私の父は九州の出身です。私は関東で育ちましたが、ときどき父の言葉で妙にひっかかる表現がありました。その一つは父が母に向かって言う「じぶん」でした。「じぶん、これから買い物行くの?」という具合でした。
私にとって「自分」は私(I)のことです。しかし文脈上、あきらかに父は「あなた」の意味で「じぶん」と呼びかけています。実は西日本では割と普通の表現であることを知ったときは本当に驚きました。
ここでのポイントは、視点の移動です。父の「じぶん」は、母の視点に立った「わたし」のことです。日本人だけでなく外国人も同じような使い方をすることから、人間にはときどき相手の立場になって語りかける性質があるようです。
今回のテーマである「come」は基本動詞ですが、ある条件が揃うときまさに「視点の移動」が適用されます。そのため反対の意味を持つ「go」と混乱してしまいます。
comeとgoは超基本単語です。しかし、使い方にはコツが必要です。日本で育った子どもは日本人の発想で英語を話そうとするため間違えがちです。状況を与えながら考えていけば子どもにも理解できるので、お母さんからきちんと説明してあげましょう。
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comeを使うときは「相手の立場で」考えよう
普段、私たちは自分の視点から物事を見ています。そして言葉を話すときも基本的には自分から見た話をします。
ところがたまに相手の視点に意識を切り替えて話すこともあります。例えば、お母さんが子どもに向かって「お母さん、おやつを冷蔵庫に入れておいたからあとで食べてね」と語りかけたとします。
このときお母さんは自分のことを「お母さん」と呼んでいます。これは明らかに「子どもから見た視点」に意識を変化させている証拠です。西日本の人は相手に向かって「じぶん(あなた)」と話すのと似ています。
英語の基本動詞であるcome(来る)を使うときも、話し手の意識は「相手の視点」に切り替わることがあります。そのため動詞のgoと混乱してしまう子どもが多いです。ポイントさえつかめば子どもにも簡単に理解できます。
comeの意味は「来る」でOK
試しに英英辞典(オックスフォード新英英辞典)でcomeの定義を調べてみましょう。
(話し手に近いほうへ移動する)例文:Jess came into the kitchen.(ジェスはキッチンに来た)
この例文の語り手は「私」です。私はすでにキッチンにいて、そこにジェスが来たからcomeを使って表現しています。「話し手(=私)のほうに移動する」に相当する日本語は「来る」で間違いなさそうです。
では、相手がキッチンにいて呼ばれたとき「僕は行くよ」と答えるときはどうでしょうか? 「行く」のだから「I’m going.」と考えがちですが、正解は「I’m coming.」です。その理由について以下詳述します。
相手の立場(聞き手の視点)に立つのがポイント
聞き手(you)のところへ行くときはcomeを使います。なぜならこの場合に限っては、視点が聞き手(you)に移動するからです。
相手のほうへ移動するときに限っては「相手からの視点に移る」のです。
大切なポイントなのでもう一度繰り返します。相手のほうへ移動するときに限っては、「相手からの視点に移して」comeを使用します。
come homeそれともgo home?
理解を確かなものにするために、少し頭のトレーニングをしましょう。お母さんは子どもと一緒に考えてみて下さい。
(状況)あなたは友達の誕生パーティーに呼ばれました。
問題1.出かける前に、お母さんからWhere are you going?と質問されました。正しいほうを選びなさい。
I’m (going/ coming) to the birthday party.
問題2.誕生バーティ―に向かう途中、誕生日を迎える友達から「今どこ?」と電話がありました。答え方で正しいほうを選びなさい。
I’m (going/ coming) soon.
問題3.パーティーの途中、遅れてくる予定の友人Kから電話がありました。「あと5分でそっちに行くよ」という内容でした。電話を切ったあと、パーティー会場の仲間に「Kはあと5分で着くよ」と伝えるとき、どちらが正しいでしょうか?
K is (going/ coming) here in 5 minutes.
問題4.誕生パーティーも終わりが近づき、そろそろ家に帰る時間になりました。友達に「もう家に帰らないと」と伝えるとき、正しいほうを選びなさい。
I have to (go/ come) home now.
問題5.家のお母さんから電話があり「そろそろ帰らないとダメよ」と言われました。「もうすぐ家に帰るよ」と伝えるとき、正しいほうを選びなさい。
I’m (going/ coming) home soon.
解答
解説:聞き手はお母さんです。パーティーの場所は友達のところです。私のところに来るわけでもなく、聞き手のお母さんのところに行くわけでもありません。したがって離れた場所に行くので「going」が正解です。問題2.coming
解説:聞き手はあなた(友達)です。あなたの方向へ行く場合は、「あなた」に視点を移します。したがってcomingが正解です。問題3.coming
解説:これはcomeの本来の意味「(自分のほうへ)来る」意味なので、comingが正解です。
問題4.go
解説:家に帰るということは、聞き手からも自分のほうにも向かわないのでgoが正解です。
問題5.coming
解説:聞き手(お母さん)のほうへ向かうので、相手の立場に切り替えます。よってcomeが正解です。
comeとgoの使い分けはできましたか? ひとつだけ見分けるコツをお伝えします。それは「to you」を付けられるときは「come」を使う、というルールです。
例えば、ホテルで滞在中、フロントから電話がありました。「フロントで〇〇さんがお待ちです」といわれて「すぐに行きます」と伝えたいとき
となります。
相手の立場になって動詞を使う感覚は日本語にはない発想です。子どもが慣れるまでは時間がかかるかもしれません。しかし、日常的に頻繁に使う単語なのでマスターできるようにサポートしてあげましょう。
まとめ
comeは超基本動詞で意味は「来る」で間違いありません。基本的には「自分のほうへ移動する」ということです。ところが、自宅で待つお母さんに向かって「すぐに行くよ」の場合はgoではなくcomeを使います。I’m coming soon.が正解です。
comeとgoの使い分けを難しくしているのは、「あなたのほうへ移動する」条件のときのみ「視点が相手に移動するから」です。聞き手であるお母さんから見れば私は「来る」のでcomeを使用します。
一度理屈を理解し、あとは状況のなかで瞬時に使い分けができるようにトレーニングするしかありません。もし子どもの英語を聞いていて変だなと感じたら、お母さんからわかりやすく説明してあげましょう。