以前、国語の先生が言っていたことで印象的なことがあります。「これまで世の中の詩人は5・7・5(7・7)の俳句や短歌以外の定型詩を追求してきたが、誰も超えられなかった」
確かにその通りです。交通標語「手をあげて 横断歩道を渡りましょう」は「5・7」のリズムで、日本人なら無意識のうちに「おさまりが良い」と感じます。万葉集にはすでに5・7・5・7・7は完成されていたので、1200年以上受け継がれていることになります。
同じような「型」は外国にもあります。英語の「5パラグラフ・エッセイ」もその一つです。自分の意見や主張を書くときに、相手に伝わりやすい形式として編み出された「型」です。
世の中がグローバル化するなか、さまざまな文化的背景を持った人たちが共通のロジック(論理)でコミュニケーションを取る必要性が高まっています。そのときに、「5パラグラフ・エッセイ」は中心的な役割を果たします。
アメリカ人なら子どものころから5パラグラフ・エッセイの「型」を徹底的に学びます。日本でも作文指導である程度は扱われますが、アメリカほど深く学ぶ機会はありません。
英語をコミュニケーションの道具として学ぶなら、英語だけでなく伝えるための「ロジック」は欠かせません。Four Square Writing Methodを活用すると、日本の小学生でも簡単に学べます。
今回は、Four Square Writing Methodを使った簡単な論理展開の練習をしてみましょう。作文の宿題で困っているときに、お母さんが教えてあげると子どもは受け入れやすくなります。
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Four Square Writing Methodってどんなもの?
アメリカの小学生にエッセイ(小論文)の書き方を指導するために考案されたのが「Four Square Writing Method」です。3人の先生(Judith S. Gould, Evan Jay Gould and Mary F. Burke)によって書かれた本の中で、詳しく紹介されています。
息子がインターナショナルスクールに通っていたころ、毎週出されるエッセイの宿題に苦労していました。夏休みにこのテキストを使ってエッセイの書き方を学ぶと、「何を書いたらいいのか」で困ることがなくなりました。
Amazonの洋書カテゴリーで「four square writing method」と検索すると、このシリーズがズラリと表示されます。対象年齢別や目的別に細かく分かれているので、子どもに合ったテキストを選ぶことができます。
私が購入したのは「Four Square Writing Method for Grades 4-6」です。息子は最初から最後まで読んではいませんが、それでもエッセイの基本的な部分は学べました。
A4の紙一枚あれば、いつでもどこでもできる
Four Squareの良いところは、紙一枚とペンがあればいつでもどこでもエッセイを書くのに必要な情報を整理できることです。
子どもに教えているうちに、今では私も活用しています。この手のものでは「マインドマップ」が有名です。しかし、文章を書くときはFour Squareのほうが私は使いやすいです。
以前、娘の卒業謝恩会でスピーチ予定のお父さんが突然欠席することになり、私が代わりをお願いされました。
残り時間たったの5分でした。卓上にあった紙ナプキンにボールペンでFour Squareを書き、スピーチプランをまとめました。そのメモを見ながらのスピーチでしたが、「わかりやすかった」と参加者からほめてもらいました。
まずは、実際に言葉を入れながらFour Squareの利用法を覚えていきましょう。
5つのマスの関係性を理解するために、単語を入れてみる
初めに「Four Square」の書き方を見てみましょう。A4の紙を用意して、同じように線を引いてください。
たったこれだけです。真ん中にマスを書き、あとは外側の部分を4つに分割するだけです。1のマス(中心)は「メイン・アイデア用」、2~3のマスは「メイン・アイデアを支えるための詳しい理由や根拠用」、4のマスは「まとめ用」です。
