あなたは子どもの頃、スポーツをしていましたか? 一生懸命プレーしている試合中、親が「何やってんだ〇〇! もっと速く走れ!」と大声で叫ぶ声が聞こえてきて嫌な気分になりませんでしたか?
私は少年野球をしていましたが、チャンスで打てないときやエラーをしたときに父親の怒鳴り声を聞いて「自分の子どもには絶対にこんなことは言わない!」と誓ったものです。
あれから数十年後。自分が親になり、あれほど嫌だった親の言動と同じことを言ってしまいそうになる自分がいます。そんなときは子どもの頃の自分の誓いを思い出すようにしています。
お母さんが英語教育に熱心なのは良いことです。しかし、それはあくまでも子どもの立場からサポートすることが前提です。子どもを自分の所有物のように扱ったり、すべてにおいて自分の命令に従わせようとしたりするのは間違っています。
英語教育の最悪の失敗は子どもを「英語嫌い」にしてしまうことです。本来、学ぶことは楽しいはずなのに「嫌な感情」を抱いてしまったなら、それは大人の責任です。
子どもが自らの意志で「もっと英語を学びたい」と思えるようにお母さんはサポートしましょう。その際「何を心がけなければいけないのか」について解説します。
Contents
英語教育に熱心なお母さんが陥りがちな誤りとは
英語教育に熱心なお母さんに「なぜ、子どもに英語を学ばせたいのですか?」と質問すると、ほとんどの回答は次の3つに集約されます。
ひとつ目は「私は英語が苦手だったので、子どもには得意になって欲しいから」です。お母さんの英語コンプレックスが子どもの英語教育に駆り立てているパターンです。
コンプレックスが強いと子どもの英語教育に熱心になり過ぎる傾向があります。その結果、子どもの適性や自主性を無視して子どもに苦痛を感じさせる危険性が高まります。いわゆる「教育虐待」です。
ふたつ目は「これからの時代、英語を話せるのは必須だから」です。一見合理的に見える答えですが、子どもが成人する20年後の世界で何が必要とされるかなど誰にもわかりません。
私が高校生のとき(1980年代後半)社会の先生が「君たちが大人になったら衛星を通じてテレビ放送されるのが主流になる時代が来るよ」と雑談していたのを覚えています。いわゆる衛星放送(BS)です。
確かにその後すぐに衛星放送は始まりました。しかし、インターネットの出現は先生には予見できませんでした。大人ができる将来予想など現在の延長線でしかなく、まったく新しい未来など誰にも想像できません。
私は人口予想以外の未来予想はほとんど無意味だと思っています。誰にも準備できるものではなく、ただ変化に対応できるようにするだけです。
3つ目の答えは「英語ができると入試に有利だから」です。確かに英検の取得級によっては受験で加点されるなどの優遇措置があったり、大学受験では英語配点が高かったりします。
しかし、子どもの適性もわからないうちから大学進学する前提で話を進めているのは変です。また、入試の配点など小学生くらいの子どもにとっては正直「どうでもいい」話です。
「自身の英語コンプレックス克服」「時代の先読み」「入試における英語偏重」の3つの答えには共通して欠けている観点があります。それは、「子どもの立場で考えていない」ことです。
最悪なのは英語嫌いにしてしまうこと
子どもの英語教育で最悪の失敗は「子どもを英語嫌いにしてしまうこと」です。親のコンプレックスなど子どもには関係のない話です。時代の変化や入試での優位性についても、子どもには理解不能でしょう。
お母さんの意見を押しつけられて無理やり英語をやらされていたら、たまったものではありません。
英語はただの言語です。英語を主言語とする国では普段語として使われています。また、世界共通語としての役割もあり、世界中の人とのコミュニケーション手段として重宝されています。「嫌いになる」対象ではありません。
英語を通じて学べることに楽しさや喜びを子どもが感じられるように、お母さんがサポートするのが理想です。
私も親なのでお母さんの気持ちはよくわかります。私は水泳が苦手で今でもカナヅチです。学生の頃、友達から海に誘われると憂鬱でした。そのため息子には「水泳が得意になって欲しい」と強く思っていました。完全なコンプレックス型です。
