぶとこのような違いにも気づきます。余談ですが英語の普及は完全に政治的なものです。大英帝国の植民地主義や20世紀に大国となったアメリカの影響力が大きかったからこそ、英語は共通語のような扱われ方をしています。
英語中心の世界が、英語ネイティブに有利に働いていることは間違いありません。
まとめ
fishは子どもでも知っている基本単語ですが、複数形のときも「s(es)」は付きません。いわゆる「単複同形」の名詞です。
形が変わらないため、waterと同じく不可算名詞として考える人がいます。しかし、それは誤解です。fishはあくまでも可算名詞で形が変わらないだけです。
おなじfishでもスーパーで切り身として売られている場合は、waterと同じ「不可算名詞」と同じ扱いになります。また、種類を強調するときはfishesと複数形の「es」をつけることもあります。
同じく紛らわしい名詞にお金の単位があります。yen(円)には、one yen, two yen, three yen…のように複数形のsをつけません。ところが、dollar(ドル)、pound(ポンド)、euro(ユーロ)にはsをつけます。
英語を母国語としない日本人から見ると謎の文法です。背景には人間の都合だったり政治的な力が働いていたりします。このような些細なことからも英語やそれを使う人達との文化的な違い・考え方の相違を感じられます。
理屈をこねて伝えると子どもは英語嫌いになります。しかし、何かの折にこれらの話を分かりやすく伝えてあげると、子どもの英語や異文化に対する興味・関心を喚起できます。
英語を学ぶ意味のひとつは異文化理解です。言葉を通じて世界を別の視点から眺められるようになります。英語を正しく学ぶとより深く世の中を見渡せる子どもになります。