ここでは例として「めん類」についての簡単な文章を作成してみます。
- 中心のマスは「メイン・アイデア」
最初にすることは、「メイン・アイデア」を書くことです。中心の言葉は「めん類」なので、中心のマスには「めん類」と書きます。
常に中心に「めん類」が見えるので、途中から話題がそれることはありません。
- 2~3のマスに詳しい情報を入れる
次に、2~3のマスに「めん」に関する詳しい情報をいれます。ここでは「そば」「うどん」「パスタ」を入れてみます。
中心に「めん」があります。それを囲むようにして「そば」「うどん」「パスタ」が配置されます。2~3のマスの内容は、メイン・アイデアから外れていないことが確認できます。
そば、ざるそば、モリそばを入れてしまうのはNGです。なぜなら、この場合メイン・アイデアは「そば」にするべきだからです。
- 4のマスに「まとめ」
第4のマスには「まとめ」を入れます。ここは文章にしてみましょう。
一見、「エッセイ」の形式とはまったくかけ離れた姿です。しかし、5つのマスの関係性を端的に表しています。いわば、エッセイの骨格です。話題の中心は「めん類」で、3つの詳細情報があり、まとめですべてをつなぎ合わせています。
復習します。初めに「めん類」について書こうと決めて1のマスに記入します。次に、それに関する詳細情報を2~4のマスに入れます。そして、5のマスで、まとめを書きます。
練習問題「球技」
それでは理解を確実にするために、今度は「球技」について練習してみましょう。紙と鉛筆を用意して、真ん中にマスを書いたら外側の部分を4等分にします。
まとめの文章は書けましたか?
ここまでは、超初心者向けに5つのマスがどのような関係になっているかを解説しました。次は、文章をそれぞれのマスに入れていき論理的な文章を作る過程について解説します。
5つのマスに文章を入れて、つなげてみよう
ここからは、5つのマスに文章を入れていきます。これをマスターすると、簡単なエッセイなら書けるようになります。英語のエッセイを書く場合は、当然英語でセンテンスを書いていきます。
小学生は普段の作文に応用するためにも、日本語で慣らしておきましょう。英語力が向上してきたら、英文で書くことにも挑戦しても遅くはありません。
- 中心に自分の意見を入れる
真ん中のマスにメイン・アイデアを入れます。今回は文章で書いてみましょう。例として「教科書をすべて持ち帰るのはやめるべきだ」という主張で書いていきます。
- 2~4のマスに詳しい情報を入れる
メイン・アイデアを書いたら、この主張を支えるための詳細な理由・根拠・データなどを第2~4のマスに入れていきます。それぞれのマスには同じ内容のことは書かないように注意しましょう。
2のマスには「ランドセルが重すぎて、背骨に悪影響を与える」と書いてみます。実際、教科書が大型化していたり内容が増えたりしたことにより、全体の重さは昔よりも重くなっています。
3のマスには「家庭学習にほとんど使わない音楽・図工・道徳の教科書は学校に置いておいても問題ない」と書きます。
国語の教科書は宿題の音読に使用するので、持ち帰る必要があるのはわかります。算数は計算方法の確認に必要かもしれません。しかし、その他の教科については、必要なときだけ家に持ち帰れば充分です。
4のマスを埋めるのは、少々大変です。2・3のマスに見劣りしないだけの理由や根拠を示さないといけないからです。
4のマスには「教材のデジタル化を進めれば、タブレット端末で見られるようにできるから」と記入します。可能な新しい技術を取り入れて、不便を解消する提案です。
ここまでくればあと一歩です。
- 5のマスにまとめの文章
5のマスには「まとめ」を書きます。まず、真ん中のマスで示したメイン・アイデアを繰り返します。このことにより、最初と最後でブレない(一貫性のある)構造を作ります。
「教科書をすべて持ち帰るのはやめるべきだ」
そして、2~4のマスで示した理由や根拠、提案を簡潔に示します。
「教科書をすべて持ち帰るのはやめるべきだ。なぜなら、重いランドセルは子どもの背骨に悪影響を与えるし、持ち帰る必要のある教科書は数冊だけだし、タブレット端末に教科書の内容を収められるからだ」