しかし、息子も水泳が苦手で、プール教室に通っても全然上達しませんでした。イライラして子どもに文句を言いそうになったこともあります。かろうじて我慢しましたが、子どもに私の気持ちは伝わっていたかもしれません。
幸い指導の上手な先生に恵まれて人並みに泳げるようになり、プールを楽しいと感じるまでになりました。もしあのとき私が口やかましく水泳を押しつけていたら、むしろ私が願う方向と反対の結果になったはずです。
大切なのでもう一度繰り返します。最悪なのは子どもを「英語嫌い」にしてしまうことです。
子どもの立場で考えること
子どもの最大の利点は「好奇心が強い」ことです。この特性を最大限に活用して英語学習をさせると自発的に英語を学ぼうとします。何かに興味を持ったときの子どもの学ぶパワーは相当なものがあります。
私が小学校低学年までの子どもにおすすめしている「英語絵本の読み聞かせ」は、「楽しいストーリーを読みたい」「続きがどうなるのか知りたい」という子どもの好奇心を刺激します。
このとき英語は無理にやらされる勉強ではなく、好奇心を満たすために必要なことです。だから「英語についてもっと知りたい」という気持ちに子どもを駆り立てます。
もちろん面倒な暗記もときには必要です。しかし、その対価として「楽しさ」や「喜び」を得られるとわかれば子どもの英語学習への姿勢が異なってきます。
いったんお母さんの心にある英語への思いは胸にしまっておきましょう。そして、子ども目線でどうしたら知的に楽しく学べるのかを考えてみましょう。
最高にオススメなのが、英語の動画がたくさん見られるリトルフォックスです
英語が得意なお母さんも気をつけよう
強い英語コンプレックスが子どもの英語教育に向かうとあまりいい結果につながらないのと同様に、英語が得意なお母さんが子どもを苦しめてしまうことがあります。
これに関して私にも苦い思い出があります。私は英語が得意でしたし、かつて高校の英語教員でした。ところが自分の息子に英語を教えるとなると、本当に難しいことばかりでした。
もちろん教える内容が難しいのではありません。子どもへの接し方や教え方が難しいのです。恥ずかしい話ですが、子どもにわからない文法用語を多用したり、正確さを求めすぎて怒ってばかりしていたりしたことがあります。
また答えを与えすぎて、子どもが自ら法則を見つけ出す学ぶ喜びを奪ってしまうことも多々ありました。
子どもの英語の伸びが悪く、すぐに自分の誤りに気がつきました。そこで、全面的に指導法を見直しました。本を一緒に楽しんだり、子どもに考えさせる余地を与えたり、不正確な英語でもあえて無視したりするようになったのです。
英語が得意なお母さんも、子どもに英語を教えるときには細心の注意が必要です。
デンマークサッカー協会による「子どものサッカー指導者向け10カ条」
サッカー強豪国であるデンマークのサッカー協会による「子どものサッカー指導者向け10カ条」があります。英語とサッカーは無関係に感じるかもしれませんが、子どもに大人が何かを教えるという点では共通です。
そして忘れてならないのは「デンマークが世界でもトップクラスの教育先進国」であることです。サッカー関係者だけでなく、教育に関係するすべての大人は理解しておいたほうがいい示唆に溢れています。
10カ条の紹介
- 子どもたちはあなたのモノではない。
- 子どもたちはサッカーに夢中だ。
- 子どもたちはあなたとともにサッカー人生を歩んでいる。
- 子どもたちから求められることはあってもあなたから求めてはいけない。
- あなたの欲望を子どもたちを介して満たしてはならない。
- アドバイスはしてもあなたの考えを押し付けてはいけない。
- 子どもの体を守ること。しかし子どもたちの魂まで踏み込んではいけない。
- コーチは子どもの心になること。しかし子どもたちに大人のサッカーをさせてはいけない。
- コーチが子どもたちのサッカー人生をサポートすることは大切だ。しかし、自分で考えさせることが必要だ。
- コーチは子どもを教え導くことはできる。しかし、勝つことが大切か否かを決めるのは子どもたち自身だ。
このような10カ条が発表される背景には、サッカー指導において子どもとの接し方に問題のある大人が多いからです。日本だけの問題ではなく世界中で見られる問題です。だからこそ、大人が意識して気をつけなければいけないのです。
英語に当てはめて考えてみる
サッカー10カ条を英語教育に当てはめてみると、私たち大人の振舞いについてどうあるべきかが見えてきます。
1と5は、英語コンプレックスを持つお母さんには特に気をつけてもらいたいです。子どもには子どもの人生があるので、自分の意のままにしようとしてもいずれ破綻します。
私は4・6・9が心に刺さりました。つい答えを与えることで満足してしまい、子どもの頭で考えさせる機会を奪っていたからです。正しいことを伝えることは簡単ですが、本当に子どものためになるかどうかは真剣に考えなくてはいけません。
スイスサッカー協会の保護者むけポスター
おとなのみなさんへ
「ぼくたちのゲームを観に来てくれて、そしてぼくたちのこと、ぼくらのサッカーのことを気にかけてくれてどうもありがとう」
今日はぼくたちの1日
「ぼくたちは、サッカーをするのが楽しくて大好きなんだ。もちろん、ぼくらのうちのだれが勝っても楽しいんだ。でもぼくらにとって一番大事なのはプレーすることなんだよ」
だから、プレーをさせておいてください
「大声でさわがないでね。相手のチームや応援に対してもフェアな態度をとってね。ミスをしたからって、いちいち言わないで。そんなことを言われたらがっかりだし、言われたからってそう簡単にうまくできるようにはならないんだ」
すべてのこどもより
これはスイスサッカー協会が子どものサッカーを観戦する保護者むけに掲示したポスターの内容です。すべての大人はかつて子どもだったのに、いつの間にか当時の気持ちを忘れてしまいます。上記のポスターの内容は私が子どもの頃親に言われて嫌だったことそのものです。
私は少年野球で内野ゴロを打ち試合に負け、父親にけなされました。そのとき「大人になったら俺はこんなこと子どもには言わないぞ」という記憶がよみがえってきました。あなたにも一つくらい同じような経験があるはずです。
自分の子どもには同じ思いをさせてはいけません。
「何のために学ぶのか」の原点を忘れずに
本来「学ぶこと」は楽しいはずです。できなかったことができるようになったり、知識が膨らむと見える世界もグングン広がったりするからです。初めて自転車に乗れるようになって、生活圏が急に広がったときの感覚です。
人間の究極の目的は「幸せに生きること」です。AI(人工知能)の出現によって翻訳機能が完成され英語学習は不要になるという意見があります。本当かもしれないし、違うかもしれません。
しかし、AIには人間の学ぶ喜びを妨げることはできません。あらゆる分野で人間の能力を凌駕しても、知識欲は減退しないはずです。速く走る車やバイクが登場しても、陸上競技で速く走るために一生懸命練習する選手が消滅しないことを見れば明らかです。
私など大人になっても英語の歌の歌詞が聴き取れたり、自分で口ずさめたりすると嬉しいと感じます。翻訳機では決してこの喜びは味わえないでしょう。
人間の本能でいろいろなことを知りたいし、何かができるようになると幸せを感じます。お母さんが子どもの英語学習をサポートするときの接し方を考えるとき、子どもが「学ぶことの喜び」を感じられるように配慮しましょう。
まとめ
子どもに英語を学ばせたいと願うなら、子どもの立場で考えてあげないと「英語嫌い」になってしまう確率が高いです。英語は言語であり、そもそも「嫌い」になる対象ではありません。
例えば親子で英語絵本を楽しんでいて「続きを知りたい」欲求を満たすために学ぼうとするのが、本来のあるべき姿です。お母さんの考えや願望はもちろん理解できます。しかし、それは心の中にしまっておくほうが賢明です。
デンマークの「子どものサッカー指導者向け10カ条」を紹介しました。ひとつひとつ熟読すると、ほとんどのお母さんは一つくらい反省点が見つかるはずです。
「学びたい」「知りたい」という感情は、人間の基本的な欲求のひとつだと思います。そこを刺激してあげられるようにサポートするのが理想的な「英語教育に熱心なお母さん」の姿です。
私も一人でも多くの子ども達が「英語っておもしろい!」と感じてくれるように、お手伝いできればと考えています。一緒に頑張りましょう。