ここまでの文章をすべてまとめてみます。
第一の理由は、重すぎるランドセルは子どもの背骨に悪影響を与えるからだ。
第二の理由は、家庭学習にほとんど使わない音楽・図工・道徳の教科書は学校に置いておいても問題ないからだ。
第三の理由は、教材のデジタル化を進めれば、タブレット端末で見られるようにできるからだ。
結論として、教科書をすべて持ち帰るのはやめるべきだ。なぜなら、重いランドセルは子どもの背骨に悪影響を与えるし、持ち帰る必要のある教科書は数冊だけだし、タブレットを導入すれば紙の教科書は不要になるからだ。
文章としては洗練されていません。しかし、作者の主張は明確に伝わります。これが5パラグラフ・ライティングの威力です。
実際はもう少し自然な日本語で文章を書きます。最後のまとめには、冒頭をそのまま繰り返すのではなく、未来志向にしたり作者の意志を加えたりします。
より自然な日本語で肉付けすると下記のようになります。
毎日の登下校でランドセルを下すとホッとする。なぜならランドセルがとても重いからだ。ランドセルが重くなる主な原因は教科書を毎日持ち帰るからだ。僕は「教科書をすべて持ち帰るのはやめるべきだ」と思う。
第一の理由は、重すぎるランドセルは子どもの背骨に悪影響を与えるからだ。新聞で読んだがひどい場合には背骨が曲がってしまうらしい。
二つ目の理由は、音楽・図工・道徳の教科書は家に持ち帰る必要がないからだ。宿題で使うから家に持ち帰るのであって、必要もないのに持ち帰るのはおかしい。
最後の理由は、一人一台タブレット端末を持てば、すべての教科書のデータを見られるようになるからだ。
結論として、今すぐ政府は教科書を毎日持ち帰らなくてもいいと学校に指示を出すべきだ。工夫すれば軽く出来たりタブレット端末に収めたりできるのに、健康を害してまですべての教科書を毎日持ち帰るのはどう考えても問題だからだ。
小学生の子どもの作文なら、このレベルでも充分です。文章を長くしたければ、導入部分や2~4のマスの情報を膨らませればいいだけです。
練習問題「遠足は楽しい」
Four Squareを使って文章のプランを考えてみましょう。メイン・アイデアは「遠足は楽しい」です。簡単な文章でいいので、それぞれのマスを埋めてみましょう(模範解答はありませんが、自分で試してみて下さい)。
英語ではどうなる?
英語で書く場合も基本的なやり方は同じです。エッセイで頻繁に使われる単語やフレーズがあるので、下にまとめておきます。
2のマスの冒頭にFirst of all、3のマスの初めにSecondly、4のマスの初めにFinallyが対応します。最後のまとめ(5のマス)の冒頭には目印としてIn conclusionで書き始めると「まとめが書いてあるな」と読者はすぐにわかります。
英語でエッセイを書くのは小学生では難しいと思います。しかし、エッセイで必要となる論理展開を身につけておけば、英語力が備わったときにスムーズにエッセイを書けるようになります。できるところはさっさと進めておきましょう。
英検3級からはライティングで意見を述べることが求められます。勉強法がわからない場合は、オンライン英語塾(1対1の完全個人指導)にご相談ください。
まとめ
最初は、単語をそれぞれのマスに入れてみて最後に一つの文章を作ることから始めてみましょう。これでそれぞれのマスの関連性を理解できます。
慣れてきたら、簡単な文章を入れていきます。真ん中のマスには作者の主張を入れます。それを常に頭に入れながら、2~4のマスに詳細(理由・根拠)を埋めていきます。
最後の5のマスで、最初の主張を繰り返してから、もう一度すべての理由をもう一度簡単に示します。「まとめ」です。
子どもは「英語エッセイの書き方」として学ぶ必要はありません。日本語でもエッセイの論理展開は充分に身につきます。作文の宿題で困っているときに、お母さんが教えてあげるといいでしょう。
英検を定期的に受験している子どもなら、3級以上のライティングでエッセイライティングの素養を試されます。文章を書くときだけでなく、スピーチやプレゼンをするときにも大変役に立つスキルです。
日頃の作文でも応用できるように、子どもに上手に教えてあげましょう。